東京友禅は、ぼかし屋友禅へ

 
東京手描友禅の振袖 「貝桶文様振袖」
ぼかし屋の作品例として、貝桶や牡丹の模様の振袖を紹介いたします。



① 貝桶文様振袖 衣桁にかけたところ。

 お嬢様とお母様、お二人のお話を伺って図案を構成いたしました。
「何か古典柄を」というご希望に合わせ、婚礼道具の貝桶を中心に牡丹や菊などを彩りにした柄行きです。地色はお好きなサーモンピンクの濃淡と淡いクリーム色のぼかし染めです。



  ② 模様の一部を拡大したところ。

 生地の地紋(生地自体に織り出されている模様)は振袖ならではの華やかな牡丹唐草です。貝桶表面の模様に地紋と同じ形の牡丹唐草を用いました。このように地紋を利用して友禅模様を染めだすことを「地紋起こし」と言います。
 せっかくの誂え染め。何かに因んだ模様であったり、いわれがあったりすると楽しいものです。
「大人っぽい雰囲気」がご希望だったので模様は全体に落ち着いた色合いです。



  ③ 貝桶文様振袖 姉様畳みにしたところ。

 着物を紹介する時は写真①のように衣桁に掛けて背中側から写すのが一般的ですが、本来は帯に隠れるはずの背中部分が写真の中心になってしまい、着用時のイメージを掴みにくいという欠点があります。
 ぼかし屋ではお客様にご覧いただく時に、写真③のように姉様畳みをよく利用しております。実際に着用した時の着物の柄行きや色取りが分かりやすいためです。
 ぼかしの染め分けを利用して、上半身の上前はサーモンピンク、下前(右胸側)は淡いクリーム色に染めました。片身替わりの着物のような効果で、着用時に立体感が出ます。
 この振袖のように裾へ行くほど地色が濃くなる地染めを「裾濃」(すそご)と言います。たとえば気軽な付け下げなどの場合でも、地色が裾濃になっていると立ち姿が映えます。



  ④ 上半身の拡大

 左の前側(上前)には衿から袖先まで絵羽で模様が連続しています。それに右袖の後ろ側も身頃から袖先まで絵羽模様になっていますので、お召しになると、「お花がたくさん」です。
 全体の色のバランスを良くするため、袖の地色にも濃いサーモンピンクやクリーム色が使いました。落ち着いた色合いの模様に、ぼかし染めで三色に染め分けた地色の効果で、明るい華やかさのある振袖となりました。
 創作一点物ですから、ご注文下さったお客様だけの色、柄行きです。 このページにはお客様のご了解をいただいて掲載しております。
 この振袖の制作工程もいずれ紹介したいと思います。
ぼかし屋の作品紹介 | 11:28 PM | comments (x) | trackback (x)
手描き友禅の染め。色挿し
 東京手描友禅には様々な工程がありますが、一番華のある工程は模様の色挿しです。模様一つずつ、筆で染料を塗ることを色挿しと呼んでおります。
 染料を布に色挿しした直後は暗い色合いなのですが、染料が乾くに従い色が明るく変化します。
この違いはなかなか素人写真では判別出来ないのですが、本日作業中に撮影したものが比較的よく写ったのでご紹介します。

 ※写真にうず巻きが出てしまっています。これはデジタルカメラとシボの強い縮緬の相性が悪いためです。シボを読んでしまうようなのです。ご容赦を。
 

色挿ししたばかり。全体に濡れて暗い色合いです。
色の濃淡は、まず薄い色の染料を塗り、すぐ濡れているうちに濃い染料を片歯刷毛でぼかし染めしてつけてあります。


花びらの先端から乾いてきました。
早く乾くよう作業机の熱源にさらしながら色を挿していきます。


だいぶ乾きました。まだ中央部は暗さが残り、回りは明るくなりました。


完全に乾いて色挿し終了です。


出来上がりを裏から見たところ。模様伸子が写っています。

このように裏も表と同じように染まるのが手描き友禅の特徴です。筆描きなので染料が裏まで完全に染み透るからです。裏には糸目糊がないため出来上がり(表から糸目糊を洗い落とした後)をイメージしやすく、作業中よく裏返して眺めています。

 基本的に染料が濡れているうちは濃く暗い色合いで、乾くと薄く明るくなります。乾いた時の色を考慮して色を作ります。工程の最後に糸目糊を落とすと白い糸目が浮き上がり、模様に手描き友禅ならではの透明感が出ます。
 染料は模様の色挿しも地染でも同じ染料を使います。地染の時も乾いたらどんな色に仕上がるか、染料を煮ながら、試し布を染めて様子を見ながら考えて作るわけです。
 色の発色具合はその後の工程、蒸しや水洗いでも少々変わります。

東京手描友禅の道具・作業 | 11:30 PM | comments (x) | trackback (x)
東京手描友禅 模様の参考に。東京国立博物館
 先日上野の東京国立博物館に出かけました。入場券を貰ったのでキトラ古墳の壁画の展示を見る予定でした。混むと思い午前10時過ぎには門に着きましたが、考えが甘かった!すでに長蛇の行列。係員さんによれば壁画の前にたどり着くには3時間かかるとのこと。朝8時には行列が出来ているそうです。時間対効果を検討してキトラは諦めました。

 そのかわり!長年の懸案を実現させることにしました。
それは同館の常設展をゆっくり、全部、一人で鑑賞することです。

 特別展を見るついでに時間とエネルギーが余れば、少し常設展示に立ち寄ることはあっても、大人になってからはきちんと鑑賞したことはなく、いつか隅から隅までゆっくり見たいと思っておりました。
 さて今日こそ!と10時半に張り切って歩き出して、結果を先に申し上げますと、見終わったのは夕方五時近くでした。(途中最低限の食事と休憩を含む) 台北の故宮博物院でも息切れしましたが上野もなかなかの展示量です。着物や鎧、漆器、陶磁器、日本画は力を入れ、書、茶器、仏画仏像は省略しても一日がかりでした。
 嬉しいのは写真撮影が自由であること。撮影禁止の表示がある展示物を除いてほとんどが自由。以前と比べ展示方法も工夫され、欧米からの観光客が大勢いました。

 花の意匠の展示から、季節柄に合った花をあしらった2点をご紹介します。

綸子地 波菖蒲花束 模様 小袖(部分)


花束を散らせる模様形式は武家の女性に好まれたそうです。菖蒲の花びらには鹿の子模様もあります。色数が多く、きっと黄ばむ前はかなり華やかだったことでしょう。

   燕子花の花瓶

 
   前立てに菖蒲の飾りをつけた


 この鎧は室町時代(1500年代)の作で、菖蒲は鯨の髭で作られているそうです。

 花の意匠ではないのですが、ビックリする鎧がありました。


 こちらはぐっと新しい物で、今年のNHK大河ドラマの主役、黒田官兵衛の孫の鎧一式
 兜の後ろ飾りをご覧ください。あまりに大きくて兜の一部とは分からないのでは?
信長、秀吉、家康の時代は武士の装いがとても派手で、兜も不必要なほど大袈裟なものが好まれたそうです。この兜も着用して立ち上がったら後ろに転びそう!官兵衛の孫なら関ヶ原のころはカッコつけたい盛りの若者だったのかもしれません。これなら目立つこと間違いなしですね。

 この日は同館所蔵の尾形光琳「風神雷神図」が特別展示されていました。

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俵屋宗達の「風神雷神図」と比べてどうか、うんちくを傾ける方も多いと思います。私は宗達の方が好きですが、友人知人の間では光琳の人気が高いようです。

 着物の展示から面白かったものを。

  紫縮緬地 波帆船模様 振袖

 
 解説によれば、船の模様といえば普通は宝船などお目出度いもの。ところがこの振袖は荒波に飲み込まれそうな帆船で、武家女性の「困難に立ち向かう心意気」を表わしているそうです。19世紀のものだそうですが、五つ紋付きの振袖は明治も近い時期を思わせます。



  白綸子 花束団扇 沙綾形模様 打掛

四季の花束と沙綾形のような幾何学模様の取り合わせは江戸後期の武家女性の礼装の定番デザインだったとか。団扇はどこに?と思ったら!沙綾形の上に天狗様の団扇のような模様がありました!
着用イメージの手助けに帯が一緒に飾られています。黄緑に大きな鯉の刺繍帯。大胆です!

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鼠地 唐織 花文網目繋八橋胡蝶 文様 打掛

 背模様をアップしますと、


 燕子花に八橋の模様です。色合わせがお洒落で、隣の帯も合わせて今着用してもステキだと思います。
立ち姿はグレーに朱。帯の焦げ茶が引き締め効果を上げそうです。

 今回のもう一つの特別展示は「上村松園 焔」


 ガラスが反射していますが、会場でのスナップ写真です。かなり大きく描かれた大作で、ご存じの方も多いことと思います。

 この作品の特別展示は5月3日の朝日新聞で紹介されていました。

記事では嫉妬のあまり生霊となった源氏物語の六条御息所がモデルとしていますが、
女性には辛いことの多かった時代に男社会の画壇を生きた松園さんの苦難が背景にあるだろうと解説されています。
肩から滑り落ちちそうな着物の柄は藤と蜘蛛の巣。狂おしさを表現しているのでしょう。1918年の作。かれこれ100年前に小柄な松園さんがこんな凄まじい大作を描いたと思うと…。

 この絵には子供の頃の思い出があります。

 小学校の頃、埴輪や土器の本物を見たがった私を、父がこの博物館に連れて来てくれました。
館内を見て歩き、たまたまこの絵の前に。 怪しい雰囲気は子供にも分かり、父に何の絵か尋ねたところ、答えは「う~ん…これは……幽霊。ほら、足がない」でした。
 確かに足は薄くなって消えるように描かれているので子供としては、オバケということで納得したのです。それがいわゆるオバケではないことは大人になって自然に分かりました。
大学生の頃、留学生を案内した時もこの絵に巡り会いました。
留学生いわく「この絵は説明不要。ジェラシーだと分かる」 異文化の人にも通じるものがあるのですね。
 もと文学青年の父の説明については、子供に嫉妬やら生霊やらを説明するのを憚ったのか、単に説明が面倒だったか、真相は不明です。

 記憶の中のこの絵は、もっと身近な低い位置に飾られていました。隔てるガラスもなかった気がするのですが、どうだったのでしょうか。

 最後に本館裏手からみた風景を。
 池の向こうに庵。 本館トイレの窓から見えたこの風景が子供の頃から好きでした。何だか別の世界を覗いているようで。今は来館者用に整備、解放された本館北、中央のバルコニーからゆっくり眺めることができます。この写真はバルコニーに出て撮影しました。

 
展覧会ルポ | 04:39 PM | comments (x) | trackback (x)
東京手描友禅の色留袖 「几帳模様の色留袖」

 ぼかし屋の東京手描友禅から色留袖の作品紹介です。ホームページ上でも掲載しておりますが、このブログでは細かい模様をご覧いただけるような写真を掲載します。



  「几帳模様の色留袖」

 綸子の生地を使用した五つ紋付きの色留袖です。
格の高い礼服として比翼仕立てになっていますので、黒留袖と同等の格でお洒落なさりたい方に向いています。明るめの紺地で、裾模様にぼかし染めを使っていますので立ち姿が映える意匠です。 



  上前の裏側。裾回しと比翼

 留袖なので模様は裾部分だけ。袖や上半身は無地です。
五つ紋を意識した模様構成です。風にたなびく几帳に鳳凰が飛び交い、牡丹や菊を雲取りと共にあしらいました。几帳の後ろには御簾を重ねてあしらい、模様に奥行きをだしています。





 あまり金銀は使わずに、粋に色で表現するのが東京手描友禅です。この留袖もほとんで彩色して描いております。鳳凰が軽やかに舞うように図案を作成いたしました。

ぼかし屋の作品紹介 | 11:54 PM | comments (x) | trackback (x)
東京手描友禅 模様の参考に

 表参道にある根津美術館で「燕子花図と藤花図」の展覧会を見てきました。
主な展示は応挙の藤花図と光琳の燕子花図。
美術館の所蔵品の中からこの二点を並べて鑑賞する趣向です。



 今回はこの二点についてのコメントは遠慮するとしまして、この2点以上に収穫だったのは!
私の大好きな画家、鈴木其一の「夏秋渓流図屏風」です。この作品を観るのは初めて。向かって右が夏、左が秋の渓流図で、特に夏図が印象的でした。(写真は図録より)


   鈴木其一「夏秋渓流図屏風」  夏図(右)


                  秋図(左)

 夏図はかなり写実的な大木に、実際より大きく描いた山百合と竹笹を配置しています。会場の解説にもありましたが木と百合の写実性に比べ竹笹が極端に単純化されています。


    (夏図の中央を拡大)

 そのために屏風全体を観ると、より木と百合の写実性が増す効果があるとのこと。眺めていると確かにそう感じられます。画面が生き生きしています。
友禅の模様を彩色する時も、何もかも細かくぼかして染めるより、四分の1位は塗り切りの部分も作っておく方がぼかしの部分が引き立ちます。
(これは別にぼかし屋オリジナルではありませんが)
 なるほど、模様を形作る時も、写実的な部分に対して、デフォルメや単純化の部分をバランスよく配置すると面白いのですね!其一先生!

 他に大いに参考になると思ったのが、



  「四季草花図屏風」「伊年」印

 全部で68種もの草花が描かれていてまるで友禅の作図のお手本のようでした。それに描かれた植物の一覧を図録に載せてくれているので「花の描き方教本 琳派版」といったところです。
 ちなみに「伊年」とは俵屋宗達から始まった俵屋のブランド名の一つだそうです。

 今回の展示でもうひとつ模様のヒントにしたいのは、



  「色絵紫陽花図角皿」 尾形乾山

 紫陽花の花と手前の柵が縮尺を気にせずに描かれています。紫陽花の花が好きなので是非次回はこんな可愛らしい模様で描いてみたいものです。乾山のように、というのもおこがましいですが。
 最後は花の盛りの^根津美術館の庭の写真です。
あいにく携帯電話のカメラで画質が悪いのですがご容赦を。







お庭も燕子花と藤の盛りでした。
展覧会ルポ | 10:23 AM | comments (x) | trackback (x)
着物の巻き棒の旅

 まずはこの写真をご覧ください。

 

 これは反物を巻く時に芯となる巻き棒です。
お料理用のラップの芯の両端にプラスチック製のフタがついているとお思い下さい。
 巻き棒は機屋(はたや)さんが生地を織りあげて出荷するときに、新しい巻棒に反物を巻いて世に送り出した後は、問屋、染色業者、縫製業者を行き来します。ぼかし屋の場合、例えば湯のし屋さんに染め上がりを持ち込んだ時の巻き棒と湯のし屋さんから戻ってきた時の巻き棒が同じ物かどうか気にしません。反物の長さ、幅によって少し種類がありますが、だいたいみな同じだからです。染色関連の業者の間をたくさんの巻き棒がグルグル旅を続けているわけです。いよいよ古くなって誰かが破棄するまで。

 先日ふと手元の帯用巻き棒が妙に重いのに気付きフタを外してみましたら!
驚いたことに2011年12月13日付けの京都新聞(夕刊)が詰め込まれていたのです。
 きっと丹後ちりめんの機屋さんのところを出発して色々旅をしてここまで辿り着いたのだなぁと感慨深く…。
2年以上前の、それも京都の新聞です。シワを伸ばして読んでみました。すると偶然にも着物に関わる記事を二か所も発見しました。



 まず一面に花街の一足早い新年の行事が紹介されていました。舞妓さん芸妓さんが芸事の師匠に新年の挨拶に回る日だそうです。京舞井上流のお師匠さんに順番に挨拶している写真はいかにも京都らしいと感心して眺めました。本当に年が明けるとお客様相手の新年行事で忙しいからだそうです。
 後ろから二番目の面にはとても興味深い染色関係の記事がありました。



 ご覧のように「黒留袖、あなた色に」という見出しで、模様を残したまま黒い地色を脱色して薄い色に染め直す技術が開発されたことが紹介されています。
 黒留袖の黒が脱色できるようになっていたとはしりませんでした。
 黒留袖や喪服、黒地の振袖の地色の黒色は化学染料ではなく鉄が酸化する力を利用して染める草木染の一種だそうです。他の色(化学染料)と違って絶対に脱色出来ないものと思っていました。
 技術を開発なさる方がいらっしゃるのですね。思い出の留袖をぜひ色留袖に変えたいという方には朗報です。私は身近で実例を見聞きしたことがないので、脱色作業により生地がどんな状態になるのか分からないのですが。
 ちなみに、模様も地色も染めるのがぼかし屋の特徴ですが、黒留袖の地色だけは専門の黒染屋さんに依頼します。化学染料の黒とは比べられない冴えた黒色になります。
 この記事のすぐ下には京料理展示大会が紹介されています。京都料理組合の200店が参加したそうです。これもまた京都らしい記事ですね!
 左側にある被ばく線量の記事はせつないですけど。
 それにしても誰がなぜ巻き棒の中に新聞を詰め込んだのでしょう。
おかげで京都の新聞が読めました。
この巻き棒は新聞を除いてまたフタをしました。
いずれ旅に出てぼかし屋からいなくなるでしょう。

着物あれこれ | 12:42 AM | comments (x) | trackback (x)
東京手描友禅 模様の参考に― 絵羽模様

 着物の模様が、縫い目を境に途切れたりせずに、縫い目を越えて連続していることを
「絵羽模様」といいます。ぼかし屋の作品からひとつ例を挙げますと、


 物語模様の訪問着

 衽(おくみ)と前身頃、さらに後身頃の間の縫い目を越えて模様が連続しています。
友禅の中でも東京手描き友禅は一点物の誂えが得意なので、お客様のサイズに合わせて白生地をいったん仮縫い(仮絵羽仕立て)してから下絵を描きますから、このように模様を連続させることができます。
 型染友禅の場合も、模様がつながるように型を配置するのは手間がかかることです。
 さて!
 先日NHKで再放送された京都迎賓館を紹介する番組で大変珍しい絵羽模様が紹介されていました。まずはこの写真をご覧ください。


 
   何だかお分かりになりますか。



 木目が絵羽模様になった障子の枠です。
一本の木から切り出した一枚板の木目を生かして切り分け、障子の枠に使ったのです。
驚きます!このような凝った作りは他で見たことがありません。


 この障子のあるお座敷の様子です。



 長く大きな座卓と座椅子の向こう、縁の廊下との間に障子があり、その枠の木目が絵羽模様になるよう気を使って制作されたわけです。障子を開け放った時に木目の美しさが絵羽で楽しめるように制作されたのです。なんという手間と技術でしょうか。

 東京赤坂に昔からあるフランス式の迎賓館に対して、純和風の伝統を生かした接待をするために作られたのが京都迎賓館だそうです。外国からの賓客に出されるお料理も京都の有名料亭が回り持ちで引き受ける和食だとか。それにふさわしい建築であるために細かい所までこだわって設計され各分野の和風伝統技術が集められたとか。見学の機会はないでしょうからこの番組は貴重です。

 建物については他にも様々なこだわりが紹介されていましたが、ここでは省略します。
ただ一点ご紹介したいのは番組のナビゲーターとして登場なさった女優さんの着物姿が素晴らしかったことです。



 どなたもご存じのお二方が日本建築の専門家から説明を受けているところです。
 番組の主役は迎賓館の美であってご自分たちではないこと、ただし最高の日本建築という場にふさわしい脇役でありたいと意識なさってお誂えになった着物だと思われます。
 色無地と見間違うほどですが、お二人をよく見るとご年齢に合わせてお母様は裾に、お嬢様の方は胸元と背にも大変控え目に模様が配置され、格調高い雰囲気になっていました。模様は刺繍か染めか判然としませんが、古典的な綺麗な色合いの付け下げですね! 着物に詳しいお洒落な方ならでのお二人のプライドを感じる身仕舞いで、この番組の趣旨に大変良く合っておられると思いました。
感服、感服。

東京手描き友禅 模様のお話 | 04:23 PM | comments (x) | trackback (x)
東京手描き友禅、模様の参考に

 芸大コレクション展を観ました。春の訪れとともに観たい展覧会がいくつか始まりました。昨年秋のシーズンは是非と思う展覧会を見逃しているので、この春は時間を作って出かけたいと思っています。
 東京芸術大学の美術館では定期的に所蔵品を展示してくれています。
 今回目指した展示は尾形光琳の「槇楓図屏風」。
 同時に特別展示として「観音の里の祈りとくらし展」が開かれていました。



ポスターの上半分が所蔵品展示の「槇楓図」、下半分は観音様の特別展の方の案内です。

 琵琶湖のほとり、昔の近江の国、長浜には村々の寺に数多くの観音立像が伝えられているそうです。織田、豊臣時代には地中に埋められたりして繰り返された戦乱から守られた観音様も多いとか。ポスターの千手観音(日吉神社蔵 重要文化剤)は火災から逃れ川に沈められた際に手を失くしてしまわれたそうです。その後は現在に至るまで地域の手で宗派を超えて大切に守られてきたという説明もありました。
 帰宅してから「槇楓図屏風」を再度みるため、久しぶりに日本美術全集「琳派」を引っ張り出してみました。
 そして今になって気づいて驚いたことが!
 画質のことです。
 美術全集は35年程前の出版です。新刊は高価過ぎるので興味ある刊だけでも、と古本屋を巡り中古で一冊ずつ買い揃えたものです。当時最高の技術で印刷されたはずですが…、
今見ると何とも平板で色も暗く冴えないのです。
 下は全集のページを撮影したものです。



 それに対して今回の展覧会の案内チラシを拡大しますと、



 明らかに!昔の美術全集より、チラシでさえ今のデジタル印刷技術の方が、画質が良いのです。
 今まであまり気付きませんでしたが、今回実物を観た直後の目で見ると…
全集のページをめくった瞬間に
「え!何?この画質は。何も写ってない!」と思ってしまいました。
 これがデジタルとアナログの差でしょうか。ハイビジョンテレビを見慣れると以前のVHSビデオは観る気がしなくなりますが、同じ事のようです。
 美術全集の方は背景の金箔があまり写らず絵具の色も平板です。チラシの方は金箔が隅々まで明るく写り、特に葉の緑の陰影が細かくきれいです。こんなに差があるのですね!
  と、光琳とは無関係の事を先に書いてしまいましたが、美術全集のよいところは体系的に作品について教えてくれること。
 全集によれば、この「槇楓図屏風」は俵屋宗達も同じ題材を描いているのですね。


槇楓図 伝・俵屋宗達 山種美術館蔵

 そっくりなので年代的には当然宗達が先に制作。宗達に私淑していた光琳がそれを参考に後から描いたわけです。光琳は宗達の画風を学ぶために多くの模写を行ったとそうです。
 意外なことに光琳の方が渋い感じがします。槇の木の足元に宗達は桔梗女郎花といった秋草を華やかに描いているのに対し光琳は竜胆や桔梗を主体にあっさり描いています。枝や葉も光琳の方がより無駄を省きスッキリしている感じなのは宗達の作を推敲して描いたからでしょうか。
 背景は金箔で張りつくされていますが、秋草桔梗があることで木々が宙に浮かず、根本の地面の存在を感じられます。
 この「槇楓図屏風」はつくづく観ると愉快な感じがします。槇の木が直立と湾曲したものが混在し、さらに「この辺りに赤い色があったらいいな」と思う辺りにまず楓の葉をもってきて、そこに楓の木、枝を置いた感じ。特に光琳の方は「画面の下方に青色があると引き締まるから青のために桔梗と竜胆を増やそう」と光琳が思ったような気が…。 当方の勝手な想像ですが。
  宗達に同じ図柄があることなどを見比べられるのは全集ならではです。
出版不況下、充実した美術全集の新たな発行は難しいでしょう。画質が不満でも今あるものを大切にしなくては。苦労して揃えたことですし!もっともいつか本ではなくデジタル映像のディスク版美術全集は発行されるかもしれませんね。

展覧会ルポ | 01:17 PM | comments (x) | trackback (x)
 手描き友禅の裏方道具、継ぎ合わせミシン

 東京手描友禅の制作、特に誂え染めでは下図を描くために白生地を仮絵羽仕立てにしますので、地染や色差しをする時はすでに白生地が見ごろや衿、袖の各部分に切り分けられています。襟と衽は反物を縦に長々と切り分けた状態になっています。これを剥ぎ合せて元の反物の状態に戻さないと染色作業が出来ません。
 前回に引き続き重要な裏方として本日は剥ぎ合せ専用のミシンを紹介します。



染色作業用の「継合わせ専用ミシン」
 普通のミシンの縫い目とは違って縫い代がありません。



 このように生地と生地が重ならずに継ぎ合わせることができるので、染めむらが出来にくく乾きも速いのが良い所です。単純な縫い目ですが丈夫で染色作業中に解けることはありません。それに解く時は糸を引くと一度でスルスル解けるので仕立て屋さんも楽です。
 ぼかし屋では着物の染直しも承りますが、新規の誂え染めの時と同様、解いた着物を反物に戻すのにこのミシンは大活躍するのです。
 ミシンの横にあるのは、生地の端切れです。
 染める作業のために張り手(2/26ブログで紹介)をつけたり模様伸子(もようしんし)に張ったりするのに生地が傷まないように端切れを当て布として縫い付けて、張り手の針が反物に直接食い込まないように保護するのです。
 化繊や木綿では代用できず、端切れは必ず絹でなくてはなりません。張り手を咬ませてエイヤッとばかりに引っ張るので(だから引き染めと呼ぶのですが)化繊では耐えられませんし余分な染料を吸ってもらうためにも絹なのです。
 着物を誂えると少し生地が余分に余るので順番にそれを端切れとして使っています。長い間に貯まった端切れが沢山ありますが、仮絵羽を解いて染めの準備をするには沢山の端切れが必要です。
 このミシン、一昨年壊れてしまい川崎ミシン商会さん(新宿区西落合)で直していただきました。こんな変わったミシンを直せる技術者も少なくなっているとのこと。技術の伝承を祈るばかりです。いざという時にはこのミシンを抱えて逃げなくては!

東京手描友禅の道具・作業 | 04:50 PM | comments (x) | trackback (x)
東京手描友禅の引き染め道具
 東京手描友禅が京都や金沢といった友禅の大産地と違うところは、デザインから色差し、引き染めといった友禅工程を一貫して行う製作者が多いということです。製品の販路が全国に広がっていた大産地と違い、江戸は地産地消で小規模な業界だったため分業が進まなかったという説があります。大名屋敷や侍階級が顧客で創作一点物が主流だったからという説も聞いたことがあります。
 ぼかし屋でもデザイン、色差しだけでなく引き染め(主にぼかし染め)も行っています。このブログとホームページで引き染めの写真を多く掲載しておりますが、ご覧になった方から 「長い反物を横に張っている道具はどんな物?」という質問がありました。
 ごもっともな疑問です。普通は道具類は縁の下の力持ちですから写真には写りません。
 そこで本日は引き染めで使う道具類を紹介いたします。



     張り手 (布を挟む二本の木の間には釘のような歯があります)
 
 反物の端に当て布を縫い付け、そこに張り手の針を咬ませて縄で柱と柱の間に反物をピンと張ります。たるむと糊や染料が均一に伸びないので水平に力一杯縄を引きます。

 実際に生地をはったところです。



 一本の生地を張るのに両端で二本の張り手が必要です。
 誂え染めでは仮絵羽仕立てした白い着物に下絵を描いてから解いて染めます。ぼかし屋では身ごろ2本、衽、袖と分けて染めます。ただし振袖にように袖が長いものや、柄行きによっては七本まで分けて染めております。当然ながら張り手は総動員です。







 これは地入れ(生地にフノリを含ませて地染の準備をする)で使う一式です。糊専用の刷毛、フノリを入れた バケツ、霧吹き、伸子針。手前のビニールに入っているのは煮解く前にフノリです。
このバケツはガーデニング用として売っていたものですが、ヘリに刷毛が置ける平らな部分があり便利です。また見かけたら買い足したいと思っています。
 地染の時はこのバケツに染料が入ります。複数の色で染め分ける時はバケツがいくつも並び、色を間違えないように神経を使います。ペンキ類はパッと見ただけで色の違いが分かりますが、バケツに入った状態の染料は色の違いが分かりにくいのです。



伸子針は地染をすると染料で汚れます。しなって曲がっています。
色抜き剤で煮て染料を落とします。すると



このように綺麗に色が取れて竹らしくまっすぐになります。また新たな染めに使えるわけです。さすがに竹、長年使ってもすっきり元に戻ってくれます。
ちなみに…、伸子針は何度でも色落しして使えるのに比べ、刷毛はそうはいきません。
熱湯で洗うだけで色抜き剤などは使えませんので、赤系、青系などなど、それぞれ薄い系、濃い系と何本も揃えております。その一部をホームページに掲載しております。染め工程の案内には張り手を使った地染めの写真も掲載しておりますので是非ご覧下さい。

 最後に2月中旬の東京の大雪の際に撮影したベランダからの写真を紹介します。
夜、未明まで吹雪のように降り続いた雪をフラッシュをたいて撮影したところ、なかなか幻想的な写真になりました。



 雪は普段の東京の汚れを隠してくれるようですが各地に大きな被害ももたらし、綺麗だと喜んでばかりはいられない状況だったのは皆様ご存じの通りです。ぼかし屋でも各種やり取りに日常的に利用している宅急便が大幅に遅れ、日頃の「翌日配達」がいかに有難いものか実感いたしました。


東京手描友禅の道具・作業 | 04:48 PM | comments (x) | trackback (x)

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