東京友禅は、ぼかし屋友禅へ

 
東京手描友禅は多くの場合、主な工程を一人の職人が行う一貫制作です。
ぼかし屋でも模様付けだけでなく着物全体の色(地色)染めも行い、全体としてデザインを起こし色調を考えます。
そのため色染めをする前に どんな色するか、その色がどのように発色するかを生地で試します。模様の色は小さな小ギレで十分試せますが、地色となると大きな面で試し、さらに本番のように刷毛で引き染めをして試す必要がある場合もあります。
複雑なぼかし染めの場合や 発色の具合が読み難い場合など。

着物を染める本番ほどではないものの小振りな刷毛を使い、染料も小さなバケツにいれて、方法としては本番と同じように染めます。


霧吹き新聞(余分な水分を吸い取らせるため)など、必要な物は本番と同じです。


染料バケツの中の刷毛は横幅が3寸。本番で普通使用するのは5寸刷毛


  大きい方が5寸刷毛。
3寸刷毛は試し染め以外にも 細かいぼかしをする時には本番でも使います。
今回布の上で染料をぼかすのは5寸刷毛の方。足が長~いぼかしを予定しているからです。

ある色が徐々に薄くなり最後に無色となるまでの色の変化を「ぼかし」といいます。
薄くなり始めの地点から無色となる地点までの距離「ぼかしの足」と呼びます。
足が長いほど、なだらかなぼかしで、短いとクッキリ色が終わる感じのぼかしになります。
長い足できれいに色がぼかせるかを試しておく訳です。

生地に引いてある線はぼかしの設計図のようなもの。


ここまで霧を吹く、ここまで刷毛をもってくる(染料を伸ばす)、ここで刷毛を止める、など。着物になった時に希望の位置に希望の色がくるように、あらかじめ決めた設計に沿って色を付けるのです。
線は水で消える素材なので霧を吹いたらサッサと作業!設計図が消えないうちに(^^;)

染めて乾いたら、染まり具合、ぼかしの効果を確かめて本番へ進みます。


どうかな、こんな具合でいいかな、と染め上がりをチェックします。


地色と模様がよい感じで引き立て合うように想像を巡らせながら色とデザインを考えていくのです。


東京手描友禅の道具・作業 | 04:06 PM | comments (x) | trackback (x)

まもなくハロウィン
特にお祭りすることはありませんが、この時期はそれらしい色合いの物を並べたくなります。
大きなは日本調。下の鍋敷きはベトナム製。陶器部分の絵は中国風ですが、ツルの編み込みの縁取りはいかにも東南アジア風です。


後ろの水彩画は拙作。
模様ではなく、「見たままをスケッチする」練習のために月に一回通い出して2年近くなります。見た物を友禅の模様にするべく、都合よく変換して描くことばかりしてきたので、先生が用意して下さる静物を「たとえキレイと思わなくても」、花を「枯れていても」そのまま描く練習はとても新鮮で難しいです。
この画題はカボチャと栗。イガイガに悪戦苦闘(>_<)

友禅の模様幅が広がっている気がします!(^^)!



この時期らしい帯と帯〆を引っ張り出してみました。
櫛織 くしおり」の帯で一目ぼれして購入、
帯〆はお古で頂戴したもの。よく合う色目です。


櫛織のズームアップ。
糸の組み合わせが実に美しく、友禅とはまったく違う味わいです。まだ着る機会がないのですが…


季節の便り | 04:52 PM | comments (x) | trackback (x)
先月放送されたNHK BSの「関口知宏のヨーロッパ鉄道旅」でチビタベッキアという港町の教会のマリア様が紹介されていました。
チビタベッキアは古くからローマの海の玄関口だそうです。


どこにでもありそうな街の教会ですが、


祭壇の奥は日本の殉教者の群像。正面に日本聖殉教者の文字も見えます。


祭壇上部の天井画は、着物姿のマリア様です。


(写真横転、ご容赦を)

安土桃山期の富裕な女性の装いで、マリア様の白いベールは 袖があるところなど当時の女性が外出時に頭から被った被衣(かつぎ)を思わせます。濃い緑地に丸紋様散らしの小袖に金蘭の帯を締めています。
一方イエス様の小袖は真っ白で緋の袴。共にとても豪華かつ上品なお姿です。
       

作者長谷川 路可(はせがわ ろか、1897年~1967年)は、大正・昭和にかけて国内外で活躍した画家で、日本画だけでなくフレスコ画も描き、自身もカソリック信者だったそうです。
第二次大戦で破壊されたチビタベッキアの教会を再建するにあたり、ローマにいた長谷川路可が壁画の依頼を受け、このマリア像と日本の殉教者の群像が生まれたという解説でした。


教会の神父様は、関口さんのインタビューに対して、「長谷川路可は壁画を未完のままローマで亡くなってしまったので、いつかぜひ完成させたい」とおっしゃっていました。

それにしても、壁画はもちろん天井の梁にも日本調の模様が描かれた教会が、もう長く街の教会として地元に受け入れられてきた、という点に驚きます。
日本の町で、例えば、、美しい西洋人形のような仏様がローマ兵のような神将を従えているお寺が…地元のお寺として受け入れられるかというと…おそらく無理…
そこは大陸の大らかさなのか、または民族に関わらず殉教者にたいする敬意なのか、わかりませんが。

画像はテレビ画面からお借りしました<(_ _)>

着物あれこれ | 11:04 PM | comments (x) | trackback (x)
東京都工芸染色協同組合 七支部員で染め帯の展示を行っております。



ぼかし屋の出品は、前回ブログで染め風景をご紹介した橘の染め帯一点です。



糸目糊がとれてスッキリと白い線が浮き出てます。だから糸目友禅とも呼ばれます。


お太鼓に締めるとこんな感じ。


表参道にご用の節はお立ち寄りくださいませ。
明日28日は会場におります。

お知らせ | 11:19 AM | comments (x) | trackback (x)


帯を締めると前柄とおたいこ柄にバッチリ橘の実がたわわに実っている図で染め帯を作りました。

地染 帯なので少し厚手の生地。

青味の強い緑色です。柑橘類の葉っぱの色からとりました。


色挿し ミカンではなく橘の実、念のため(^^;)
色を試し染めしながら挿していきます。


橘は春夏秋冬、葉が緑であることを称えた歌が万葉集にあります。
実がたわわになっても葉が濃い緑であるのは、例えば、葉も色づく柿の色合いとは違うということです。
おめでたい木とされていて、お雛様の左右に桜と橘がありますね。

ぼかしを多用して黄色からオレンジ色、少し緑色の残る橘の実を描きました。


前々回にご紹介した「片歯刷毛」が大活躍です。


熱源にさらして乾かせながら作業するのは、滲みだしを防ぐため、キレイにぼかすため。

色挿し終了。蒸して、糸目糊を落とし、水洗い、湯のしをお願いして完成へ。


橘は実さへ花さへ その葉さへ
枝に霜ふれど いや常葉の樹    聖武天皇


ぼかし屋の作品紹介 | 11:40 PM | comments (x) | trackback (x)
上野の国立博物館で、今は珍しくなった着物を見ました。
絽の着物紋付の産着です。


 縹地 海辺風景 単衣 19世紀江戸時代

絽は透けるように織った夏用の絹地
見るからに涼し気な紺色の夏の着物です。
刺繍も使われていますが、一番重要な模様である浜松は糸目糊で表現した友禅染です。


夏に透ける絽の着物でおしゃれしている方を、かつてはひと夏に数回は見かけたものですが、最近、とくに今年はゼロでした。
着物離れもとにかく……とにかく夏が暑過ぎるからだと思います。
生地が透けているからこそ下着をきちんと着る必要がありますし、帯はどう着付けても暑い……。
同じ東アジア圏でも、帯のない形で着衣が発達した韓国のチマチョゴリが羨ましいですね。などと言うと帯の機屋さんに叱られてしまいますが(^^;)
地球温暖化で35度連発の今の夏では熱中症対策が第一になってしまいました。

こちらは更に見かけることはなくなった産着、それも紋付です。
サイズが大きく見えますが、おそらく誕生直後は肩上げを多くして赤ちゃんをくるむように使ったと思います。今も最小限の肩上げが残っていますね。


 薄茶平絹地 貝模様 産着 17世紀

1600年代作とのことですが、友禅の技術が確かなので後期の作でしょう。
背中央に一つ、両袖と両胸にも紋がある五つ紋付きで最高格式の作りです。紋は縁を飾られた向い雀。綿入れ自体が贅沢品(綿が貴重)だったことを思えば、大変力の入った幼児用の着物です。



友禅特有の糊防染が効果的です。
模様にあまり色がなく、地色も薄茶なのは始めからそうデザインされたのでしょうか。
それとも江戸時代初期の作で非常に古いので退色?いえ専門家が見てタイトルに薄茶地といれているので始めから薄茶に染められたのですね。


紋が可愛く見えるような飾りつきなので女児用を思わせます。綿入れなので冬着なはずですが、海辺の貝の模様?ちょっと不思議な産着。由来を知りたいものです。
同じ江戸時代でも初期はまだ幕末期のようなカラフルな友禅染(後染め)は出来ませんでした。江戸中期以降に鮮やかな色合いの染料が日本にも入ってきて友禅染の発達を促したそうです。

今は子供の着物を手描き友禅で誂える話はトンと聞かなくなりました(>_<)
残念ではあるものの、実は……
汚すのが仕事の幼児に目くじら立てずに済むように、小さい間は化繊の着物でよいという意見に私も賛成です。
このような絹、友禅、綿入れの着物はお大名クラスか豪商、大地主などごく一部の人々のもので、一般の武士、商人はもっとささやか、庶民の子共は使い古しの木綿布子にくるまっていただけ。模様がないか古い絣か。
デパートの売り場で可愛い化繊のプリント柄の3才お祝い着を見ると、カラフルな着物を幼児に着せられる時代を有難く思います。

着物あれこれ | 10:39 AM | comments (x) | trackback (x)


手描き友禅ではよく模様の中をぼかして濃淡をつけます。
模様が立体的になるのと、手描きならではの優しい雰囲気が出るためです。

ぼかしで活躍するのが片歯刷毛(かたはばけ)です。


右から4本が片歯刷毛、残る2本は丸刷毛。
比べると片歯刷毛は薄く先端の片側だけが少し尖らせてあるのでこの名前があります。どちらもぼかしで使われますが、片歯刷毛の方が細かい作業に向きます。
片歯刷毛に番号がついていて、大きな番号ほど大きな面を一気にぼかすことができます。


複雑に組み合わさった薔薇の花びらを立体的に見せるためにぼかしているところ。


色はあらかじめ濃淡で複数揃えます。


色調によりますが、このように大きな花は花弁一枚ずつぼかしていきます。


ここでは5番、6番のサイズを使いました。
水を含ませた片歯刷毛の尖った方にだけ染料を含ませて塗ると水の助けで染料が濃淡にぼかせます。


全体の色を挿し終ると大輪の花出来上がりです。
最後に糸目糊が抜けるとスッキリします。
さらに大きいと丸刷毛も併用することもあります。

手描き友禅の模様色挿しで使用する刷毛は片歯刷毛、丸刷毛、牡丹刷毛など。
ぼかしの雰囲気によっては染め筆のままぼかすこともあります。
とても細かい所や、尖った先端などには面相筆の穂先も使います。
先人が工夫して生み出してきた刷毛や筆、頼りになる道具です。
作ってくださる職人さんに感謝<m(__)m>


東京手描友禅の道具・作業 | 08:34 PM | comments (x) | trackback (x)
2019年6月15日の朝日新聞の記事の紹介です。



 手漉き和紙の製造に欠かせないトロロアオイを生産してくれる農家が、このままではいなくなってしまうという記事です。
和紙の原料のコウゾ。そのバラバラの繊維をまとめるのにトロロアオイから取る「ねり」が必須なのに、重労働のわりには高くは売れないことや農家の高齢化もあって、わずかに残ってくれていた生産農家が作付けを中止すると表明したのだそうです。
 悲しいニュースです。農家のご事情も重々…

和紙は手描き友禅にも欠かせません。代表例では、
真糊(米粉と糠から作った糊)を絹地に引く時に使う道具、渋筒(しぶづつ)


 上から伏せ糊用サイズの使い古し(繊維が強くまだまだ使えます)
伏せ糊用の新品、そして糸目糊用の新品。

 使い古しの先端には口金がついています。新品も使う時の必要性に合わせて先端を切り口金を咬ませて使います。水分のある糊を常に一定の柔らかさ(含有水分)に保つのに厚い和紙で作られた筒が向いているのです。柿渋を塗って強度を高めているので渋筒と呼ばれています。
筒と一緒に写っているのは渋札(しぶふだ)
新品の先端を紙縒りして紐状にし、名前を書いて絹地の端に穴を開けて通しておきます。
蒸しや洗いといった他の業者さんにお願いする工程の時に迷子になるのを防ぎ、希望する作業内容も書いておきます。蒸気や水をくぐり抜け最後まで生地に付いていてくれるのは和紙だからです。


真糊による伏せ糊作業風景です。


渋筒が2本見えます。先端の太さを変えて糊を付けたいところの形状に合わせて使い分けます。霧吹きや水、濡れ布巾も、常に使いながら作業します。

 そうそう!和紙といえば着物を保管する「たとう紙」も忘れてはいけないですね。湿度から守ってくれるのはもちろんですが、着物を包んだ状態で持ち運びのためにザックリと三つ折りにしても破れもせずに中の着物をシワシワから守ってくれるのは、やはり和紙だから。

 記事によれば、和紙業界として文化庁に生産支援を求めているものの、「具体的対応は決まっていない」そうです。
ご存じの方も多いと思いますが、日本のお役所はまずこうした事に資金を出しません。
伝統文化、伝統工芸で、普通に民間任せにしていれば絶滅するだけというものに、遺す価値があるという共通理解が得られるなら、経済的な支援や、ドイツのマイスター制度のような制度的支援をすべきだと思うのですが。
日本の国の制度でそれらしい支援は、文楽や歌舞伎を下支えする人を養成する学校があることくらい。他はまったく…
天然素材だけで製造する手漉き和紙が失われたら…
室町以来の日本画の掛け軸や屏風など、100年から150年に一度は裏打ちの和紙を剥がして新しく貼り直さなければ、次世代に遺せないと聞いたことがあります。
日本の文化工芸の基礎のような手漉き和紙、無くなってよいと思う日本人はいないでしょうに!!

手描き友禅制作に必要な道具、材料でも危機に瀕しているものは沢山あります。
材料だけでなく生地や糸も
裾回し(着物の裏地、八掛とも)の数少ない製造業者さんの一軒が廃業し、裾回しの品不足、品質劣化が懸念されるというニュースが友禅業界に届いたのはごく最近のことでした。


着物あれこれ | 11:39 AM | comments (x) | trackback (x)

往年の大ヒットドラマ「おしん」をNHK BSで再放送中。
当時は見ていないので、この機会に毎朝見ております。

戦前の小作農の貧しさや商家の奉公人の過酷な労働、労働でなく奉公だから限りなくタダ働きに近い事等々が描かれていますが、当時の日常風景も随所に見られます。

昨日の放送で面白い場面がありました!(^^)!
おしんが着物を洗い張りするのです。女主人の絹の小紋。


まず解く。台所の立ち仕事の合間に。

隣家とのすき間のような庭で、洗った生地に刷毛で糊付けしているところ。


おしんが持っているのは引き染め用の五寸刷毛
今、東京手描友禅では良い刷毛は京都の製造業者の物を取り寄せているのですが、かつては東京でも製造販売されていて誰でも手軽に買えたのでしょうね。


糊付けしてピンとさせた生地を縫い直す。今度は夜なべ仕事で。
解くのと違い、まとまった時間座り込まないと仕立ては出来ないからでしょう。

着物は基本的に解いて生地の状態に戻さないと洗えません。
解く、生地を縫い合わせ反物状に戻す
それを洗い乾かす
そのままではヘナヘナなので生地に糊をつけて張りを持たせる。
張り手に生地の端と端を挟んで引っ張っておき、刷毛で液状の糊をつけていくのです。そして湯のし屋さんに出して生地巾を整えた後で仕立て直す、以上が工程です。

昔は家庭でも洗い張りや簡単な染めをしたと聞きますが、ドラマとはいえ映像で見ると実感がわきました。
このような引き染めに含まれる作業は馴染み深いはずですが…
この映像でみて初めて気付いた事が…

今は当然のように使われているプラスチック製のバケツがこの時代には無かったこと!
おしんは何度も腰を屈めて足元の木製たらいに刷毛をつっこみ糊を含ませ直しています。

プラバケツは軽くて、取っ手が付いていていますから、糊なり染料なりを入れて左手でぶら下げながら右手で刷毛を動かせるのです。左手は取っ手を持ちつつ生地も押さえられます。
下に置いた盥までいちいちかがむなんて大変(>_<)
想像しただけで腰が痛くなりそうです。
作業しながら生地に沿って移動するのに、盥では付いてきてくれません…
仮に木製の桶に麻縄で取っ手をつけたとしても…重い!
プラバケツが無いというだけで、現代の引き染めとは似て非なる労働です。

それにしても、おしんが刷毛を動かす姿はバッチリです。


確かにこの位かがみ、足も踏ん張り、手も大きく動かすのです。
実際にしている所を観察するか、教わるかしなければ出来ない動作でした。


かまどの火と刷毛の音だけが聞こえる無音に近いシーン。とてもきれいでした。

このブログのために画像をトリミングしていて気付いたのですが
画面左、かまどの上方にかかっている赤い団扇
まったく同じ物がぼかし屋にもあります!


ウン十年前に渋谷の画材屋さんで買い、揮発地入れなどに便利に使い続けているものです。
いかつい大きさで大風量です。
団扇と一緒に写っているのは伸子針
張り手で縦方向に張った生地を、横方向にもピンとさせるための竹針です。

染料がついて汚れたものを洗って干しているところでした。

最後にぼかし屋の糊張り風景


フノリ地入れと呼びます。
引き染め専業の業者さんを除けば、今も細長く隙間のような所でする作業です。
友禅染は人の多い街中の伝統工芸なので、たいてい空間事情は厳しく、狭くチマチマした場所が舞台です。もちろんぼかし屋も団地の一室(^^;


着物あれこれ | 07:33 PM | comments (x) | trackback (x)
日本の手描友禅の模様の参考に
イギリスの模様の展覧会を観てまいりました。

ウィリアムモリスとイギリスの壁紙展 そごう美術館(6/2まで) 

このチラシの模様を私が見た時につい思ってしまうのは
「よくある感じの模様だね」です。
でも、こういう感じの模様は古来あったのではなく、最初に本格的に壁紙や布の模様として製造したウィリアム・モリス(1834~1932)の業績を紹介する展示です。


とても魅力的な模様が図録の後カバーに印刷されています。
菊をモチーフにした構成。牡丹も入っていて日本の影響を受けているそうです。色合いを変えていくつものパターンで壁紙を制作。

古くから絵画や金銀の細工で壁を飾れた王侯貴族は別として、市民が自宅を飾り始めたのはそれほど古くないそうです。産業革命の結果、製造力も市民の購買力も上がって19世紀を迎え、そういう時期に画家でもあったウィリアム・モリスが、生活を取り巻く物品にも美しさを、という考え方で多くの作品を発表したわけです。

この菊の壁紙で飾った部屋の再現コーナーもありました。
(再現コーナーは撮影可)

カーテン、テーブルクロス、クッションカバーそして壁紙

現在の生活にある様々な布類に複雑にパターンを組み合わせた模様を染めたり織り出したりしています。

    図録の中から紹介

ノーベル賞の選考委員会は「その業績の元になった研究、その研究者」を探すそうです。それと同じことを感じました。
いわゆる唐草文様は大昔からありましたから、葉がモチーフとして左右対称など平面に並ぶ模様なら珍しくなかったのですが、それをパターンの一部として複雑に組み合わせて構成したのはモリスが最初。その図案は見ていてとても勉強になります。


こちらはミュージアムショップで買ったクリアファイルの模様。
とても大胆ですが、自然な組み合わせになっています。


葉をパターン化した壁紙。
本当に「よくある感じ」ですが、商品として売られ続ける中で、様々な他の商品のデザインのもととなっていったために「よくある感じ」に見えるわけです。

ヒナギクのパターン。


ふと気づいたのですが、ぼかし屋のファクスが置かれている台のレース。

このようなパターン模様を最初に本格大量生産販売したモリス。その影響のもと、今の身の回りの様々な商品のデザインがあるのですね。

少々脱線しますが、野々村仁清。


写実的で鮮やかな花の描写は、室町期以降、屏風絵や掛け軸には珍しくありませんでしたが、最初に壺に焼き付けたのは彼。
この壺を見るとつい「よくある感じ」を抱いてしまいますが、江戸初期当時とても画期的な試みと技術だったのでした。

もっと有名な例が元祖アニメと言われる鎌倉期の鳥獣戯画

今のアニメと同じ、とつい思ってしまいがちです。
鳥獣戯画の方が大々先輩なのを忘れないようにしなければ。
作者は確定していませんが、ノーベル賞の価値がありますよね。

そういうモノが無い環境で、そういうモノがを創り出した方々のすごさを、そういうモノが溢れている今の私たちはウッカリ忘れがちかもしれないと、見慣れた感のあるモリスの壁紙を見ながら思いました。

最後に会場の再現コーナーの写真で、モリスの模様を現代にアレンジした部屋をご覧ください。

すてきです。


展覧会ルポ | 01:21 AM | comments (x) | trackback (x)

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