2014,03,27, Thursday
東京手描き友禅、模様の参考に
芸大コレクション展を観ました。春の訪れとともに観たい展覧会がいくつか始まりました。昨年秋のシーズンは是非と思う展覧会を見逃しているので、この春は時間を作って出かけたいと思っています。
東京芸術大学の美術館では定期的に所蔵品を展示してくれています。
今回目指した展示は尾形光琳の「槇楓図屏風」。
同時に特別展示として「観音の里の祈りとくらし展」が開かれていました。
ポスターの上半分が所蔵品展示の「槇楓図」、下半分は観音様の特別展の方の案内です。
琵琶湖のほとり、昔の近江の国、長浜には村々の寺に数多くの観音立像が伝えられているそうです。織田、豊臣時代には地中に埋められたりして繰り返された戦乱から守られた観音様も多いとか。ポスターの千手観音(日吉神社蔵 重要文化剤)は火災から逃れ川に沈められた際に手を失くしてしまわれたそうです。その後は現在に至るまで地域の手で宗派を超えて大切に守られてきたという説明もありました。
帰宅してから「槇楓図屏風」を再度みるため、久しぶりに日本美術全集「琳派」を引っ張り出してみました。
そして今になって気づいて驚いたことが!
画質のことです。
美術全集は35年程前の出版です。新刊は高価過ぎるので興味ある刊だけでも、と古本屋を巡り中古で一冊ずつ買い揃えたものです。当時最高の技術で印刷されたはずですが…、
今見ると何とも平板で色も暗く冴えないのです。
下は全集のページを撮影したものです。
それに対して今回の展覧会の案内チラシを拡大しますと、
明らかに!昔の美術全集より、チラシでさえ今のデジタル印刷技術の方が、画質が良いのです。
今まであまり気付きませんでしたが、今回実物を観た直後の目で見ると…
全集のページをめくった瞬間に
「え!何?この画質は。何も写ってない!」と思ってしまいました。
これがデジタルとアナログの差でしょうか。ハイビジョンテレビを見慣れると以前のVHSビデオは観る気がしなくなりますが、同じ事のようです。
美術全集の方は背景の金箔があまり写らず絵具の色も平板です。チラシの方は金箔が隅々まで明るく写り、特に葉の緑の陰影が細かくきれいです。こんなに差があるのですね!
と、光琳とは無関係の事を先に書いてしまいましたが、美術全集のよいところは体系的に作品について教えてくれること。
全集によれば、この「槇楓図屏風」は俵屋宗達も同じ題材を描いているのですね。

槇楓図 伝・俵屋宗達 山種美術館蔵
そっくりなので年代的には当然宗達が先に制作。宗達に私淑していた光琳がそれを参考に後から描いたわけです。光琳は宗達の画風を学ぶために多くの模写を行ったとそうです。
意外なことに光琳の方が渋い感じがします。槇の木の足元に宗達は桔梗女郎花といった秋草を華やかに描いているのに対し光琳は竜胆や桔梗を主体にあっさり描いています。枝や葉も光琳の方がより無駄を省きスッキリしている感じなのは宗達の作を推敲して描いたからでしょうか。
背景は金箔で張りつくされていますが、秋草桔梗があることで木々が宙に浮かず、根本の地面の存在を感じられます。
この「槇楓図屏風」はつくづく観ると愉快な感じがします。槇の木が直立と湾曲したものが混在し、さらに「この辺りに赤い色があったらいいな」と思う辺りにまず楓の葉をもってきて、そこに楓の木、枝を置いた感じ。特に光琳の方は「画面の下方に青色があると引き締まるから青のために桔梗と竜胆を増やそう」と光琳が思ったような気が…。 当方の勝手な想像ですが。
宗達に同じ図柄があることなどを見比べられるのは全集ならではです。
出版不況下、充実した美術全集の新たな発行は難しいでしょう。画質が不満でも今あるものを大切にしなくては。苦労して揃えたことですし!もっともいつか本ではなくデジタル映像のディスク版美術全集は発行されるかもしれませんね。
展覧会ルポ | 01:17 PM
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2014,03,13, Thursday
手描き友禅の裏方道具、継ぎ合わせミシン
東京手描友禅の制作、特に誂え染めでは下図を描くために白生地を仮絵羽仕立てにしますので、地染や色差しをする時はすでに白生地が見ごろや衿、袖の各部分に切り分けられています。襟と衽は反物を縦に長々と切り分けた状態になっています。これを剥ぎ合せて元の反物の状態に戻さないと染色作業が出来ません。
前回に引き続き重要な裏方として本日は剥ぎ合せ専用のミシンを紹介します。
染色作業用の「継合わせ専用ミシン」
普通のミシンの縫い目とは違って縫い代がありません。
このように生地と生地が重ならずに継ぎ合わせることができるので、染めむらが出来にくく乾きも速いのが良い所です。単純な縫い目ですが丈夫で染色作業中に解けることはありません。それに解く時は糸を引くと一度でスルスル解けるので仕立て屋さんも楽です。
ぼかし屋では着物の染直しも承りますが、新規の誂え染めの時と同様、解いた着物を反物に戻すのにこのミシンは大活躍するのです。
ミシンの横にあるのは、生地の端切れです。
染める作業のために張り手(2/26ブログで紹介)をつけたり模様伸子(もようしんし)に張ったりするのに生地が傷まないように端切れを当て布として縫い付けて、張り手の針が反物に直接食い込まないように保護するのです。
化繊や木綿では代用できず、端切れは必ず絹でなくてはなりません。張り手を咬ませてエイヤッとばかりに引っ張るので(だから引き染めと呼ぶのですが)化繊では耐えられませんし余分な染料を吸ってもらうためにも絹なのです。
着物を誂えると少し生地が余分に余るので順番にそれを端切れとして使っています。長い間に貯まった端切れが沢山ありますが、仮絵羽を解いて染めの準備をするには沢山の端切れが必要です。
このミシン、一昨年壊れてしまい川崎ミシン商会さん(新宿区西落合)で直していただきました。こんな変わったミシンを直せる技術者も少なくなっているとのこと。技術の伝承を祈るばかりです。いざという時にはこのミシンを抱えて逃げなくては!
東京手描友禅の道具・作業 | 04:50 PM
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2014,02,26, Wednesday
東京手描友禅の引き染め道具
東京手描友禅が京都や金沢といった友禅の大産地と違うところは、デザインから色差し、引き染めといった友禅工程を一貫して行う製作者が多いということです。製品の販路が全国に広がっていた大産地と違い、江戸は地産地消で小規模な業界だったため分業が進まなかったという説があります。大名屋敷や侍階級が顧客で創作一点物が主流だったからという説も聞いたことがあります。
ぼかし屋でもデザイン、色差しだけでなく引き染め(主にぼかし染め)も行っています。このブログとホームページで引き染めの写真を多く掲載しておりますが、ご覧になった方から 「長い反物を横に張っている道具はどんな物?」という質問がありました。
ごもっともな疑問です。普通は道具類は縁の下の力持ちですから写真には写りません。
そこで本日は引き染めで使う道具類を紹介いたします。
張り手 (布を挟む二本の木の間には釘のような歯があります)
反物の端に当て布を縫い付け、そこに張り手の針を咬ませて縄で柱と柱の間に反物をピンと張ります。たるむと糊や染料が均一に伸びないので水平に力一杯縄を引きます。
実際に生地をはったところです。
一本の生地を張るのに両端で二本の張り手が必要です。
誂え染めでは仮絵羽仕立てした白い着物に下絵を描いてから解いて染めます。ぼかし屋では身ごろ2本、衽、袖と分けて染めます。ただし振袖にように袖が長いものや、柄行きによっては七本まで分けて染めております。当然ながら張り手は総動員です。
これは地入れ(生地にフノリを含ませて地染の準備をする)で使う一式です。糊専用の刷毛、フノリを入れた バケツ、霧吹き、伸子針。手前のビニールに入っているのは煮解く前にフノリです。
このバケツはガーデニング用として売っていたものですが、ヘリに刷毛が置ける平らな部分があり便利です。また見かけたら買い足したいと思っています。
地染の時はこのバケツに染料が入ります。複数の色で染め分ける時はバケツがいくつも並び、色を間違えないように神経を使います。ペンキ類はパッと見ただけで色の違いが分かりますが、バケツに入った状態の染料は色の違いが分かりにくいのです。
伸子針は地染をすると染料で汚れます。しなって曲がっています。
色抜き剤で煮て染料を落とします。すると
このように綺麗に色が取れて竹らしくまっすぐになります。また新たな染めに使えるわけです。さすがに竹、長年使ってもすっきり元に戻ってくれます。
ちなみに…、伸子針は何度でも色落しして使えるのに比べ、刷毛はそうはいきません。
熱湯で洗うだけで色抜き剤などは使えませんので、赤系、青系などなど、それぞれ薄い系、濃い系と何本も揃えております。その一部をホームページに掲載しております。染め工程の案内には張り手を使った地染めの写真も掲載しておりますので是非ご覧下さい。
最後に2月中旬の東京の大雪の際に撮影したベランダからの写真を紹介します。
夜、未明まで吹雪のように降り続いた雪をフラッシュをたいて撮影したところ、なかなか幻想的な写真になりました。
雪は普段の東京の汚れを隠してくれるようですが各地に大きな被害ももたらし、綺麗だと喜んでばかりはいられない状況だったのは皆様ご存じの通りです。ぼかし屋でも各種やり取りに日常的に利用している宅急便が大幅に遅れ、日頃の「翌日配達」がいかに有難いものか実感いたしました。
東京手描友禅の道具・作業 | 04:48 PM
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2014,02,09, Sunday
東京手描き友禅、ぼかし屋友禅の作品例、小風呂敷
手描き友禅では訪問着や振袖など着物だけでなく小物類の染めも行います。友禅の小物類といいますと風呂敷や半襟、帯揚げなどなど。
宮尾登美子さんの小説「序の舞」に、着物はもちろんのこと十二か月それぞれにちなんだ風呂敷まで誂え染めされていたという嫁入り道具についての描写があります。京都が舞台ですから京友禅でしょう。
金沢には加賀友禅の花嫁暖簾を誂える習慣があるそうです。
どちらもとても贅沢なことですね。
友禅は絹であればどんな生地にも染まるので風呂敷やスカーフ、半襟、帯揚げなども染めることが出来ますので、東京手描友禅でも着物以外の染めもよく見かけます。ぼかし屋でも機会があれば小物も染めております。
今回は小風呂敷の染めをした時のスナップ写真をご紹介いたします。

糸目糊 生地は鬼シボの縮緬

張り手に掛けた様子

色挿し 模様は桜の一枝

染め上がり アクセントに金彩をほどこしています。
※東京手描き友禅の染めの工程説明はぼかし屋友禅のホームページに詳しく掲載しております。「誂え染め、振袖」や「ぼかし屋の染めとは」をご覧下さい。
一月九日 本日朝のぼかし屋ベランダからの眺めには驚きました。東京は昨日から明け方まで記録的な大雪だったので外が雪景色なのは予想通りでしたが、なんとベランダ上の庇に屋根からせり出した雪が垂れ下がっていたのです。
長く東京湾岸地域に住んでいますが、これほどの雪は初めてです。
この部分が落雪した時はドスンッと重い音が響きました。落雪は本当に危険なのですね。
東京23区の積雪は27cmだったそうです。地球温暖化で暖かめの冬に慣れてしまい、このところの冷え込みには驚いています。皆様の所はいかがでしょうか。
ぼかし屋の作品紹介 | 09:25 PM
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2014,01,25, Saturday
東京手描友禅 模様の参考に
手描き友禅の模様作りの勉強にするのだからという名目を立てまして、年末に台北へ旅行しました。故宮博物院の見学と夜市を食べ歩きするのが目的でした。
故宮博物院はさすがに素晴らしい展示でした。特に紀元前数千年の昔に作られた青銅器の数々が見事でした。
中国といえば龍の文様です。
青銅器にはもちろん多くの龍があしらわれていましたが、驚いたのは5000年前に作られた龍の頭部を文様化した玉石の飾りが変色もなく白く輝いていたことです。これほど昔に想像上の動物を高度にデザインする力があったのですね。敬服、敬服。玉石を磨いて造形する技術も忘れてはいけませんが。
写真で紹介したいところですが、全所蔵品の図録は高価で手が出ず、購入した抜粋版は玉器の掲載が少なく残念です。
中国の文様でもう一つ重要なのが牡丹の花です。
友禅染の模様として使われる頻度は一番でしょう。故宮でも絵画や工芸品に様々なデザインで登場していました。染物屋としてはこれを観なければ!
図録から紹介します。
明代の漆塗り花瓶(一部)
日本でもおなじみの形に彫られた牡丹。花自体は左右対称ですが、葉は余白を埋めて自由に伸びています。
清代の七宝焼き
小さな可愛い壺で嗅ぎタバコ入れだそうです。牡丹の模様の物4点。左下の作例は日本でもよく見られる写実的な牡丹ですが、他3点は幾何学模様化されています。葉を唐草文にして左右対称、放射線状に広がる意匠で面白いですね。
こちらも七宝焼きの器です。
黄金色を背景に正面から左右対称で底から蓋まで色違いで模様が連続しています。模様としてはアラビアの王様に似つかわしい雰囲気ですね。ただ椀の形や蓋物であるところは、紛れもなく東アジア、私たち近辺の文化で親しみを感じます。
清代の牡丹図
長らく日本のお手本になってきた見慣れた牡丹図ですが、大変写実的で白い花は背を向けていたり、クタッとした葉があったり。美化せずに描いているあたりは日本画ではあまり見ないように思います。
次は着物の模様とは無関係ですが、あまりに素晴らしかったので。
ご老人が孫の手で背中を描き「う~、気持ちいいのう」と笑っている感じ。膝には子犬がじゃれています。
清代の作。黄楊の木を彫った羅漢様で、なんと全長わずか2cmです!!!!
展示室では作品の前にルーペがかざしてあり、覗いて拝見する羅漢様の笑顔がなんと気持ちよさそうなこと。それにもろ肌脱いだ上半身の骨格や生き生きとした筋肉の表現が優れていて後ろにそらした右腕などは本物のようでした。
制作者の名前は残っていませんが、この作、ミケランジェロに勝っていると思います!
長い歴史の中国なので観るものもたくさん。
最初は意外に面白かった青銅器文明を力を入れて見学。
玉器、彫り物、漆と続き、絵画を頑張り、書は足を引きずり、最後にまた唐以前に時代が戻って三彩など焼き物が始まった時には「中国にはまだこれがあったんだ~でも~もうダメだ」
それでも桃が一面が描かれた素晴らしく大きな景徳鎮の茶壺だけは、意地で何度も眺め、
「なぜ日本では桃の実は絵画の題材にならなかったのだろう。桃太郎のイメージが強過ぎるからかしら」などと思いつつ、故宮探訪を終えました。
丸一日かけましたが本当に全部は見られませんでした。
今年は日本で故宮博物院展が開かれるそうです。
最後に飛行機の中からみた富士山の写真をご覧ください。
思いがけず綺麗に写せました。静岡上空、太平洋側からの富士です。
展覧会ルポ | 12:42 PM
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2014,01,05, Sunday
東京手描友禅のぼかし屋より新年のご挨拶
謹賀新年

ホームページ掲載の参考作品例
旧年中は多くの皆様に大変お世話になりました。
ご相談、ご用命くださったお客様方はもちろんのこと、
ご助言、お手助け下さった白生地屋さん材料屋さんなどご担当の皆様、
仕立て屋さん、しみ抜き屋さん、東京手描友禅の先輩方、
本当にありがとうございました。
新しく迎えた2014年もどうぞよろしくお願い申し上げます。
ぼかし屋友禅 宮崎桂子

NHKの放送映像から
毎年恒例のウィーンフィル、ニューイヤーコンサートをテレビで楽しみました。
このコンサートは演奏も勿論ですが、会場を彩る花の装飾を観るのが楽しみです。
今年はピンクの濃淡を基調に赤や紫を散らせたバラや蘭主体の飾り付けでした。ホールの金色、楽団員の黒い礼装が抑えの効果を発揮して鮮やかな花々が映え実に豪華でした。
今年の指揮者はダニエル・バレンボイム氏。
このコンサートでは指揮者が送るメッセージも注目されます。番組の解説によれば第一次世界大戦から100年周年の年であることを意識したプログラム構成だそうです。
バレンボイム氏はインタビューで
「平和を叫ぶだけではだめで、お互いに意思の疎通ができる道を探すことが大切なのです」
と言っておられました。本当にその通りですね。
その意図を反映して選ばれた曲目はワルツ「もろ人 手をとり」
ベートーヴェンの第九で有名なシラーの詩から作曲されたものだそうです。
(2014年1/12日 追記)
お知らせ | 03:51 PM
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2013,12,23, Monday
東京手描友禅 模様の参考に。
江戸東京博物館の常設展示室の企画展示 「幕末の江戸城大奥」を見てきました。着物制作の参考になる打掛や貝桶、雛道具など興味深い展示でした。
展示品の多くは幕末大奥の主人公だった天璋院と和宮所用のものでした。
天璋院は十三代将軍、徳川家定の夫人です。篤姫の名前でNHKの大河ドラマの主人公にもなりました。同時期に江戸城にいた天璋院と和宮(十四代将軍家茂の夫人)の確執はよくドラマに取り上げられますが、今回の展示にもそれを示す説明が含まれていました。
本当に天璋院と和宮はお互いの面目と格式をめぐっておおいに揉めたのですね。有名な茵の争いは、こんな茵(しとね 座布団)をめぐって争われたのだろうと思われる豪華な茵が飾ってありました。茵一枚あるなしや着座の順序や向きが一大事だったようです。
着物の展示で特に印象的だったのは天璋院所用の小袖二点です。
萌黄繻子地 雪持笹と御所車文様の小袖
雪持笹とは積もった雪に笹が覆われている様子、雪にも負けずに笹がりんとしている様子だそうです。大変綺麗でぜひ作品に取り入れてみたいと思いました。ぼかし染めの白場が雪に見えるように図案を考えてみたいものです。
もう一点よく似た小袖が展示されていました。
萌黄縮緬地 雪持竹に雀文様の小袖
笹が竹に変わっただけで雪持ちのモチーフは同じ。地色も萌黄色ですが、こちらの生地は繻子ではなく縮緬地です。しかも驚いたことにかなり斬新な地紋があるのです。
拡大しますと、
大きな蝶を組み合わせた大胆な地紋です。この時代の着物にこれほど目立つ地紋があるのは珍しいのではないでしょうか。前述の雪持笹小袖の方は繻子地なので地紋はありません。
縮緬地に地紋を織りだす紋意匠は明治期にジャカード織り機を取り入れてからだと聞いていたので、幕末までは縮緬には地紋はないものと思っていたのですが、この小袖は違うようです。
展示の説明には「蝶と藤襷を織り出した紋縮緬地」とあります。このように華やかな地紋をジャガード機なしでどのように織り出したのか、帯を織るようにすべて手仕事で縮緬地にこれほどの地紋を織り出すとは恐ろしいほどの仕事量でしょう。あるいは輸入品の生地を染めて小袖に仕立てたのでしょうか。でもこの蝶と藤の意匠は日本風です。この時期の紋意匠縮緬はどのように生産されたのか、どなたかご存じの方がいらっしゃいましたら、当方ぼかし屋友禅のホームページ上の問い合わせメールを利用してお教えくださいませんか。
2015年 1/30 追記
文化学園服飾博物館「時代と生きる・日本伝統染織技術の継承と発展」の展示で勉強しましたので加筆いたします。説明によれば以下の通りです。
日本の紋織り(地模様のある生地を織ること)の歴史は、すでに飛鳥時代に始まっているそうです。
渡来人の職業集団に「錦織部」(にしごりべ)があって紋様(模様)のある織物を作ったとか。束帯や直衣、唐衣などが主だったと思われますが、安土桃山期に明から優れた織機や織りの技術が伝来して、薄い絹物にも紋織が出来るようになっていったそうです。
大奥の女性は当時の最高級品を身に着けていたでしょうから、拝見した打掛類は幕末期の最高技術で織られた国産品の紋意匠の絹地だったようです。
明治になってからジャカード機が輸入されて紋織が発達したのは、「量産化」できるようになったということで、江戸時代にも武家階級や富裕な商人層向けに紋織はあったのでした。紋意匠の白生地に友禅染めや刺繍を施した贅沢な小袖、打掛が今も残っているのは、そういうわけでした。
展覧会ルポ | 10:29 PM
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2013,12,10, Tuesday
東京手描き友禅、ぼかし屋友禅の作品例
ぼかし屋友禅が承るのは着物の誂え染めや染直しが多いのですが、時々名古屋帯も制作いたします。
この名古屋帯は地紋が豪華な箔模様なので、地紋を生かすために写実的な柄を避け、三色ぼかし染めにアクセントの線と小さな切り箔を散らしました。
地染のぼかしの色、朱、グレー、モスグリーンの三色を生かして切り箔も同じ色で作りました。かなり趣味性のつよい帯となっています。
若い方なら朱色系の小紋に、ご年配の方ならグレ-か渋い緑系の小紋を合わせるとお洒落で、年齢を問わずに長く使えるように色目を考えました。地紋の銀糸が渋く光るので三色ぼかしが映えます。
ぼかし屋の作品紹介 | 10:49 PM
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2013,11,26, Tuesday
東京手描き友禅、模様の参考に。(宮廷服の礼装)
東京手描き友禅は多くの場合、製作者自身が図案から色彩まで制作するので、図案創作の参考にするため日本画や工芸品など伝統的な模様に接する機会は逃さないようにしています。
今年の秋は興味深い展覧会が多く忙しくなりました。幸いぼかし屋は都心から地下鉄で15分の所で、生地屋さんや材料屋さんなどの用事を足しながら展覧会場に寄ることが出来ます。
今回は文化学園服飾博物館の「明治・大正・昭和戦前期の宮廷服」展に行ってきました。
(写真は図録より)
昭和戦前期の、とある通り明治期以降、1945年の敗戦前までの服装令にのっとった宮中の礼装の実物を展示しています。ぜひ本物の十二単を見たいと思って出かけたのでしたが、予想に反して一番の収穫は「洋装のなかに見る日本の伝統模様」でした。
明治天皇の皇后が着用した大礼服
一生懸命に西洋文化を取り入れた鹿鳴館時代のものですから全体として見るとヨーロッパ風ですが、ビロード生地に刺繍された菊花の模様は日本の伝統的な様式そのものでした。
赤地の菊がマントの部分、前出の写真の白地の菊がスカートの部分です。
どちらもこのまま打掛に使えそうなのです。
明治20年頃の制作とのことで、幕末まで大名や公家の家に着物類を納めていた呉服屋傘下の職人さん達が作ったのでしょう。外国の文化や技術を和風に取り込むことの得意な日本人の特徴がすでに見てとれるようでした。
儀式以外の宮廷行事で着用されたドレス
こちらもシルエットは完全に洋装ですが、生地は鳳凰と立湧(たてわく)を組み合わせた地紋です。着物の機屋さんが織ったものに違いありません。
他にも男性用の大礼服の展示も多く、黒い礼服を飾る金糸の縫い取りが和風の菊や桐だったり、ボタンのデザインが刀の鍔(つば)のようだったり。色々なところに江戸時代に確立した日本の模様様式を見ることができました。
前後しましたが、元々これが目的だった十二単ももちろん拝見しました。
五衣・唐衣・裳(十二単)
昭和初期、実際に宮中儀式で着用されたもので、この色の襲ね(かさね)は若い女性用だそうです。
衣は有職文様の織物ですが、裳の模様は「摺り絵」という技法で桐・竹・尾長鳥の模様を白生地に摺り込んで絵付けしてあると説明がありました。
十二単は小袖の上に長袴をつけますが、他に切り袴という足首までの短い袴に袿(うちき)を羽織る袿袴(けいこ)も多く展示されていました。
袴を引かない分動きやすく、儀式の際は皇族ではない女性が正装として着用したそうです。
屋外を歩く場合などは袿(うちき)を帯でおはしょりして着用したようです。
靴も西洋風で動きやすそうです。もっとも幕末以前は日本風の沓か草履の類を刷いて歩いたと思われます。
文化学園服飾博物館はあまりご存じない方も多いのですが、文化服装学院以来の服飾コレクションがあり、折々には今回のような企画展も催しています。
新宿駅南口から徒歩10分程度。この展覧会は12月21日まで。男性用の衣冠束帯、直衣などもご覧になれます。 https://museum.bunka.ac.jp/
展覧会ルポ | 10:41 AM
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2013,11,11, Monday
各地で紅葉の季節となりました。
一年で一番好きな季節なのですが、追い立てられるような気持ちになる季節でもあります。
街やデパートの飾りにクリスマスディスプレイが登場すると、「まだ待って!お願いだから!」と思います。着物関係でも「年内に」というお話が出てまいります。もう一歳年齢が上乗せされる時期でもありまして……。
手描き友禅の着物屋としては色々見て歩きたいところですが、なかなか思うように時間がとれません。昨年と今年は幸運にも紅葉の名所を見ごろの時期に訪ねる機会に恵まれました。
日光の紅葉と竜頭の滝
このような大自然の中で観る紅葉はもちろん素晴らしいのですが、私は建物の中から、あるいは建物を背景に「庭」として観る紅葉もとても美しいと思います。
京都 青蓮院の庭
青蓮院で何といっても一番印象的だったのは御簾越しの紅葉。つたない写真で残念です。
ささやかな紅葉が御簾越しに観ることで、とても引き立つものですね。
平安貴族の世界では男性は女性に直接会うことはできず、いつも御簾か几帳越しだったので男性の恋心がくすぐられたのだとか、さもありなん。
紅葉の中でも、緑から黄色や赤に色が移っていく途中の木を見るのが好きです。手描き友禅の模様表現にぴったりなのです。手描きの友禅染めでは、模様の葉一つ一つを片歯刷毛というごく小さな刷毛でぼかして染めることができるので、移ろう色の表現が得意なのです。
もちろん赤や黄にすっかり染まったところも良いですが。
紅葉(もみじ)は昔から日本の代表的な文様です。着物の模様としてだけでなくご存じのように日常の様々な器や布にもみじが描かれています。
ちょっと身の回りを見渡して紅葉の食器を並べてみました。
左からもみじ散らしのぐい呑み、もみじを写し取って焼いたティーカップ、流水紅葉の器。
ティーカップは焼き物でありながら、まるで和紙に本物の紅葉葉を漉き込んだようなのです。どんな技術で作るのでしょうか。
同じ紅葉でもそれぞれ形の出し方が違って楽しいです。
ぼかし屋の紅葉模様の出し方は比較的リアルな形のもみじ葉です。
(ホームページにて紹介している東京手描友禅の訪問着)
手描友禅の模様としては、紅葉の中央を濃く色挿しする場合が多いのですが、ぼかし染めを利用して葉の中央を薄く白抜きして葉の尖った部分を強調するようにしました。ふっくりした雰囲気の葉になりました。水の流れを漂うもみじのイメージです。
表現方法は友禅模様の柄行きによって様々です。
最後はわが砦、ぼかし屋ベランダから撮影した紅葉です。
団地のささやかな緑ですが、お気に入りの眺めです。
紅葉の時期が少しでも長く続きますように!
季節の便り | 12:50 AM
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