2020年08月

 
 
模様が入る部分を糊で伏せ、地色の染料を刷毛で染め終わりますと、


このように地(模様の背景)の部分だけでなく、伏せ糊の上にも染料がついて、あまりキレイとは言えない状況です。
フノリと染料でゴワゴワ、お煎餅のように硬くなった伏せ糊がのさばり、伸子針(しんしばり)の跡もツンツン出っ張り、生地はまるで嵐をくぐったご苦労様な状態です。

この後、塗った染料を生地に(糸の奥深くまで)定着させるために「蒸し」という作業があります。大きな窯に生地を吊るして水蒸気で蒸すのです。
その後、水洗いして伏せ糊を洗い流すと、模様部分が白く、染料が付かずに残るわけです。
この「蒸し」と「水もと」は京都の丸京染色さんにお願いしております。


まずはこの生地を京都に送る準備です。
生地を張り手から外し、剥ぎ合せミシンを使って一つの反物状に縫いつなげます。
間に紙を挿みながら巻き取り、巨大な海苔巻きにして宅急便で京都へ。

実はこのあたりの写真がありません。作業の記録として写すという発想が足りなかったり、うっかり忘れたり。記録するというのは一仕事だと思った次第。

そして!京都から帰ってきましたよ!すっかりキレイな反物に戻って。
(保護のために薄いビニールを被っております)


模様部分が白く残っているでしょう?
この部分に色挿しして模様を彩色していくのですが、まず先にキチンと地染めできたか着物状に並べて確認します。
ぼかしのラインが絵羽になっているか
(縫い目を境にズレたりしていないか、ちゃんとつながったか
縫い目を境に色の濃度が違ったりしていないか。


胸元の上前は大丈夫。


下前はぼかしのラインが湾曲しているので一番ハラハラ。


裾模様の空にあたる水色のぼかし。つながってます。


一直線に赤のぼかしが出る背の部分。大丈夫。


仕立てる時に縫い目にあたる部分に青花で線を書きました。右が胸、左が袖となります。
縫い線をはさんで模様がつながり、赤の色合いも同じように発色したことを確認。発色具合が違うと色の手直しが必要になるところです。

モナコ公国の振袖の場合、赤と白で上下を染め分けた国旗のイメージを保つため、赤は国旗と同じ赤色でというご希望でした。
日本伝統の赤は少し朱色によっていますが、紅系の染料を加えて調整した「真っ赤っか」蒸しのお陰でハッキリした赤に発色してくれました。ホッ(*^^)v

この写真は染め上がりの生地の白と赤の部分を合わせて国旗風に撮影したものです。


友禅の引き染めによるモナコ公国の国旗です(‘◇’)ゞ


ぼかし屋の染め風景 | 10:19 PM | comments (x) | trackback (x)
上野国立博物館
「KIMONOきもの展」が8月23日まで開かれています。


オンライン予約が必要ですが、ネット操作困難の方には現地で当日券の販売もしています。朝行けば、午前中の入場ができる様子でした。ただし混雑すると当日券は打ち切るそうです。
で、観てまいりましたが、先にお伝えしたいのが、こちら!


本館常設展示 風神雷神図屛風 尾形光琳
空いていて、撮影可!(^^)!

!著名な風神雷神図の中で光琳作だけは見る機会が無かったのですが、今回思いがけず。
本物は筆使いが実にイキイキ!


筋肉の勢いや衣の線、逆立つ髪の毛を一気に描いています。お習字のように「書いて」というべきかなと思うくらい一気に。
実はこの展示は8月10日(月祝)まで。
急ぎご紹介する次第です。

他にも酒井抱一の「秋草図」、紫式部日記絵巻(道長が潜んでくる有名な場面)、ピンクの色彩が美しい「孔雀明王図」などの国宝、重文が!長い休館のお詫びかしらと思うほど良い物がたくさん出ていました。
きもの展の入場者は本館常設展示を見ることができます。
コロナで迷っていた方、予約不要の常設展示だけでも見ごたえがあります。
主役級が並んでいるのに、観覧者は少ないですからこの土日祝、半日ユックリいかがですか?

さて「きもの展」そのものにつきまして…
主に室町時代末期から江戸時代の着物の発展が分かりやすく展示されていました。

おそらく初めての試みかと思われるのは、江戸時代に贅沢(唐織や刺繍、総絞り)禁止令が出されるにつれて友禅染の技術が発達した様子を実際の作品で見られることです。
刺繍が無くても鮮やかな多色使いの着物で身を飾りたいという旺盛なニーズに支えられて糸目糊防染の技術と図案構成力が発達を続けたわけです。
(写真は図録から)

素晴らしいと思った本格派手描き友禅の2点。いずれも若衆(男性)向けです。





実に細い細やかな糸目糊で、しかも勢いを感じる糊置きです。この時代は合成のゴム糸目糊はまだ無いので、すべて真糊(餅粉と糠粉を蒸し練って作る)の糸目糊です。

意地悪い目で観察しましたが、色のはみ出し、浸み出しが、無い!
染料の色挿しは、作業した時ははみ出さずにキレイに塗れたと思っても、後から糸目糊の堤防を越えて色が浸み出てきてしまうことがあるのです。
それを消す「しみ抜き」技術者が別にいるのですが、いつ頃から「しみ抜き」は発達したのでしょうか。それとも初めから一切はみ出させない強い堤防だったのでしょうか?当時の糸目糊。まさしく糸目状に細~いのに!!!
この件、同業の間でも話題になっています。


友禅染は最初、高価な刺繍や織り模様の代替として登場したことは間違いないですが、その後の発展については、同時期(桃山から江戸初期)の豪華な日本画(屏風絵や襖絵)の発達の影響があると私は感じております。
絵として「筆で描き彩色する」技術の発展が、自由な構図を生み出しやすい友禅染の発展や普及につながったに違いないと思うからです。
着物に日本画のような構図を模様として染め付けることの原点のような作品がこちら。


尾形光琳、白綾地秋草模様 小袖

糊防染の糸目友禅ではなく、図録解説によれば白生地に日本画と同じように墨絵で描き、藍の濃淡も加え、きちんと絵羽模様になっています。
屏風絵のような自由な図柄を着物にも表現することの出発点のような作品だと思います。

この小袖は白地ですが、仮に地色を染めようとした時、ただ塗ったのでは模様が色の中に沈んでしまいます。模様を避けて地色を染料で染める必要が出て、「模様の上を糊で被せておけば染料が入らない」工夫を誰かがしたのでしょうね。そして糊防染の技術は江戸300年をかけて発達していったのでしょう。

今回は光琳の小袖と、風神雷神図を同じ日に見ることが出来たのでした。



展覧会ルポ | 10:49 AM | comments (x) | trackback (x)
東京手描き友禅は多くの場合、一人の製作者による一貫制作ですから、この振袖でも地色を染める工程に進みます。前回紹介の伏せ糊で、模様部分をカバーして染料が入らないようする防染作業が済んだので、いよいよ地の色(模様の背景の色)を染めるのです。地染(じぞめ)といいます。

伏せ糊が一層よく生地に食いつくように、まずフノリを刷毛でのばして塗ります。地入れをいう作業で、洗濯糊で生地をピシッとさせる感じで、伏せ糊を始める前にしたのと同じ作業です。

フノリは海藻を煮溶かした液状の糊
手描き友禅は最初から最後まで様々な固さの糊の助けを借りて染めるのです。
ピシっとしていれば染料が均一に染み透り、塗りムラが起こる危険が減りますが、ゼロには出来ない(-_-;)

赤の部分で使用した染料試し布


染料は粉末の酸性染料をグツグツと煮溶かして作ります。
今回染める赤、ブルー、黄緑のうち、一番難しいのは赤。染めた後、蒸して洗って最後にどのように発色するか分かり難いためです。
同じ赤でも微妙違う色合いがあり、混ぜて煮ながら調整して作ります。赤染料はそれぞれ紅や朱にかかっているので、混ぜて真っ赤っかに見える色を出すわけです。


何度も色試しして前日までに準備した染料三色。
染料は生地に着くと色がよく見えますが、液体の時は黒っぽいのです。取り違えを防ぐために色バケツを使ったり、大きな色の印を付けたり。今回は3色なのでまずまず…5色が限界かな。

ぼかし染はまず生地に霧を吹いて水分を含ませます。水分量が多ければ淡色に、少なければ濃色になります。さらに染料についていない刷毛で生地をこすってぼかしのグラデーションを作ります。


一人で作業しているので細かい写真は写せないのですが、この写真には「ぼかし当り線」がまだ消えずに写っています。

右のぼかしラインの向こうからコチラまで線が3本残っています。染料や霧の水分でやがて消える線です。
予定通りの位置でぼかしを終わらせるために「新花」という下書き用の液体で線を引いてあるのです。どこまで霧を吹くか、どこまで刷毛を走らせるかの位置が分かるようにするためです。


この写真は短い生地が写っているでしょう?


試し染め部分です。生地の一部を使い模様の一部と地色を本番部分と同じように、ただし一足先に染め作業をしていくのです。色試しやぼかし方の最終確認といったところです。


伏せ糊の色の変わっている所は青い染料がついた部分。
伏せ糊防染(染まるのを防ぐ)の役割がよく分かる写真となりました。

赤も同じく、よく伏せ糊が働いてくれています。


右袖の前側は赤の塗切り。キッチリ真っ赤に。


裏から見ると伏せ糊をしたところには赤い染料が入り込まずに白く残っているのが確認できます。

ひとまず ホッ(^^;)




ぼかし屋の染め風景 | 09:51 PM | comments (x) | trackback (x)
 

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