寅ちゃんの振袖姿

 
寅ちゃんの振袖

放送中のNHK朝の連続ドラマ「寅に翼」が人気ですね。ぼかし屋も録画までして見逃さないようにしております。
今は司法の判事として活躍中ですが、ドラマ開始間もない時期の放送から主人公の兄の結婚披露宴に登場した礼装の着物姿についてのお話です。
この時代の着物の話をするには欠かせない経済的背景をお先に案内しますと…

寅ちゃんは父が銀行員。子供を女学校に行かせ、振袖を誂えてレストランでお見合いをさせ、お屋敷ではないものの塀を巡らせた戸建ての家に住み、女中さんはいませんが、テーブルと椅子で一家揃って食事をするくらいの裕福な暮らしです。
朝ドラの先輩、「おしん」と寅ちゃんは同世代であることを思えば、ずいぶん恵まれた育ちだったと言えますね。


立派なホールでの披露宴。
朱色の振袖姿が寅ちゃん。新郎の妹、未婚女性として振袖姿
現在は花嫁花婿の母親だけ黒留袖ですが、かつては列席する既婚女性は留袖か五つ紋付きの色無地でした。寅ちゃんの左側に二人、黒羽織の女性が見えますよ。写っていませんが、紋付きの黒羽織の下に紋付きの色無地を着ているはずです。色無地の五つ紋付きは現代でも格式としては第一礼装なのですが…おめでたい席で見かけることはなくなりました。今となっては地味過ぎるのですね。不祝儀の席ではまだお見掛けします。

同じ黒留袖でもかつては年齢によって柄行きが違いました。
同じ場面に写っていた中高年女性向けの柄付けです。
裾の方に少しだけ模様があったり、


前の端、衽側にだけ模様があったりしました。


「裾立ち上がり1尺の柄付けで」と注文されると、模様は裾から1尺の高さに止めるという意味だったと聞いた事があります。今ではあり得ない注文ですね。今は年齢に関係なく裾から2尺位に模様の一番高い所がきます。華やかな方がいいですもんね(*’▽’)

さて勝手にお借りしたテレビ画像を使わせていただきまして、


寅ちゃんの振袖も五つ紋付きですよ!胸の紋をよけるように柄付けされています。


一つ紋は背中心に、
三つ紋ですと両腕後ろ側にも、
五つ紋ですと前側、両胸にも家紋が付いています。
振袖から紋が消えたのは戦後、着物需要が増え型染の友禅が量産されるようになるにつれてのことでした。


披露宴でお酌して回る寅ちゃんの後ろ姿。
背中心に紋が見えますね。
ちなみに帯の結びは「立て矢」振袖の時にとても人気のあった結び方で花嫁さんの帯結びでもありました。今あまり見かけないのは結ぶのが難しいからかもしれません。


横から見た寅ちゃん。
袖の長さにご注目を。短めですね。おそらく2尺5寸かと思います。
今の振袖は3尺(大振袖)が普通ですが、かつては2尺や2尺5寸といった中振袖が一般的で、好みや体型に合わせて袖丈は色々選べたのです。その方がよかったなと個人的には思います。やはり量産体制の中で消えてしまった選択肢なのでしょう。

ドラマの寅ちゃんの振袖姿は時代の着物ファッションをよく写していると思いますが、一点だけヘアスタイルはちょっと不満です。成人女性が前髪を額で切りそろえることは当時まずなかったはず。前も後ろもロングヘアで束ねるか結うかしていたはずです。


藤島武二の明治時代の作品「櫻の美人」
寅ちゃんの昭和初期もお嬢さんの正装はほぼこんな感じだったはずです。前髪も結い上げでいます。それから帯もご覧下さい。立て矢結びです。

最後に寅ちゃんの画像ではないのですがこちらを。


朝日新聞4月26日掲載から。寅ちゃんの年齢がだいぶ上がってからの1967年、ハワイへ旅立つ集団新婚旅行の一団。


袖の長さが色々なのが見えるでしょうか。
訪問着の長めの袖は1尺5寸くらいでしょうか。こうして見ると華やかな着物の袖を好きな長さに仕立てていたと分かります。振袖と訪問着の境目はない感じです。

それにしても豪華な写真ですね。解説によればJTBと女性週刊誌が企画したハワイ新婚旅行で参加費は5日間で1組25万円。キャリア官僚の初任給の約10倍だったそうです。
よく考えますと、すっかり円安になってしまった今、ハワイへ飛び良いホテル、よい食事を楽しめば新婚さん二人で200万円以上みておく必要がありそうですから、半世紀の間に¥通貨の価値は上がって下がって元に戻ってしまったのですね、悲しい(;一_一)
もう二度と行けないハワイ…なのでした。


着物あれこれ | 11:05 PM | comments (x) | trackback (x)

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