2019年06月

 
 
2019年6月15日の朝日新聞の記事の紹介です。



 手漉き和紙の製造に欠かせないトロロアオイを生産してくれる農家が、このままではいなくなってしまうという記事です。
和紙の原料のコウゾ。そのバラバラの繊維をまとめるのにトロロアオイから取る「ねり」が必須なのに、重労働のわりには高くは売れないことや農家の高齢化もあって、わずかに残ってくれていた生産農家が作付けを中止すると表明したのだそうです。
 悲しいニュースです。農家のご事情も重々…

和紙は手描き友禅にも欠かせません。代表例では、
真糊(米粉と糠から作った糊)を絹地に引く時に使う道具、渋筒(しぶづつ)


 上から伏せ糊用サイズの使い古し(繊維が強くまだまだ使えます)
伏せ糊用の新品、そして糸目糊用の新品。

 使い古しの先端には口金がついています。新品も使う時の必要性に合わせて先端を切り口金を咬ませて使います。水分のある糊を常に一定の柔らかさ(含有水分)に保つのに厚い和紙で作られた筒が向いているのです。柿渋を塗って強度を高めているので渋筒と呼ばれています。
筒と一緒に写っているのは渋札(しぶふだ)
新品の先端を紙縒りして紐状にし、名前を書いて絹地の端に穴を開けて通しておきます。
蒸しや洗いといった他の業者さんにお願いする工程の時に迷子になるのを防ぎ、希望する作業内容も書いておきます。蒸気や水をくぐり抜け最後まで生地に付いていてくれるのは和紙だからです。


真糊による伏せ糊作業風景です。


渋筒が2本見えます。先端の太さを変えて糊を付けたいところの形状に合わせて使い分けます。霧吹きや水、濡れ布巾も、常に使いながら作業します。

 そうそう!和紙といえば着物を保管する「たとう紙」も忘れてはいけないですね。湿度から守ってくれるのはもちろんですが、着物を包んだ状態で持ち運びのためにザックリと三つ折りにしても破れもせずに中の着物をシワシワから守ってくれるのは、やはり和紙だから。

 記事によれば、和紙業界として文化庁に生産支援を求めているものの、「具体的対応は決まっていない」そうです。
ご存じの方も多いと思いますが、日本のお役所はまずこうした事に資金を出しません。
伝統文化、伝統工芸で、普通に民間任せにしていれば絶滅するだけというものに、遺す価値があるという共通理解が得られるなら、経済的な支援や、ドイツのマイスター制度のような制度的支援をすべきだと思うのですが。
日本の国の制度でそれらしい支援は、文楽や歌舞伎を下支えする人を養成する学校があることくらい。他はまったく…
天然素材だけで製造する手漉き和紙が失われたら…
室町以来の日本画の掛け軸や屏風など、100年から150年に一度は裏打ちの和紙を剥がして新しく貼り直さなければ、次世代に遺せないと聞いたことがあります。
日本の文化工芸の基礎のような手漉き和紙、無くなってよいと思う日本人はいないでしょうに!!

手描き友禅制作に必要な道具、材料でも危機に瀕しているものは沢山あります。
材料だけでなく生地や糸も
裾回し(着物の裏地、八掛とも)の数少ない製造業者さんの一軒が廃業し、裾回しの品不足、品質劣化が懸念されるというニュースが友禅業界に届いたのはごく最近のことでした。


着物あれこれ | 11:39 AM | comments (x) | trackback (x)

往年の大ヒットドラマ「おしん」をNHK BSで再放送中。
当時は見ていないので、この機会に毎朝見ております。

戦前の小作農の貧しさや商家の奉公人の過酷な労働、労働でなく奉公だから限りなくタダ働きに近い事等々が描かれていますが、当時の日常風景も随所に見られます。

昨日の放送で面白い場面がありました!(^^)!
おしんが着物を洗い張りするのです。女主人の絹の小紋。


まず解く。台所の立ち仕事の合間に。

隣家とのすき間のような庭で、洗った生地に刷毛で糊付けしているところ。


おしんが持っているのは引き染め用の五寸刷毛
今、東京手描友禅では良い刷毛は京都の製造業者の物を取り寄せているのですが、かつては東京でも製造販売されていて誰でも手軽に買えたのでしょうね。


糊付けしてピンとさせた生地を縫い直す。今度は夜なべ仕事で。
解くのと違い、まとまった時間座り込まないと仕立ては出来ないからでしょう。

着物は基本的に解いて生地の状態に戻さないと洗えません。
解く、生地を縫い合わせ反物状に戻す
それを洗い乾かす
そのままではヘナヘナなので生地に糊をつけて張りを持たせる。
張り手に生地の端と端を挟んで引っ張っておき、刷毛で液状の糊をつけていくのです。そして湯のし屋さんに出して生地巾を整えた後で仕立て直す、以上が工程です。

昔は家庭でも洗い張りや簡単な染めをしたと聞きますが、ドラマとはいえ映像で見ると実感がわきました。
このような引き染めに含まれる作業は馴染み深いはずですが…
この映像でみて初めて気付いた事が…

今は当然のように使われているプラスチック製のバケツがこの時代には無かったこと!
おしんは何度も腰を屈めて足元の木製たらいに刷毛をつっこみ糊を含ませ直しています。

プラバケツは軽くて、取っ手が付いていていますから、糊なり染料なりを入れて左手でぶら下げながら右手で刷毛を動かせるのです。左手は取っ手を持ちつつ生地も押さえられます。
下に置いた盥までいちいちかがむなんて大変(>_<)
想像しただけで腰が痛くなりそうです。
作業しながら生地に沿って移動するのに、盥では付いてきてくれません…
仮に木製の桶に麻縄で取っ手をつけたとしても…重い!
プラバケツが無いというだけで、現代の引き染めとは似て非なる労働です。

それにしても、おしんが刷毛を動かす姿はバッチリです。


確かにこの位かがみ、足も踏ん張り、手も大きく動かすのです。
実際にしている所を観察するか、教わるかしなければ出来ない動作でした。


かまどの火と刷毛の音だけが聞こえる無音に近いシーン。とてもきれいでした。

このブログのために画像をトリミングしていて気付いたのですが
画面左、かまどの上方にかかっている赤い団扇
まったく同じ物がぼかし屋にもあります!


ウン十年前に渋谷の画材屋さんで買い、揮発地入れなどに便利に使い続けているものです。
いかつい大きさで大風量です。
団扇と一緒に写っているのは伸子針
張り手で縦方向に張った生地を、横方向にもピンとさせるための竹針です。

染料がついて汚れたものを洗って干しているところでした。

最後にぼかし屋の糊張り風景


フノリ地入れと呼びます。
引き染め専業の業者さんを除けば、今も細長く隙間のような所でする作業です。
友禅染は人の多い街中の伝統工芸なので、たいてい空間事情は厳しく、狭くチマチマした場所が舞台です。もちろんぼかし屋も団地の一室(^^;


着物あれこれ | 07:33 PM | comments (x) | trackback (x)
 

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