東京友禅は、ぼかし屋友禅へ

 
東京手描き友禅の染め帯展

今年も先輩方にお誘いいただき、東京手描き友禅の染め帯展
に参加いたします。

「しゃれ帯展」

9/29(火)~10/4(日)
AM11:00~PM18:00
(最終日はPM17:00まで)

場所→ギャラリー サロン・ド・フルール
   東京メトロ表参道駅 B3出口より徒歩3分
   03-5485-8748



 こちらは昨日9/25の東京新聞の紙面です。
プレスリリースしたところ、しゃれ帯展を紹介して下さいました。
 同じ経産省指定の伝統的工芸品であっても、京都や金沢のような知名度がない東京としては、有難いことです。
写真左は先輩、田邊慶子さんの「シンデレラ」今年のテーマ「童話」に因んだ作品です。
写真右は拙作。蘭をモチーフにしております。

表参道界隈にご用でもおありでしたら、是非お立ち寄り下さい。
小さな画廊の展覧会ですが、伝統的な柄行きの帯以外にも
和洋の「童話」に題材を取った楽しい作品が見られます。

 私は二作の出品。会場には最終の10/4におります。
なおこの時期、同じ表参道駅に近い根津美術館では、
「根津青山の至宝初代根津嘉一郎コレクションの軌跡」が開催中です。

お知らせ | 11:18 PM | comments (x) | trackback (x)
手描友禅模様の参考に。其一の菊図と池坊の展覧会

今日九月九日は重陽の節句。長寿を願って菊の露を吸わせた綿を…云々、
ところが台風が来て、ほぼ日本全国強い雨だとか。東京も朝から荒れ模様です。

重陽の節句は 菊の節句とも呼びますから、一番好きな菊の画を紹介いたします。
以前も取り上げたことがある鈴木其一の菊図(ボストン美術館所蔵)です。


 ほんのりピンクに染まった小菊が群れ咲いている図で、小振りな二曲だけの屏風です。
女性が文机の脇に置いた、と想像しております。



はるか以前、当時の銀座松坂屋で開催されたボストン美術館屏風絵の里帰り展
観て一目ぼれ。これをきっかけに其一が好きになりました。

 さて先日、三越本店で開かれた生け花、池坊の展覧会に行ってきました。



 秋の始めとて、花材は秋草や色づいた木々でした。


 とても素晴らしいと感じた作品がこちらです。(撮影自由でした)

ナナカマドの葉が向こうの方に見える構図。足元に蘭が小さく。青々した葉が中央に配置され
作者の方が表現したかったのは、まだ暑さの残る初秋かな、と思いました。!(^^)!


 
 こちらは秋草を盛った竹の花車。このまま友禅模様になりそうです。藪柑子が加わって、ありそうでない可愛い展示でした。
 友禅模様のよい勉強になりました。ありがとうございます。

季節の便り | 12:25 PM | comments (x) | trackback (x)
東京手描友禅の道具、伸子(しんし)
 着物生地に手描きで染付けする作業に欠かせない道具に伸子があります。「しんし」と読みます。生地に模様を筆描きする時や、手描き友禅用の糸目糊置き、伏糊置きをする時に、長い生地の一部だけ(作業したい部分)をピンと張るのに使うものです。
 伸子には、長くてサイズが色々ある模様伸子(もようしんし)と、基本的に反物の横幅を張るサイズの伸子針(しんしばり)の二種類あります。
作業中の写真をご覧ください。


見頃一本の裾模様二か所を伸子で張っているところ。作業する面と裏側と。


 生地を対角線に大きく張っているのが模様伸子
×に交差した部分を左手で持って作業します。
生地の横幅を等間隔で張っているのが伸子針


 どちらも先端に針がついていて、その針を生地に挿して張るのです。

 伸子針は地色を引き染めする時も使います。

 引き染めをすると伸子針の先端部分(針の根元)が染料で汚れます。


 
 繰り返し使用するために汚れるつど色抜きします。たとえば緑の染料が付いたまま次の白生地に針を使うと、生地の端に緑色がポチポチと針から染み付いてしまうのです。

 色抜き剤をいれた湯に伸子針を入れてグラグラ煮て色抜きします。

色抜きと同時に、熱い湯のおかげで曲がった伸子針がまっすぐに戻ります。
竹って大したものです。もう四半世紀以上前から使っている伸子も現役なのですから。
何度でもまっすぐに戻り、生地をピンと張ってくれるのです。


 色抜きしたら、色抜剤が残らないよう伸子針をザクザク水洗いして、
三日ほど乾かして出来上がりです。作業に欠かせない金盥と軍手も一緒に写しました。
みんな友禅の縁の下の力持ちたちです。

東京手描友禅の道具・作業 | 12:49 AM | comments (x) | trackback (x)
手描き友禅の中でも、糸目糊を使わず水彩画のように筆描きする技法を無線友禅と呼びます。
白生地が濡れた状態で無線描きすると、染料が滲んで柔らかい仕上がりになります。これを濡れ描きとも呼び、薄くふんわりして夏向きです。


   こちらが濡れ描きしているところ。
糸目友禅の振袖や訪問着の雰囲気とはまったく違います。

 霧吹きが写っていますが、生地が乾かないように霧を吹き付けながら、花や葉を描いていきます。ぼんやりした感じを出すことができます。
 この猛暑、何事も少しでも涼しげに。

最近の話題を少々。

その一出光美術館の「田能村竹田展」を観てきました。
末の文人画家ですが、実は知らない名前でした。
ポスターに写る作品の細かい表現に惹かれて行ってみました。



 文人画というとササッと筆を走らせた水墨画というイメージがあります。そういう作もありましたが、こんな細かい画も!


   梅花書屋図(部分)

 塀の積み石から梅の老木の表現まで、本当に細かい水墨画でした。



この蘭の画はいかにも文人画という感じですが、蘭の描き方は可愛らしい感じで、画面に蘭で流れを作っているところが、着物の模様のようでした。

一番気に入ったのはこちら。


   目撃佳趣画冊(部分)

 この題は「よい趣の風景を観てスケッチした」という意味だそうです。
田能村竹田は、漢詩人、歴史家の頼山陽と親交があり、この画冊は一緒にスケッチ旅行をした時に描いた画をまとめたもの。つまりスケッチブックというわけ。
 この川辺の画はその中の一点です。川面をおおう葦が細かく柔らかく、
小さい作なので、かがみ込んで観ましたら、色も使い分けて描かれていました。
涼しそうな画なので、よけい気に入ったのかもしれません。(^^;)
添えられた漢詩を読む教養がなく残念でした。

 出光美術館はお茶の無料サービスがあり、鑑賞の途中で一服することができます。休憩所からは皇居のお堀が眺められて、冷たいお茶を片手にゆっくり座ることもできます。
 よい美術館です!

その二、この夏のよもやま話。

 今日、8月9日は長崎の原爆記念日。
先立つ8月6日には映画「黒い雨」の放送がありました。井伏鱒二原作のこの映画はご存じの方も多いことでしょう。爆撃直後の広島を逃げ歩いた主人公(演じるのは元キャンディーズの田中好子さん)が何年も経ってから原爆症に罹って亡くなってしまうお話です。
 毎年この時期になると放送されます。観るべきだ、と思いつつも、明るい気持ちになる映画でない事はあきらかなので、いつも先送りしてきました。
でも戦後70年、実は「戦前」なのでは…という不安の絶えない今年の夏ですから、思い切ってテレビの前に座りました。
 被ばくの恐ろしさは勿論ですが、爆撃直後の広島市内を再現した映像はショックでした。考えてみれば、東京下町の空襲を逃げ延びた両親(当時中学生)から、聞かされ続けた情景と似ているのでした。「アメリカのB29が空いっぱいに飛んできてね」と聞かされて育った私は、空襲の恐ろしさについて「知っている方だ」と思ってきました。でも、この映画を見ますと、「両親が見たのは、これほどの惨状だったのか…」と今さらながらに思い…何とも言えない気持ちでした。
どのようだったか、なぜそうなったのか。
忘れてはいけない事、知るべき事、伝えなくてはならない事が沢山たくさんありますね……。
ぼかし屋の染め風景 | 09:09 PM | comments (x) | trackback (x)
 梅雨が明け、とんでもない暑さがやってきました。ぼかし屋所在地は東京都の南部。埋め立て地で海に近いため、北部や内陸部よりいくらか凌ぎやすいハズですが、暑い熱い!!
 そこで今日は、以前見た涼しげな織物を紹介いたします。
 今年一月の東京国立博物館に常設展示されていた18世紀の能衣装で、
ご覧いただきたいのは、右の白い衣装



水浅葱褸地水衣(みずあさぎ・よれじ・みずころも)

素敵にわざとヨレヨレっと織られているのです。

解説文は以下の通り。

褸(よれ)とは、経糸(たていと)に生糸(精練されていない無撚の絹糸)、緯糸(よこいと)に麻糸を用いて平織にし、経糸の間隔を粗くして緯糸の打ち込みをまばらにすることによって、よろけたような織り目をつけた織物である。能装束において、庶民の労働着として使用する水衣に好まれた。

なるほど!生地をアップいたしますと、



柔らかく涼しそうな生地ですね。
麻糸だけで織ると独特のゴワゴワ感がある織物になるところを、半分は絹糸で織って柔らかくして、材質の違いから絹糸が麻糸の間をフワフワと踊っているような感じに織られていました。

 大辞林によれば、(要約)
水衣→ すいい、みずごろも。
・水仕事などをする時に着る衣。
・能装束の一種。緯(よこ)糸を太くするかまたは緩く織って波打たせた絹の上衣。シテが用いれば漁夫・樵(きこり)などの粗衣に,ワキが用いれば僧衣となる。

 能衣装においては庶民の労働着に使われたとのこと。
日本の夏は昔から湿度が高かったわけですから、働く庶民は少しでも涼しいように、同じ平織でも糸に遊びを持たせて織り、肌に密着しないように工夫したのでしょうか。もっとも絹が労働着に使われたとは思えません。実際は麻か木綿で褸地を織っていたのかもしれません。

 難しい漢字が並びましたが、(よれ)はボロを表わす襤褸(らんる)と同じ文字ですし、形状から見ても、この織り方が「ヨレヨレ」の語源に違いないと思います。
残念ながら、手元の事典や本、ネット検索やら色々あたっても「語源です」と言い切ってくれる文章には出会いませんでした。
 どなたか詳しい方がいらっしゃいましたら、
お問い合せフォームからお知らせくださいますか。

この記事には続きがあります▼
着物あれこれ | 04:02 PM | comments (x) | trackback (x)
東京手描友禅の染め帯・若草色と藤色

東京手描き友禅の一点物を創作する時は、常日頃やってみたいと思っていた柄行きと色合いを試してみることになります。
「こんな染めをやってみたい」というヒントは様々なところから頂戴します。
もちろん琳派の絵師たちの作品など、著名な美術品からヒントを得る事は多いのですが、日常生活の中から得ることもよくあります。
 今回は何気なく見ていたテレビの画面から得たヒントで制作した染め帯をご紹介します。

 こちらがその映像。NHK大河ドラマ「伊達政宗」の再放送でした。




 真田広之さん演じる徳川家の御曹司が、思うようにならない人生の成り行きに思い悩むシーンです。
暗い室内の向こうに明るい若草色が広がり、小袖の藤色がよく映えていました。
 緑系と紫系の取り合わせは、元々あまり好まなかったのですが、この映像は印象に残り、頭の中の「いつかやってみたい引出し」に保管しておりました。
 今回機会を得て実現したのが、こちら…



 染め工程から何点か写真を紹介します。


  引き染め。

 濃淡二色をそれぞれ二度に分けてぼかし染め。このような裏からの写真ですと、ぼかしの足をわざと雲取風に形作っているのが分かりやすいと思います。


色挿し

 若草色に対して藤色を活かすのが目的ですが、藤色を中心に花の色を複数足して華やかさと出します。
糸目友禅で蘭を描いています。葉の一部を無線友禅でも描き添えて、模様の雰囲気を雲取風の地染めと釣り合わせました。

無線友禅を重ね描きすると、重なり目で色が変化するのを利用して、ちょっと面白く…。
このようにクローズアップすると生地の織り目がよく見えますね。金通しの紋織です。

 それぞれ濃淡があるので、使う色はかなり多くなります。


 染めていて自分で綺麗だなと楽しむことが出来ました。
 悩む真田広之さんの場面は、映像を作るディレクターさんが、「ここはこんな光と色の具合でいきたい」と考えて撮影なさったはず。俳優さんがどんな色の小袖を着たら美しいか、そこも考えたのかもしれません。
 さらにそこから頂いたヒントで色取りを考えたわけです。
 出来上がりは, 悩みとは無縁な明るい華やかな雰囲気になりました。

 これからも、江戸の昔から伝わる伝統的な模様、柄行きを尊重しつつ、
今ならでは、ぼかし屋ならではの東京手描き友禅を試行錯誤していきたいと思います。
色々なところからヒントを得なくては!

ぼかし屋の作品紹介 | 01:06 PM | comments (x) | trackback (x)
 東京手描友禅ではあまり取り上げない画題なのですが、私は紫陽花が好きで、訪問着や帯に紫陽花を幾度となく染めております。


ぼかし屋風の紫陽花

 今日の東京は雨。いかにも梅雨らしい曇天のもと、用足しのついでに雨に濡れた紫陽花の写真を撮りに近所を歩いてみました。


  日本画のような構図、(*^^)v自画自賛。


  雨露で重そう…


 色のグラデーションこそ紫陽花の楽しみです。

 紫陽花は古くから日本で親しまれた花ですが、画題に取り上げられることは少ないようです。それでも四季花が描かれる場合には葵や百合とともに登場いたします。


鈴木其一「紫陽花に百合立葵図」


  其一の師匠、酒井抱一の「四季花鳥図屏風」(一部)


  抱一の弟子として、其一よりさらに後輩にあたる酒井道一の「紫陽花図」
 道一は、万博に作品を展示するなど江戸琳派の代表として明治期に活躍したそうです。

 この春に高島屋で開催された「細見美術館 琳派のきらめき」展で拝見したのですが、心なしか西洋の香がする絵でした。花びらの青に不思議な透明感があり、アールヌーヴォーのエナメル細工のような感じでした。

  最後に本日の朝日新聞から。
3
 
箱根登山鉄道の線路沿いのアジサイが見頃となり、夜のライトアップが始まるという記事です。
ライトアップされた中を夜間特別電車が走るそうです。
一度行ってみたいのですが、まだ機会がありません。

 同じ紙面の天気図は雨ばかり。 本当に梅雨まっさかりです。

季節の便り | 02:29 PM | comments (x) | trackback (x)
 少し前になりますが、NHKアーカイブスの放送で
「祇園・継承のとき 井上八千代から三千子へ」
を観ました。
感銘深かったのでテレビ映像をお借りして紹介させていただきます。
京舞・井上流の四世である井上八千代さんが、家元八千代の名を孫の三千子さんへ譲るにあたり
家元の暮らしや舞の披露、稽古の様子を収録した番組です。


   新しい家元として三千子さんが舞う「虫の音」

 「虫の音」は井上流家元には重要な演目だそうです。
日本舞踊には特別の知識のない私でも、隙のない身ごなしを美しいと思いました。



 紋付きの色留袖 白の比翼つき。
裾模様の背には模様がありませんが、下前に柄がある両褄模様の形式。
足の運びで下前の柄が見え隠れします。

 バレエのように動き自体に華やかさがある訳ではないのに、なぜ素人目にも美しく感じるのかと考えていて、常に体の中心にある帯締めに目が行きました。



 濃い色目の着物と帯に、正装としての真っ白な帯締め。それだけで全体が引き締まりますが、
印象的なのは帯締めの房。ピッと上を向いています。
どの場面でも上を向いた白い房は、ふんわりと広がり存在感を示しています。



 なぜこんなに帯締めと房が綺麗に見えるのか、ビデオを見返して考えました。
 おそらく、踊り手が大きく動く時も、傾いた姿勢をとる時も、
体幹だけは常にまっすぐ上を向いているので、帯〆の房部分は床に対していつも垂直となり、
白い房が常に真上を向き、房の糸がふんわりと折り返しているために華やかに見えるのだと思い当りました。
踊り手の動きに合わせ、房がフワッフワッと小気味よく踊るのです。
動く映像でなくて残念です。

 体幹が常に真っすぐな踊り姿…。


 そう思いつつ映像で見ると、全体に思いがけないほど筋肉質でいらっしゃるのが、着物の上からでも分かります。後を継ぐ家元としての日頃の鍛錬の賜物が、筋力となって隙のない舞姿を下支えしているのでしょう。敬服…。

 色留袖の柄は刺繍のように見えました。四世家元が初めて虫の音を舞ったときのものだとか。
染めでないのがちょっと残念でしたが、別の場面の映像「初寄り」(新年の挨拶)で弟子である舞妓さん、芸妓さんたちにお屠蘇をふるまうときの黒留袖は、遠目ながら椿を描いた手描友禅でした。





 「虫の音」の練習風景。


 深緑の付け下げ小紋に椿の染め帯。椿に合わせて帯〆は赤。小紋の裾回しは帯の地色と揃えて薄黄色。和服ならではの色合わせです。こんな着こなししてみたいものですね。

 最後に同じ番組から、祇園の巽橋を渡る舞妓さんの映像を。


 傘をさし道行を着てお座敷へ。舞妓さんの映像を見ることは多くても、このような道行姿は珍しいですね。黒繻子の掛け衿が町方の娘らしい可愛らしさです。

着物あれこれ | 12:55 PM | comments (x) | trackback (x)
 この春は立て続けに琳派の花の絵を楽しむ機会がありました。
今年は琳派にとって区切りの年とのことで、多くの美術館で記念展示があるようです。

 日本橋の高島屋で開かれた「細見美術館・琳派のきらめき」展の解説によれば、
琳派の始祖とされる本阿弥光悦が、家康から鷹峯の土地を拝領して彼の芸術村を創設したのは、
ちょうど400年前だそうです。


 それを記念して京都の細見美術館の琳派コレクションが
引っ越し展示
されたわけです。

 琳派とされる画家の頂点に立つ俵屋宗達(光悦と同時代)から、神坂雪佳(明治初期)
まで、特に私の一番好きな画家、鈴木其一(江戸後期)の作品を複数鑑賞できました。
何かというと其一の話題で恐縮ですが(^_^;)


  雪中竹梅小禽図 (図録より)

其一の雪を初めて拝見。梅の枝にふっくりと積もった雪、竹笹に重く積もって崩れる雪、どちらも雪がとても立体的でした。描いてさらに胡粉を吹き付けるなど工夫されているそうです。


 
  朴に尾長鳥図  (部分)

 いわゆる緑色を使わず、青磁色で葉を描き、朴の花も写実的です。
スケッチしたままを彩色した感じで、パターン化した所がまったくない其一
…ちょっと驚き…

 この絵も驚きで…



   槇に秋草図屏風

 「オッ!これも其一!」と思って近づいたら、師匠の酒井抱一の作との表示。
でも菊の葉をきっちり整理整頓し、パターン化して描き込む感じは其一サンだと思ったのですが…。抱一センセ!弟子に代作させませんでした?!(*’▽’) 

 私淑で受け継がれた琳派の中にあって、其一は抱一の正式な弟子でした。
この時代、師匠の代作をすることは高弟の証で名誉なことだったはずですが、代作云々は
其一贔屓の私の勝手な推測です、悪しからず。(^_^;)
絵具の剥落がとても残念な作品でした。

 この春第二弾の琳派は根津美術館



こちらは尾形光琳没後300年と銘打って「燕子花図屏風」と「紅白梅図屏風」が並べて展示されていました。
 燕子花は根津美術館所蔵でいつも表参道にありますが、紅白梅の方は伊豆のMOA美術館所蔵、門外不出で大切にされているので、この貴重な機会逃すべからず!でした。


「紅白梅図屏風」尾形光琳  (写真は展覧会チラシより)
 初めて拝見。 
有難いことに両方とも屏風として(つまりギザギザの状態で)飾られていました。

 つくづく眺めていて、私にとっては左側から観るほうが構図が魅力的だと気付きました。 写真撮影禁止だったので、帰宅後に展覧会チラシから紅白梅図を切り取り、屏風たたみにしてお盆にのせ、左側から撮影してみました。



 足元に白梅の太い幹、視界に収まらず天から降り降りてくる白梅の枝、
こちらへ向かってくる流れ、その向こうに立つ紅梅


本物でなく、こんな小さな切り抜きの写真で恐縮ですが、
雰囲気は出ていると思います。左からの方が迫力あました。

 二曲一双の屏風ですから、常に並べて使ったわけでなく、一隻だけを部屋の仕切りに使うこともあったはず。どちらか一つ貰えるなら、左隻(白梅)がいいな、などと勝手なことを考えておりました。想像は自由。(*^^)v

 光琳の下図がたくさん展示されていました。



   桐の絵の下絵。
 当て紙をして描き直しているのに親近感を覚えます。
私もよくやります。下図は試行錯誤あるのみなので。

たいへん美しかった展示品を一つご紹介します。


  薊図、露草図団扇

 光琳晩年の弟子の作と考えられていて、元は団扇の表裏だったそうです。なんと贅沢な!
特に薊(アザミ)の配色は、そのまま振袖に使えそうです。
コーヒーブラウンに蘇芳ピンクの花々、ちょっと個性的ですが。

 どちらもとても楽しめる展示でした。
いつか京都に細見美術館を訪ねてみたいものです。
展覧会ルポ | 07:10 PM | comments (x) | trackback (x)
 三月のブログで取り上げた作品の染め風景のご紹介です。
通常の手描友禅の工程の中から、今回紹介したい写真を何点か選びました。

紅葉模様ローズグレーの訪問着(東京都工芸染色組合主催の染芸展への出品作)
30歳のお嬢様と60歳のお母様が共用できる柄と色合いを目指した着物です。


地染めが済んで色挿しを始める準備が出来たところ。
ローズグレーの濃淡二色とグレー系のベージュの計三色で染め分けています。

 その三色から派生させた色合いで、模様の紅葉を染めます。かなりの色数を使いますが、
相性よく納まるよう「どの色もみな仲間」のような色作りをしました。


 紅葉の赤というと朱色系が普通ですが、この訪問着では
ローズグレーの仲間として渋いワインレッドを使いました。


 作業机の下に熱源があり、色がはみ出さないように、布に含まれる水分が程よくとんで
ぼかし染めが綺麗に出るように調整しながら色挿しします。


 ※絵羽模様(えばもよう)として、仕立て上がりに柄がつながる胸と袖、見頃と衽(おくみ)などを色挿しする時は、模様伸子(もようしんし)に生地を張った状態で並べ、突合せしながら色のつながりを間違えないようにします。
写真は衿の真後ろの部分。三分(1㎝強)だけの縫い代で重なります。
全体の配色にも注意して、同じ色ばかりが片寄らないようにします。


生地は身長の二倍近くの長さ
机で色挿しするので、模様伸子ごと机の前に生地を流したり、立てたりして作業します。


 この模様の特徴は糸目友禅の葉に、影のように無線友禅の葉を添えること。
色挿しが済んだ糸目の葉に、バランスを考えつつ無線の葉の模様下絵を書き込み、色を付けていきます。


 模様伸子に張った生地を裏から見たところ。
裏も表と同じ濃さで染料が浸みていることが手で色挿しした場合の特徴です。

 
 色挿しがすべて済み、糸目糊を落としたところ。
 違う色の染料が重なると別の色になる無線描きを生かして、影の葉は二枚の葉が重なって舞う様子にしました。
 糸目の葉の軸にも色をつけて存在感を出しました。
このような色付けの葉は実際には存在しませんが、着物の模様として楽しめることを優先しております。


 染め上がりを衣桁に掛けたところ。
総絵羽(裾、袖、胸、衿すべて模様がつながっていること)訪問着になりました。


 姉様畳みしたところ。
 衣桁に掛けた状態では、実際の着用イメージを掴み難いのですが、姉様人形のように畳むと、着用時に一番目立つ上半身衿から胸、袖にかけての模様と色が分かりやすくなります。
 左衿と胸はローズグレーで、右衿と胸はベージュで染め分けています。帯揚げなどの小物を
どちらの色で合わせるかによって、着付けは華やかなにも地味にもなるでしょう。
 袖は振り違いで模様が入ります。


 前裾模様。裾回しにも同じように葉が舞います。
 舞い散るというより、舞いとぶ葉で全身が包まれる着物を目指して染めました。

 ぼかし染めのとても多い柄行きなので染色作業は大変でしたが、
染めていてワクワク感がありました。
 帯や小物の合わせ次第で、幅広いご年齢の方にお召しいただける訪問着になったと思います。
 同時に次回の作品作りでは、もっと大胆に濃淡をつけて個性的にして、
影の葉も準主役に格上げしても面白いかなと考えております。

 絵羽模様については2014年4/9のブログに詳しい説明があります。
        ブログのカテゴリー「東京手描友禅 模様のお話」から検索すると簡単です。
ぼかし屋の作品紹介 | 01:47 AM | comments (x) | trackback (x)

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