東京友禅は、ぼかし屋友禅へ

 
さて着物の形に仮縫いした白生地に下絵が描かれた状態となりました。


これを解いて、もう一度最初の反物の状態に戻して友禅染へ進みます。


例えは悪いですが、トイレットペーパー状の長~く真っすぐな形にすれば、模様伸子(もようしんし)や張り手に張っての作業が可能になるのです。
縦に長~く裁ち切った衿と衽(おくみ)の部分には、それぞれ当て布を長~く縫い足して、生地の幅を裁ち切る前を同じ幅に戻しておきます。


そこで活躍するのが「剥ぎ合せミシン」
生地と生地の切り目を剥ぎ合せる専用のミシンです。
着物需要の低迷から、もう生産されていないミシンなので「宝物」
災害時は抱いて逃げるつもりでおります。

この「剥ぎ合せミシン」は染め上がった時にもう一度活躍します。
染め上がりなら生地に色があってミシン糸が見やすいので、その時に詳しくご覧いただくつもりです。


こちらが染色作業するばかりに準備ができた白生地を写したものです。
生地の端にも当て布がついています。
地色を染める時に生地に食い込む「張り手」の針から生地を守るためです。

友禅染の特長は、糸目糊という線状の糊で下絵をなぞって防染すること。
糊が付いていた部分には染料がつかないので、最後に糊を落とすと、染まらなかった部分が糸の縫い目のような白い線で浮き上がります。


その糸目糊を引いているところ。糸目糊を置く、とも。

下絵をなぞる糸目糊には、餅粉から作る真糊と、合成ゴムを利用したゴム糊の2種類がありますが、これはゴム。どちらにするかは染め作業に順序によります。
順序は柄行きと色合いによります。
今回は地色に真っ赤なぼかし染めが使われるため、地色染めを模様色挿しより先にするためゴム糸目を使っています。ゴム糊は水洗いでは落ちない事を利用した順序です。


糸目糊置きが済んだところで、要所々を合わせてみて、模様が縫い目を越えてもつながっていることを確認します。
「ちゃんと絵羽模様になっているかな?」です。

ちょっとややこしい説明ですが、今後ご紹介していく作業風景へ進むとご納得いただけるかな、と思っております(^^;)

ぼかし屋の染め風景 | 06:00 PM | comments (x) | trackback (x)
着物ブログをご覧くださっている皆さま

ただいま掲載済の写真に一部不具合が出ております。

主に縦横が逆転したり、圧縮画像になったりという状況です。
修正に少々お時間がかかりますので、その間お見苦しい状況で申し訳ございません

これからも着物と東京手描き友禅の染め作業、模様に関わる話題を、広く取り上げてまいりますので、どうぞよろしくお願いいたします。

ただいまはオリンピック関連プロジェクト(イマジンワンワールド)にてぼかし屋が制作したモナコ公国の振袖について、白生地から染め上がりまでの工程を順次ご紹介しております。
友禅染の、普通は表に出ない周辺作業や道具も出てまいりますので、お楽しみ下されば幸いです。
感想やご質問をお寄せください。
当ホームページの「お問い合せ票」をご利用くだされば簡単にメール送信していただけます。
!(^^)!

ぼかし屋友禅 宮崎

お知らせ | 02:49 PM | comments (x) | trackback (x)

裁ち切った白絹を仮絵羽に仕立てると着物の形になり


縫い目は実際の仕上がりの時と同じ縫い線の位置となります。

この状態で図案を写し取ります。


手描き友禅の作業台は中央に四角い穴が開いて、そこに下絵を描く時は光源を、色挿しする時は熱源を置いて利用します。
もっとガラス面の大きい下絵写し専用の台もありますが、ぼかし屋は色挿し兼用でやっています。
この作業台は昔むかし、東急ハンズで一枚板を買い希望位置をくり抜いて貰ったものです。ハンズで誂えたわけです。(*^^)v
ちなみに板を支えている台は、書類ファイル用のスチール引出し、左右に2台。
板も台も、乗り出して体重をかけて作業してもビクともしません。


仮縫い状態の着物はとても大きいので、補助台も使い、光の部分に順にずらせながら写して行きます。


面相筆と青花液で描きます。


縫い線の左右で図案がズレることなくつながり、それを解いても安心して糊の工程へ進めるわけです。

仮の仕立ての状態で下絵を描き終わると、お客様に羽織っていただき、鏡の前で染め上がりを想像しながら最後の全体調整をします。




花の位置、ぼかしのラインなどを変更できるのは、この段階が最後となります。


ぼかし屋の染め風景 | 01:38 PM | comments (x) | trackback (x)

東京手描友禅は多くの場合、お客様のご希望に沿って図案からおこす誂え染めです。
特に記念となるような振袖の場合は、そのお客様ならではのご希望が出てまいります。
今回はオリンピックに関連しての制作で、上半身はバラと公国の国旗の色(赤と白)の地色で、裾模様には国花のカンパニュラ王宮が入るというリクエストでした。
一番難しかったのは王宮の作図。


残念ながら行ったことのない国で、ネット検索しても出てくるのは観光写真ばかり。幸いテレビでグレース公妃のテレビドキュメントや、モナコ王室専属シェフの方の仕事を紹介する番組などを見る機会があり、そこに写る王宮を録画しては画像を撮影、参考にさせていただきました。



友禅模様にするのですから、さほど細かく描くわけではないのですが、「この尖がりはいったい何かしら」などと虫メガネ(何てアナログ!)も活躍。
古い部分は中世以来という由緒あるお城だそうです。

写真を拡大しただけですと、お城を模様にした時に形が間延びしてしまうので、特徴を強調して描き直しました。つまりデフォルメ。


カンパニュラは桔梗のことですが、色々な種類があるようでした。


カンパニュラが手前、遠景に王宮のあるお城部分です。
王宮裏手に特徴あるコブ型の岩山があるようだったので、さらに遠景として採用(^^♪

上身頃を彩るのはバラ。


モナコ大公ご夫妻の名前を冠したバラの写真
(こちらはネットで山のよううに検索できました)
ピンクも赤も白と強い対比が特徴で、これも友禅に向くように図案化します。

バラのように表現の仕方に幅があるモチーフは、お客様のご希望はもとより作者の好みも大いに反映されるところだと思います。
今回は「遠くから見てもバラに見える」を最優先にして作図。


上半身のバラの流れはツタでまとめることになり、先にツタの流れを決めます。


後からバラを落とし込んで、作図していきます。
上下に走る直線が生地の縫い目にあたる位置です。


全体の調子が揃うように細かい修正をしながら図案を作り上げていきます。
消しゴムのカスがたくさん写っていて失礼します(^^;)
「誂え」ならでは、です。

このようにお客様の好みに沿って服や靴といった身の回り品を誂えることを、英語ではビスポーク(bespoke)と呼ぶそうですよ。
その意味は、依頼主と製作者がトコトン話し合う、です。
ロンドンのセビルロー通りの紳士服店でスーツを誂えることが、その代表格だとか。

!
この記事には続きがあります▼
ぼかし屋の染め風景 | 10:29 PM | comments (x) | trackback (x)
オリンピック関連プロジェクト、イマジンワンワールドに参加して制作したモナコ公国をテーマとした振袖の染めの様子を工程ごとに少しずつ紹介していきたいと思います。
追加でご注文いただいた時の記録を主にご紹介しますが、初回制作版の写真も利用させていただきます。

最初は何といっても生地の準備。


生地問屋さんの揃えてもらった同練りの三丈物二反
同練(どうねり)とは同時に作った糸で織った、という意味です。
生地の模様が同じでも、練りが違うと同じ染料を使っても同じには発色しないからです。


本紋と呼ばれる振袖用の地紋で、沙綾形文に菊や蘭が織り出されています。

まず巻を解き、全体の長さを確認します。


白い絹が山のように重なります。本当に美しく、いつも「これに色を付けてしまっていいのかな」と思ってしまいます。白い雪の上を歩いてはいけないような感じです。


尺差しで計って印を打ちます。
まっすぐ計って、まっすぐ裁ち切らなくてはなりません。
この時、活用するのが「畳の縁」


ヘリと畳面のわずかな段差を利用して生地をまっすぐに固定して計るとずれません。
裁ち間違いしないよう何度も何度も計り直しながら鋏でザックリいくわけです(^^;)


衽と衿の間の長い所も延々とまっすぐ切ります。

裁ち切りが済んだら、仕立て屋さんにお願いして仮絵羽仕立てしていただきます。
振袖の形にしてから、生地に下絵を描くためです。

着物が出来上がった時に、縫い目の越えてつながっている模様を絵羽(えば)模様といいます。
例えば豪華な牡丹の花が縫い目でブツッと途切れていたら残念です。
絵羽模様で広々と牡丹の模様がつながっていると立派ですよね!
絵羽模様にするための下準備の仕立てを仮絵羽仕立てと呼ぶわけです。

仕立て屋さんから仮絵羽仕立てとなって戻って来たところ。


出来上がりサイズに合わせて綺麗に着物の形になりました。
さて!ここに図案を描くわけです。
縫い目を越えて模様がつながるように。

その図案については次回に…



ぼかし屋の染め風景 | 04:43 PM | comments (x) | trackback (x)
3/1追記

下記にご案内の今年の染芸展の公開は中止
         となりました。
残念ではございますが、新型ウイルスの感染防止のために さして広くない会場に大勢で集まる展示は避けた方がよいとの判断に至りました。

ぼかし屋出品作は後日、このブログに掲載させていただきます。
ご来場を予定して下さった方々には厚くお礼申し上げます。
またの機会によろしくお願いいたします。
<(_ _)>





会期中はおもに友禅染の体験コーナーにおります。
浅草、雷様にお参りのついでがありましたら、お立ち寄りくださいませ。


お知らせ | 12:26 PM | comments (x) | trackback (x)
つい先日の新聞記事です。
瀬戸内寂聴さんの連載エッセー
お住まいの寂庵での日常をたんたんと描いておられて、読むのを楽しみにしています。



この記事の載っている寂庵の庭木の写真を見て、ほほぅ、と思いました。
万両の木はこんなに上品に実をつけるものなのかと。

実は、当方も万両を鉢植えで育てております。
2017年に真っ赤な実がついた鉢を購入し、毎年赤い実を楽しもうと目論んだものの、2018年は花の段階で落花してしまい、2019年に植え替えをした結果やっと赤い実にたどり着いたのでした。
でもこの写真ご覧ください。


同じ木の右と左で実の付き具合が違うのです(^^;)

2020年初めの段階で左は真っ赤な大粒の実、
右は小粒ながら数は多く、まだ真っ赤になるには時間がかかりそうな様子。
なぜ同じ木の枝でこんなに違うのでしょ?

以前一株のベコニアが赤白に咲き分かれたと紹介しましたが、
ぼかし屋に来るとみんな一筋縄では行かなくなるのでしょうか…



来シーズンは全体がこのように赤くなるといいなと思います。

2020年2/23 追記

色付きが遅かった方もだいぶ赤みが増してきました(^^)/
ぼかし屋としては大いに参考にするべき色のグラデーション、緑→赤ですね。


季節の便り | 08:57 PM | comments (x) | trackback (x)
東京手描友禅の染め工房、ぼかし屋友禅より

 謹賀新年

昨年は、オリンピック出場国の一つ、モナコ公国をテーマにした振袖を作るという貴重な経験をいたしました。
全体を国旗と同じ赤白に染め分け、国の花カンパネラ、その向こうに王宮、そしてグレース公妃にちなんだ大輪のバラを散らせた図案を、東京手描き友禅の技法で染めました。


  下絵から染め上がりまでの染色作業風景





昨年中はことのほか多くの皆さまにお世話になりました。
ご注文くださったお客様はもちろん、デザインに合った生地を探して下さった白生地屋さん、珍しい色調を出すために相談にのって下さった材料屋さん、作業についてアドバイスして下さった先輩方、手助けして下さった方々、心よりお礼申し上げます。
今年も少しずつ前進してまいりたいと思います。
どうぞよろしくお願いいたします。

今年もこの「きものブログ」にて、ぼかし屋の作業風景や、広く着物や友禅についての話題を取り上げでまいりたいと思います。
モナコ公国の振袖の染めについても順次ご紹介いたします。

ブログ、ホームページには自動的にメールを送信できるお問合せ票がついております。
着物のご相談、ご注文だけでなく、ブログの感想など大歓迎です。
お気軽にご利用いただければ幸いです。

ぼかし屋友禅 宮崎桂子


お知らせ | 10:47 PM | comments (x) | trackback (x)
日本美術史上、もっとも有名な着物姿

鏑木清方の名作「築地明石町」1927作 が
千代田区竹橋の国立近代美術館12/15まで公開されています。

美術館のHPより

左から浜町河岸、築地明石町、新富町

それぞれ清方が記録しておきたいと思った明治の町の様子を背景にしているそうです。
いずれも地下鉄の駅名や都バスのバス停の名前に残っていますが、街の風情は、もうまったく…。
当時の築地は外国人居留地で、江戸以来の下町風情と西洋が混在していたそうです。「明
石町」の背景にも大変薄いのですが、帆船の遠景が描かれています。
左右の2作と違い「明石町」の良家の奥様風の中年女性には実在モデルがいるそうです。さすがに実在の感覚が伝わる力強さがありました。三部作といいますが、群を抜いています。


展示会場には彼女の着ていた江戸小紋を再現した着物がありまして、とてもおしゃれな青磁色の小紋でした。


髪や眉の一本までとにかく細かい描写。

下駄と足の綺麗さも印象的です。


今は小紋を着たら、足袋と草履になりますが、明治の女性は素足に下駄。
粋を求めただけでなく、足袋はお武家さんなど限られた人の物だった江戸時代の名残もあったかもしれません。

鎌倉の鏑木清方記念美術館でこの絵の下絵が公開されているそうです
期間はやはり12/15(日)まで。あと数日ですが間に合う方はぜひ。
http://www.kamakura-arts.or.jp/kaburaki/news/tsukijiakashicho_shitae.html


画像はテレビ東京「新美の巨人たち」より

女性のシワをかなり正確にスケッチしたあと、それを取捨選択し、一番重要で美しい線を残して描いたように思われます。


足元の柵に名残りの朝顔が。葉は茶ばみ、しおれた花が落ちていますが、色合いはとても綺麗です。


中年になっても美しいと、清方がモデルの女性に伝えているようでした。

会場で見た中で印象的だったのは風俗画としての清方の画業


「鰯」
解説によれば、清方の育った時代、築地には水揚げされた鰯を売り歩く少年が大勢いたそうです。長屋の一角で炊事しているおかみさんが少年から鰯を買い上げているところ。絵の全体では家は間口が小さく、すぐ右はもう隣家のお勝手であること、屋根の上nの煙を逃す窓、手前路地に花が咲いていることが描き込まれています。


すだれ越しに水切り棚に伏せた丼やザルらしきもの、甕などが透けて見えています。この長屋の暮らしを清方が愛情を持って見てきた気がします。

清方にとって懐かしい街の一角だったのでしょう。

着物あれこれ | 06:20 PM | comments (x) | trackback (x)

これ、なぁ~んだ?


答え→ 洗った伸子針(しんしばり)を陽に干しているところ。

手描き友禅の着物の染め工程が一通り済み、一着が出来上がると、次作の準備をします。生地の準備、染料の補充などなど。
忘れてはいけないのが、道具の手入れ。
伸子針(しんしばり)は染めの作業をしやすく生地をピンと張らせる道具です。

竹の先に細い針がついています。

どう使うかというと…
着物の地の色を染める「引き染め」


模様に筆で染料を挿す「色挿し」


生地の浦から大きな模様伸子をバッテン掛けしておき、さらに15㎝間隔くらいに細い伸子針をはって生地を四方から引っ張りまっすぐに張っておいて作業するのです。


こんな風にバッテンの所を手で持って画面を安定させるのです。

張った生地の表側。
伸子の針先がチクッと表に出ているでしょう。
この状態に耐えるのですから絹は丈夫です。
(手描友禅屋さんは、この針のせいで引っ搔き傷には慣れっこです)

さて、これらの作業で伸子針の先の方、
生地に接している両端が染料で汚れ

そのまま次の作品の染めに使うと、生地の端に点々と違う色が移ってしまうので、ハイドロという粉末の抜染剤で煮て、染料を落としてきれいにしておくのです。


給食でも作るかという大きなホーロー鍋で上下入れ替えながら煮込みます。
この鍋は染色用で材料屋さんで売っているものです。


色が抜けたら、よく水洗いしてハイドロの成分が竹に残らないようにします。残っていると、次の引き染めの時、生地にハイドロで色抜けした点々が出てしまします(^^;)

よく洗ったら水切りして陽に干すわけです。


冒頭の写真はこれを真上から写したもの。
何だか前衛アートのような写真になったのでした。

ぼかし屋では少なくとも三日は干して完全に乾燥させます。
そうでないと、保管中に竹がカビたりいたします。


ほらキレイになったでしょう。これで色移りの心配がなくなります。
熱湯で煮た間に曲がっていた竹が真っすぐにもどっています。これで次回もきれいに生地をピンと張ってくれることでしょう。



色抜きしてはまた使える伸子針ですが、作業中に折れてしまうこともあり、
長い目でみると消耗品です。作ってくれる職人さんが少なくなってしまい、材料となる竹の少ないそうで、価格も値上がり、貴重品となっています。大切にお手入れするから、


伸子針さん 何度も何度もがんばって!!
東京手描友禅の道具・作業 | 12:18 AM | comments (x) | trackback (x)

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