東京友禅は、ぼかし屋友禅へ

 
手描き友禅の染め作業に使う材料は、高田馬場界隈の材料屋さんか、京都の染料屋さんから取り寄せております。
今日のブログを「京都からの便り」という風流なタイトルにしたのは、京都の染料屋さんから届いたばかりの宅急便の箱に、緩衝材として「京都新聞」が詰め込まれていたからです。
地域版がクシャクシャで出てきたりすると、明らかに関東圏の新聞とは話題が違います。まるで京都からのお便りのように思われて、いつもシワを伸ばしてイソイソと読みます。
今回は昨年の12月19日付け。



主なところでは、「イチョウに大根干し1200本」と
「悲運の画家たち展」の案内記事。

「イチョウ」の方は、八幡市の円福寺で恒例の大根干しが始まったというもの。
シワシワですが、写真をアップにしました(^^;)


専用の干場や、軒下に干すのはよく見かけますが、大根を大木に直接吊るす風景は初めて見ました。なるほど、干場を作る手間が無く、落葉しているから風通しも日当たりもよいという訳ですね。

その隣の記事は宮津市岩の鼻の海岸に3mもあるダイオウウイカが漂着した話題。深海に棲むという巨大イカ。
その後ろの記事が「悲運の画家たち展」


素晴らしい作品を遺しているわりには知名度が今一つ高いとは言えない画家を紹介するもので嵐山の福田美術館の展覧会だそうです。
長沢芦雪(ながさわろせつ)や木島櫻谷(このしまおうこく)など。
日本美術ファンにとってこの二人は重要人物ですが、葛飾北斎や尾形光琳のような「誰でも知っている名前」ではありません。
二人の名前は初耳という方へ。紹介記事はコチラです。
手持ちの切り抜きから。朝日新聞「美の履歴書」より。代表作が紹介されています。





京都新聞に戻りまして、記事は他に、
比叡山の夜景を楽しむバスツアーの紹介。
長浜市、米原市、彦根市が市内に設置している「石田三成に因んだ柄のマンホール蓋」と同じデザインのコースターを作って配布するお話。
などなど… 歴史の資産がたっぷりある京都地方ならではですね。
うらやましく思いつつ、伸ばして読んだ新聞は折りたたんで資源回収袋へ。

そうそう!
友禅工程のうち、蒸し、水洗い(友禅流しにあたる工程)をお願いしている丸京染色さんからカレンダーを頂いたので入口に吊るして使っております。



これも京都の便り。行事のところを拡大しますと、


きちんと比べてはいませんが、初薬師から始まって初天神までの行事、特に24日の初地蔵は東京には無いことで、私には必要ない情報ですが、楽しい情報です。

ぼかし屋はなぜか京都にご縁があり、このホームページの制作依頼からこちら、サーバーの利用などで、ずっとお世話になっている(株)リュームさんも偶然ながら京都の会社。時々担当さんと電話で話すと京都のイントネーションを楽しめます。


季節の便り | 10:48 PM | comments (x) | trackback (x)
東京手描き友禅の染め工程の中で、一番映える花形工程が模様の色挿しです。
今回は先方のご希望で上半身は赤い大輪のバラだけ。裾模様が緑や紫を主体にしたカンパニュラの模様だったのとは対照的で、振袖でなければ実現できない柄行きです。



紅色系、朱色系、その中間と3通りの赤にそれぞれ濃淡を3段階と極薄いピンクも準備。濃淡ぼかしするためです。


色挿し方法に決まりはなく制作する人それぞれに流儀もあります。
ぼかし屋ではこのような大輪の花の場合は、花びら一枚ずつぼかしていきます。



身頃の部分を作業机に並べ、左右を確認します。色がつながっているか、全体としてバランスがよい濃淡になっているか。3種類の赤の色合いの配置もバランスよく!
交通安全ではありませんが、「指さし確認」しています。



この写真では、生地の端(伸子で張られた部分の上下)が巻き込んであるのがご覧になれます。
着物の身頃の生地は足首から肩を越え、また足首を覆う位置まで一つながりで、おはしょり部分も含め3m以上。長~いのです。円滑に作業を進めるために、「今は染めない部分」は巻き取って留めておくのです。
こんなふうに。


巻いて洗濯挟みで留めます。糸目糊がよく見えています。


 裏からみるとこんな感じ。色挿しが済んでいる部分は裏から見ても同じ色が染み出ています。手作業で色挿しした証拠です。


巻き込み部分を晒や手拭いでカバーしてあります。これは作業中に染料が飛ぶなど汚れがつくのを防ぐためです。


生地がコンパクトになって伸子を持ちやすく、この状態で色挿し作業するのが理想です。ただ色が乾いていない、色を見ながら作業する必要があるなど、長い生地を引きずるように作業する場合もあります。


ほら、上の方が伸子に張られていますが、下の方は伸ばしたまま。この写真の場合は色合いの確認が必要で伸ばしたままとなっています。
そうそう、赤い色がついた部分にビニールが貼られているのにお気付きでしょうか。染料は乾いただけで蒸していない時は生地に定着していません。擦れて他の部分に染料が移るのを防ぐためです。
色を塗るだけでなく、アレしたり、コレしたり。
色々忙しく色挿します(^^;)


ぼかし屋の染め風景 | 06:46 PM | comments (x) | trackback (x)
今日の朝日新聞朝刊の報道から。




日本の伝統的木造建築を作る技術がユネスコ無形文化遺産に登録されることが決まったというニュースです。
これまで法隆寺や姫路城のように建造物は世界遺産として登録されていましたが、今回はそれを作る技術に陽があたったということで、嬉しいことです。


記事によれば「建築木工」「檜皮葺、柿葺」(ひわだぶき、こけらぶき)漆喰や土で壁を塗り上げる「左官」などの技術と、材料の生産保存の技術も含まれているそうです。

技術という「縁の下の力持ち」が登録される嬉しいニュースであると同時に、そうして保護しなければ消えてしまう恐れがあるということなので、少々複雑です。

ぼかし屋の属する「東京手描友禅」も絶滅危惧種(^^;)
ワシントン条約でも、ユネスコでもいいので守ってくれないかしら~~
冗談はさておき、
この記事に関連して、同じく絶滅が危惧されている手描友禅の道具類を紹介します。
手描友禅の技術そのもの以上に、それを支える道具は保護を必要としています。



右から、渋筒、面相筆、丸刷毛、染め筆(染料筆)、牡丹刷毛、染め刷毛(三寸刷毛、五寸刷毛)、片歯刷毛
     ※呼び名はところにより違ったりします。
渋筒は和紙に柿渋を塗り固めて円錐形に作られており、先端につけた口金から糊を絞り出して使います。手描友禅だけでなく、模様を線描きする藍染めや、鯉のぼり、大漁旗といった糊防染する染色でも使われます。
和紙そのものが作り手は減る一方で、和紙の中でも特殊な形状の渋筒の将来が不安です。
そうそう、
友禅の道具ではありませんが、着物を仕舞うのに使う畳紙(たとうし)も本来は和紙で作られます。かつては見事な手漉き和紙の畳紙がありましたが、もうまったく見かけません。機械漉きの和紙の畳紙さえ貴重になってきました。
刷毛、筆はいずれも職人さんが頼りの貴重な技術で作られています。動物の毛を選別し束ねるという細かい作業です。


手描友禅の染料には粘り気がなく水と同様にしゃぶしゃぶです。刷毛と筆は保水力がないと、つけた染料がボタボタたれるばかりで綺麗に描けない、思ったように塗れないことになってしまいます。
組合を通して京都の染料店、川勝さんから購入していますが、これでなくてはならない!筆と刷毛なのです。一つひとつ制作して川勝さんに納めてくれている職人さん方、誠にお世話になっております。<(_ _)>

実は、友禅染に関連して一番心配されているのは紙青花。絹地に下絵を描くときに使う染料で、水で流れ落ちるのが特徴です。原料の生産農家が無くなる危機を迎えています。
来月にも詳しく紹介する予定です。


東京手描友禅の道具・作業 | 11:02 PM | comments (x) | trackback (x)

モナコ公国の手描友禅振袖を製作するにあたり、国旗の赤白の色で地色とすることと、模様としてバラ、カンパニュラ、それに王宮を描くことというご希望がありました。
ネット検索やモナコを取り上げたテレビの画像や本で王宮の形と立地を調べて今回の図案の参考にしました。

一番よく見かけた角度で撮影された王宮の写真はこちら。


断崖と言っていいほどの急斜面の上にある平地を利用してお城が作られています。中世以来の歴史あるお城だそうです。単なる王宮ではなく要塞としての機能のあるお城のようですね。

崖の手前が森であることを利用して、振袖の裾模様は手前にカンパニュラの群生、その向こうに森と遠景にモナコの王宮を描きました。


本物の色は参考にしますが、あくまでも着物の模様なので綺麗に見える範囲の色を使います。



写真を見ると屋根に赤が使われていまして、模様の色合いとして貴重です。

最後の仕上げで王宮には銀彩も使うので、その点も考慮した色挿しです。

途中で生地を横に並べ、全体の色の調子を確認しながら進めます。


裏から見ると糸目糊が見えないので、出来上がりの感じを掴みやすいので、折々裏返して確認します。
対角線に張った竹製の太い伸子を模様伸子(もようしんし)と呼びます。

横に張った伸子は細いので伸子針(しんしばり)とも呼びます。どちらも広く伸子(しんし)です。

生地は長く、真ん中の赤い部分は上半身になります。


色挿し作業の間も赤地の上半身は衣桁などに掛けておきます。生地が傷まないよう、別の色で汚さないよう、アレコレ気にしながらの色挿しです。



王宮の向こうにさらに岩山があります。モナコではとても目立つコブが連なった岩山だそうです。


王宮の色挿し終了(‘◇’)ゞ


次はいよいよ地色が赤い上半身、生地の真ん中の部分、衿、肩、袖へ進みます。


ぼかし屋の染め風景 | 06:23 PM | comments (x) | trackback (x)
東京都八王子市にある東京富士美術館で 11/29まで
「永遠の日本美術の名宝展」が開かれています。

東京の東の端のぼかし屋から、西の端の美術館まで小旅行でしたが、初めて訪ねました。
(基本的に撮影自由でした。画像は現地撮影分と展覧会図録から)



この美術館は我が鈴木其一「風神雷神図」を所蔵しています。

風神雷神といえば俵屋宗達を筆頭に尾形光琳、酒井抱一の三作が有名ですが、私はこの作品は、江戸初期に京都の宗達で始まった琳派、風神雷神図の、江戸に引き継がれた完成形だと思っております。
金箔の上ではなく、絹本に描いているのは、墨の勢いや滲み、重なりで雲を表現するには絹本がふさわしかったからだそうです。



雲以外でも、太い筆で一気呵成に描いた線がとても美しいです。
髪の毛、表情、筋肉の動き。スキがありません。


展示室で遠目で見ますと、残念ながら展示ケースのガラスに向い側の作品が写ってしまっていますが、それでも本物の存在感はさすがでした。

曽我蕭白の展示も充実していました。


     「鶴図」曽我蕭白 

1対の鶴を描いた構図はよくあるものですが、デッサンも墨の使いも極めて上手な蕭白の手にかかると、鶴がイキイキしていました。
羽毛の柔らかさが感じられるのです。
           ガラスの反射、本当に残念…(T_T)



鶴の背に沿ったくぼみ。羽毛のふんわりした重なりが印象的でした。これは図録でもテレビでも、画像では分かりませんでした。本物に会う価値、ですね(‘◇’)  
もしお出かけになったら、この鶴の柔らかい背中、是非ご覧ください!     


亀寿老図(亀仙人) 
他に色々飾られている中で、この寿老人が一番チャーミングでした。蕭白はこういう人だったのかな?

さすがの展示内容で、洛中洛外図や源氏物語図の屏風など見飽きない絵がたくさんありましたが、ここで紹介したいのは大正昭和に活躍した土田麦僊(つちだばくせん)


     「雪中梅」 
雪の部分は彩色せずに地のまま残すことで表現しています。間近で見ても雪に見えました(^^;)


     「紅葉小禽」(部分)

なんて綺麗!!
解説によると、シジュウカラを輪郭線を描かずに「隈取り」の技法で描いているそうです。本当の小鳥とは頭や胴のシルエットが違いますが、ちょこちょこと何かをついばむ小鳥らしさは本物以上ですね!
絵は(友禅模様も)こうありたいと思っております。足元にも及びませんが…(^^;)

この展覧会ではありませんが、東京富士美術館には面白い映像展示もありました。
写真がなぜか投稿できなず残念ですが、ダ・ビンチの壁画「最後の晩餐」のオリジナルと、制作当時の色、構図を再現した版とを、壁に映し出しているのです。
ミラノの現地でも、教会の食堂だった部屋の壁の高い位置に描かれているそうです。

修復版では背景に細かい模様が色鮮やかに描かれていたようですよ。日本の古い仏像も制作当初は赤、青、金で極彩色だったそうですね。共通するオドロキでした。


展覧会ルポ | 04:05 PM | comments (x) | trackback (x)
前回はカンパニュラの花を青紫色に色挿しする様子をご紹介しました。
今度は葉っぱの色挿しです。


なぜ、色を全部準備して花も葉も他の部分も同時に作業を進めないの?とお思いになる方もいらっしゃることでしょう。それは、無理だから、なのです(^^;)

濃淡ぼかしで多数色を常に使うため、花だけ葉っぱだけに分けてさえ、机の上は10~20色の染料でいっぱいになります。それぞれ乾燥しないように濃度を維持して染めるには、図柄を区切りよく何段階かに分けて作業するのが現実的なのです。

柄の多い振袖はなおさら段階が多くなります。
モナコ公国振袖の場合、①カンパニュラの背景の森、②花、③葉、④背景の王宮、⑤上半身のバラ、⑥葉、⑦ツタ模様と7段階に分けました。


さて色挿し③にあたる葉の番。緑を濃淡で色挿しします。
手前にあるのは色見本。結構色数がありますね。

森の色挿しに使った柔らかい黄味のある緑に比べ、今回はきっぱりと強く青味の緑。
カンパニュラの花が青紫系の色合いなので、緑も青になじむ色目なのです。
青と緑の境のような色味を主体にします。


色見本と一緒に写してみました。
花と葉、両方の色見本です。並べても相性が良いのはどちらも青が主だから。


花だけだったところに、葉にも色が入ると生きてきます。
背景の森と手前の葉っぱの色を、森は黄系、葉は青系にしたことで、手前が埋没するのを防いでくれています。


裾模様の花にすべて葉と茎がつき存在感がでましたね!


群生するカンパニュラの向こうに王宮が見える図案
次はこの遠景の色挿しに進みます。

ぼかし屋の染め風景 | 11:11 PM | comments (x) | trackback (x)
以前もご案内したように、オリンピックに関連して制作された出場国をテーマにした振袖の全てが、この週末に京セラ美術館にて公開されます。新型ウイルス感染防止のため事前にネット予約が必要ですが、入場は無料です。



手描き友禅が多いようですが、ロウケツ染めや絞り染めの作品もあるようです。
日本中の製作者が腕を振るいましたので、京都近郊の方には是非お立ち寄りいただければと思います。
もちろん、当ブログで制作工程を紹介中のモナコ公国をテーマとした東京手描友禅もぜひご覧ください
<(_ _)>

お知らせ | 06:17 PM | comments (x) | trackback (x)
大倉集古館の「近代日本画の華」展を観ました。
(写真は展覧会チラシとNHKアートシーンの画像から)
1930年にローマで開かれた日本画の展覧会の出品作の展示です。


右上は竹内栖鳳の「蹴合」闘鶏の図で、チラシのサイズではただ黒い鶏に見えていますが、実物はとても綺麗な彩色で、闘う鶏の羽根が生き生きと躍動



若冲の鶏が苦手な方でも、この絵は気に入ることと思いました。

この絵と並んで、とても美しい白鷺の絵がありました。



宇田荻邨 「淀の水車」
鷺の白い羽根が、ぼかしで水に溶け込んでいるような描き方が印象的でした。どうにかして真似したいものです。

さてこの新聞記事をご覧ください。


朝日新聞 9/15 美の履歴書より

この展覧会を代表する展示、横山大観の「夜桜」の紹介記事で、
見出しは「咲き誇る春 見せたい相手は?」
この絵を見るのはヨーロッパ美術の大御所、イタリア人であることを大いに意識して制作された絵だという解説です。


もちろん日本人が見ても、篝火(かがりび)に照らし出された夜桜は豪華です。



記事に「桜はすべて正面を向いている」とあり、確かにその通りでした。


着物の模様として絵を描く時は、きれいに見える角度だけ描くことはよくあるのですが、絵画でこの表現は珍しいのでしょうね。

「正面向きだけ描く」といいますと、かつて当ブログで紹介したことのある、我が鈴木其一の「朝顔図」もそうです。


 

ただしこちらは葉っぱが正面向き

朝顔のツルがのびのびと画面を覆っています。葉っぱは正面向きだけである方が、ツルの動き、方向性に目が行くからだと思っております。

※ぼかし屋は長年にわたり鈴木其一のファンなのです(‘◇’)ゞ
 朝顔図は2016年10月14日のブログで紹介しております。


展覧会ルポ | 07:26 PM | comments (x) | trackback (x)
東京手描き友禅として、いよいよ一番華やかな工程、花模様の色挿しです。
ここまで来るのは長かったですね!


まず染料の準備。裾模様は群生するカンパニュラの向こうにお城が見えている図柄です。


色は濃い青から青味の紫、紫と青い染料の量を調整して三段階、それぞれに濃淡3段階、一番弱い淡色紫まで用意。
カンパニュラはキキョウの仲間で、色々な形があるようですが、振袖の模様の効果を考えて、一番見栄えのする大型のキキョウ型にしました。
広い花弁でぼかし効果狙いです。


長い生地を模様伸子(もようしんし)に張って作業していきます。

ちょっと細かく紹介しますと……


振袖が出来上がった時に三種類の青紫がバランス良く散るように、どの花をどの青紫にするか、先に決めて青花ペンで印をしておきます。ズームで糸目糊がよ~く見えてます(^^)



大きな花弁を一番の濃色から白に近い淡色までぼかすには一度では綺麗に上がりません。複数回に分けて重ね塗りします。最後に一番濃くなる所に先に色をいれておきます。


乾いたら染料を重ねてまたぼかしていくのです。




完全な乾燥ではなく理想は生乾き。机下の電熱器が活躍します。この花が乾くまでに別の花をぼかして、というように順を追って作業していきます。



同じ面を連続でご覧いただいていますが、だんだんと濃淡がついてメリハリあるカンパニュラになっていきます。

上の花は染料が乾いています。
下の花はまだ濡れていて色が発色せず、よどんで見えますね。



さらに染料を挿して、濃淡の差を強くしていきます。


花芯はまた後でごふんの白を挿しますが、まわりの紫色でだいぶ花芯も際立ってきました。


最後に縫い目を境に色や濃淡の具合がきちんとつながったか、色を間違えなかったか、確認しているところです。


模様のぼかしの方法は特に決まりはなく、製作者によって好みの方法もありますので、この手順がすべてではありませんが、水の力を借りて染料をぼかす点はすべての友禅染に共通です。


ぼかし屋の染め風景 | 07:43 PM | comments (x) | trackback (x)
地色を染めて白く残した模様部分を彩色することを「色挿し」と言います。
友禅挿し」とも。故早坂師匠は「友禅する」という動詞も使っていました。
さてその準備
は当然ですが、染料匙、水分調整に使うスポイド、均染剤や粘剤、皿などなど。


まず粉末の染料を煮溶かして、色を掛け合わせ、調整して希望の色を作ります。


手元の粉末染料。師匠以来のものもあれば最近購入した色も。
材料屋さんによって色味が違います。

原色の粉末染料を煮て希望する色の濃色を作ります。

これを基本にして水で薄めれば淡色になり、他の色を微妙にかけ合わせて少しだけ違う色も作れます。



友禅の作業机に開けてある穴は便利で煮炊きもできるというわけです。

振袖は色挿しに長い日数がかかるので、水分蒸発など変色を避けるために、出来上がった基本の濃色(液体)はボトルや小さなタッパーに入れて保管しながら使います。


染料は染料皿に出すとすぐ水分が蒸発し始め、色が濃くなり始めます。スポイドは染料皿に水を足しながら作業するためのものです。最初から最後まで同じ濃度で予定した色合いを保つように。

どんな手順で色挿しするか、全体プランをたて、今回の振袖の色挿しは、最初に裾模様の森の部分から入ります。


裾の背景となる森は黄ばみの強い緑系。


木々が濃色から淡色へ。ぼかし作業。


色を作るときに使った色試し布と一緒に。
模様が絵羽になるように、左右を確かめながら色挿ししていきます。


上半身の赤い部分も写っていますね。
着物は長~い反物を染めて作ります。染めている最中も長~いのです(^^;)

ここでひとつ重要な脇役を紹介します。
作業机には穴が開いていて、下にニクロム電熱器があります。


生地に熱をあてて、乾かしながら染めることで、糸目糊の外に染料が浸みださないようにするためです。ぼかす作業も熱に当てながらの方が濃淡差が付けやすく綺麗に上がります。

さて一般家庭では見かけない機械が!

机の下に置いた変圧器です。
電熱器に100%で通電するとニクロム線が赤くなり、かなりの熱量になります。それでは乾きが速すぎますし、第一生地が焦げてしまいます(>_<)
そこで変圧器を通して電圧を下げ、低めの熱さが保たれるようにするのです。温度に決まりはなく、染める人の好みと季節にもよります。
粉末染料を煮溶かす時は、それよりも熱めに調整します。
ニクロム電熱器変圧器も今となってはそうそう売っていません。貴重なアナログの道具なのです。


ぼかし屋の染め風景 | 10:01 PM | comments (x) | trackback (x)

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