染め風景・涼しげな無線友禅と最近の話題

 
手描き友禅の中でも、糸目糊を使わず水彩画のように筆描きする技法を無線友禅と呼びます。
白生地が濡れた状態で無線描きすると、染料が滲んで柔らかい仕上がりになります。これを濡れ描きとも呼び、薄くふんわりして夏向きです。


   こちらが濡れ描きしているところ。
糸目友禅の振袖や訪問着の雰囲気とはまったく違います。

 霧吹きが写っていますが、生地が乾かないように霧を吹き付けながら、花や葉を描いていきます。ぼんやりした感じを出すことができます。
 この猛暑、何事も少しでも涼しげに。

最近の話題を少々。

その一出光美術館の「田能村竹田展」を観てきました。
末の文人画家ですが、実は知らない名前でした。
ポスターに写る作品の細かい表現に惹かれて行ってみました。



 文人画というとササッと筆を走らせた水墨画というイメージがあります。そういう作もありましたが、こんな細かい画も!


   梅花書屋図(部分)

 塀の積み石から梅の老木の表現まで、本当に細かい水墨画でした。



この蘭の画はいかにも文人画という感じですが、蘭の描き方は可愛らしい感じで、画面に蘭で流れを作っているところが、着物の模様のようでした。

一番気に入ったのはこちら。


   目撃佳趣画冊(部分)

 この題は「よい趣の風景を観てスケッチした」という意味だそうです。
田能村竹田は、漢詩人、歴史家の頼山陽と親交があり、この画冊は一緒にスケッチ旅行をした時に描いた画をまとめたもの。つまりスケッチブックというわけ。
 この川辺の画はその中の一点です。川面をおおう葦が細かく柔らかく、
小さい作なので、かがみ込んで観ましたら、色も使い分けて描かれていました。
涼しそうな画なので、よけい気に入ったのかもしれません。(^^;)
添えられた漢詩を読む教養がなく残念でした。

 出光美術館はお茶の無料サービスがあり、鑑賞の途中で一服することができます。休憩所からは皇居のお堀が眺められて、冷たいお茶を片手にゆっくり座ることもできます。
 よい美術館です!

その二、この夏のよもやま話。

 今日、8月9日は長崎の原爆記念日。
先立つ8月6日には映画「黒い雨」の放送がありました。井伏鱒二原作のこの映画はご存じの方も多いことでしょう。爆撃直後の広島を逃げ歩いた主人公(演じるのは元キャンディーズの田中好子さん)が何年も経ってから原爆症に罹って亡くなってしまうお話です。
 毎年この時期になると放送されます。観るべきだ、と思いつつも、明るい気持ちになる映画でない事はあきらかなので、いつも先送りしてきました。
でも戦後70年、実は「戦前」なのでは…という不安の絶えない今年の夏ですから、思い切ってテレビの前に座りました。
 被ばくの恐ろしさは勿論ですが、爆撃直後の広島市内を再現した映像はショックでした。考えてみれば、東京下町の空襲を逃げ延びた両親(当時中学生)から、聞かされ続けた情景と似ているのでした。「アメリカのB29が空いっぱいに飛んできてね」と聞かされて育った私は、空襲の恐ろしさについて「知っている方だ」と思ってきました。でも、この映画を見ますと、「両親が見たのは、これほどの惨状だったのか…」と今さらながらに思い…何とも言えない気持ちでした。
どのようだったか、なぜそうなったのか。
忘れてはいけない事、知るべき事、伝えなくてはならない事が沢山たくさんありますね……。
ぼかし屋の染め風景 | 09:09 PM | comments (x) | trackback (x)

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