東京手描き友禅 模様のお話

 
笛を包む手描き友禅の布
前回の徳川家康の絞り染めの羽織の紹介に続き、今回も家康に関連して、友禅染の布の紹介です。
NHKの番組「英雄たちの選択」で家康が息子に形見として遺した著名な笛が取り上げられていました。「乃可勢」(のかぜ)と呼ばれる笛で、信長、秀吉から家康の所有となった名笛だそうです。
(画像は放送からお借りしています)



家康には多くも息子がいましたが、二代将軍を継いだ秀忠からみて、歳の近い弟であった六男、忠輝は、将軍職の長子相続制を確立させるために犠牲となり20代のうちに蟄居の身となり、諏訪市の貞松院で人生を過ごした人です。


笛は家康の死後に形見として生母を通じて忠輝に遺され、今も貞松院で保管されているそうです。
画像は番組で紹介されたその笛ですが、ご覧いただきたいのは笛よりも!それを包む布!



本格的な手描き友禅で花丸の模様が染められています。
古く黄ばみ、かなり退色もしているようですが、美しい完璧なる手描き友禅染めです。まるでお手本。


米粉、糠粉で作った真糊を筒描きして防染し、その跡が白い糸目のように見えています。(糸目友禅とも呼ばれます)
化学染料の色だと思いますので、江戸時代後期以降から昭和期の友禅だと思います。縮緬の生地に花丸模様、花にぼかしで彩色。


糸目の外側に少々染料が浸み出ている所が手描きの味わいでとても良いです!(^^)!
本来はこのようにはみ出しや浸み出しがある事が手描きの特長なのですが、今は完全を求められることが多く、少々窮屈です。
機械プリントではないので「じわっと滲み出た感じ」が良さなのですが。
それをそのままにしているこの友禅染めは、現代のものではなく、手作業の誤差にまだ寛容だった時代の物ですね。新しくとも昭和前期かな、と想像します。


ずっしりと重そうな縮緬の生地。
縮緬生地は表面にシボと呼ばれる凹凸があります。凹凸の大きいと「シボが粗い」とか「鬼シボ」などと呼びます。この生地はかなり鬼シボ


笛の陰になっている部分をご覧ください。粗いシボがよく分かります。
こういう生地は実は、糸目糊置きがやりにくい!筒から線描きした糊が粗いシボのためにめくれて途切れやすいのです。し~っかり生地に食い込むように生地に糊を落とし込む必要がありまして…。ですからこの生地をアップで拝見すると「上手な糸目糊だな~」と尊敬せずにはいられません。
最近は華やかな地紋を織り出した生地が主流で、鬼シボ縮緬で着物を染めることは、まず無くなりました。助かりますが、「それでは訓練にならないよ」とこの生地に言われそう!!!


いつ、だれが、この布で笛を包んだのでしょうね。
諏訪市貞松院で検索しますと、ホームページの寺宝の項目でこの生地、笛をご覧になれます。残念ながら包み布については特に説明がありませんでした。
名笛や刀など宝物の保存には高価な織物が使われることが多いはずですが、この笛は友禅染の縮緬で柔らかく包まれていたのですね。

政治面でも家康に貢献した側室だった生母、阿茶の局の庇護もあったことでしょう。忠輝公は蟄居先の貞松院で安定して暮らし92歳まで長生きしたそうです。江戸時代としては大変な高齢。世俗と距離をおいたのがよかったのかもしれないですね。笛の名手だったそうです。

東京手描き友禅 模様のお話 | 01:46 PM | comments (x) | trackback (x)
赤いスポーツ車


素敵な赤!
実は先日5月7日まで放送されていたNHK BSのドラマ「グレースの履歴」の放送画面を写したものです。
おとぎ話的なストーリーが魅力的でした。それ以上に映像がとてもとても美しく、紹介したいと思います。勝手に紹介、なのですが(^^;)
紹介したい一番のポイントは赤の美しさと配置です。


画面の中の赤色。赤は強い色ですが、ストーリー自体はセピア色やワビサビのグレーな世界。その中に赤い車を馴染ませるように要所に赤色が置いてあるのです。






NHKの放送ですが車名(社名)は明らか。
車はHondaのF800というスポーツカーであることが重要な意味を持っています。四輪車メーカーとして創成期の作品だそうです。


街から街へ巡るストーリー。途中の風景も撮影の苦労が偲ばれます。彼岸花はどこでも咲いているわけではないですから。




フロントガラス一杯の夕焼けは見事でした。


主人公が縁あって訪問した仁科オートサイクル。二輪車の修理工場。大看板は赤です。焦げ茶色の背景によく合っていますね。壁面の窓ガラスに車の赤が写っていますよ。
その親父さんと車を前に語らう場面。


渋カッコイイ親父役、宇崎竜童さんの足元をご覧ください。真っ赤な靴下。こういうことは演出家が手配するのか俳優さんのアイデアなのか…知りたいところです。親父さんは別の画面(靴下が写らない)では作業服から覗く襟巻が赤でしたよ。


修理工の親父さんの若かりし頃の思い出場面。昔この車を修理したことがあったのでした。


石造りの背景に赤い車。覗き込む若者。


彼の工具入れはもちろん赤


テレビ画面を素人カメラで写しているので限界を感じます。放送ではもっと陰影が美しかったので残念です。
再放送があると期待しております。


このスポーツカーは栃木県茂木市にあるHondaのコレクションホールで見ることが出来ます。Hondaのテーマパークの中にあり、二輪、四輪の往年の名車やF1カー、最新型まで展示されています。
モビリティリゾートもてぎ で検索




東京手描き友禅 模様のお話 | 07:02 PM | comments (x) | trackback (x)
東京手描友禅、模様の参考に、友禅染の柄行きに重い軽いという言い方をする意味は?

振袖の柄行きのお話が前回のブログでした。
全身に均等に模様があるより、模様の多い所と少ない所を作った方が、友禅染の振袖や訪問着は綺麗に見えるというお話でした。
上前の左胸や膝の辺りで模様を多くすると友禅染が綺麗に見えることは「様式美」となっていて、礼装の着物をデザインする時の原則のようになっているのでした。
本日はその続きです。


こちらはぼかし屋の訪問着。
全体に紅葉が流れていますが、紅葉の配置は原則通りです。

姉様畳みで着装した場合の様子を想像しやすくした写真。


下前(右胸)には紅葉はありません。地色も衿を境に左右の胸で違う色(ピンクとベージュ)が向かい合うような配色です。


手描き友禅の誂え染めで柄行きを決める時、模様が多い部分を指して「柄が重い」といいます。他にも「この辺の模様を重くしよう」などと言います。「少し重すぎるから、野暮にならないように軽くした方がいい」とか。
どの辺りに紅葉を多くして、柄を重くするかは本来は自由で決まりがある訳ではないのですが、やはり様式美を意識して友禅模様の軽重を考えると綺麗に落ち着くのです。


裾模様。褄下の線を境に、写真右側が上前(着た時に前膝辺りにくる部分)左側は下前(上前の下に入り込む部分。歩くと見える)。
やはり模様の重いポイントや地色が左右で重ならないよう互い違いになっています。
振袖や訪問着といった手描き友禅の着物は、衣桁に飾れば日本画のように、着ると模様に軽重のある粋さが求められていると考えております。
理想ですね!
柄行きを考えている時に原則に戻って手直ししてスパッとはまると、伝統には勝てないなと思います。
(^^;)

東京手描き友禅 模様のお話 | 05:35 PM | comments (x) | trackback (x)
このところ訪問着のための蘭の模様の図案を描いています。
全体に蘭の濃淡と、地色も淡いグリーンからクリーム色の濃淡にする予定。



なかなかに苦戦しています(^^;)
何をと言って、蘭の形が決まらない…
昨日、ヨシ!と思っても、今日、ダメだ…を繰り返しておりまして。


一度決めた姿を調整しています。


調整につぐ調整で、頭の中の完成図がグラつきます。(T_T)


少しずつ良くなっていると思いたい日々です。

関東はまだ暑さが残るものの、空気がカラッとして、しのぎやすくなりました。
引き染めに向いた季節がやってきます。
急がないと。

東京手描き友禅 模様のお話 | 10:33 PM | comments (x) | trackback (x)
前年度後半にNHK BS放送が懐かしの刑事コロンボの人気投票上位20を下位から順に土曜日に放送を続け、一番好きな「別れのワイン」が3月の最後、つまり第一位として放送されました。
過去数回見ていますが、今回初めて気づいたことがあり、テレビ画像をお借りして紹介させていただきます。

それは各場面に「赤」が「挿し色」として使われていること。

挿し色とは画面にアクセントとして使われる色で、絵画にも映画にも、織物や友禅染にもあります。
日本映画の小津安二郎監督が赤を好んで挿したそうです。この「別れのワイン」にも赤が、疑惑や緊張感を高める効果で使われているのです。
(写真では全体に朱赤になってしまいましたが、テレビ画像では真っ赤や重々しい赤ワイン色)


犯罪の舞台となったロスアンゼルスのワイナリー

ドラマは赤ワインの乾杯シーンから始まります。



左がエイドリアン・カッシーニ
高級ワイナリーの責任者で世界有数のワインの目利き。
愛蔵の赤ワインでお客様をもてなしている。
私室に戻ったところ、仲の悪い異母弟が入り込んでいる。
実はワイナリーは弟の名義。弟は実務は行わずに利益だけ持っていき派手な生活。


多額の現金目当てにワイナリー売却を決定したと、いきなり告げられエイドリアンは激高。手近な置物で弟を殴り気絶させてしまう。

ニューヨークへの出張予定があることを利用し、エアコンを切ったワイン貯蔵庫に閉じ込めて留守中に窒息させればアリバイを作れると思いつく。彼は気絶している弟を貯蔵庫に放り込む。
貯蔵庫に鍵をかけ、ヤレヤレと思った彼は弟が乗ってきた真っ赤な車に気付く。
(結局この車がコロンボを彼のもとへ引き寄せることになる)




彼のネクタイは赤ワイン色。

自分の車庫に隠すと

素知らぬ顔で予定通りニューヨークへ出発。

飛行機内の様子。


座席で隣の秘書に弟あての手紙や送金を指示し犯罪偽装する。
静かな機内の場面で秘書がメモのため赤い鉛筆を走らせる。
鉛筆の赤色だけが忙しげに動く。
(この秘書は後で事実に気付き、彼を脅して結婚を迫る)

ニューヨークのオークション会場。
彼がいかに目利きか、そしてことワインに関しては浪費もしてきたと伝わる場面。


帰宅後、彼は弟の車にあったダイビングウエアを遺体に着せ、車に乗せて海に運ぶ。遺体は海に落とし車は海岸に放置する。


ダイブ中の事故に見せかけるために。

さてコロンボの登場。


カッコイイ車を羨ましがる若い警官の言葉から、
車は海岸に置かれたばかりだと気付く。
推定死亡は何日も前なのに。

コロンボが遺族としてのエイドリアンに会いにくる。


ストーリーはすべて赤ワインと共に進む。


エイドリアンはコロンボが遺族に会いに来たのではないと気付く。

コロンボはワイナリーの様子を調べる。


彼の友人たちに聞き合せをする。



(コロンボが忙しく移動中だと現す場面。
赤のために落ち着かない雰囲気。通行人の服まで赤)

彼がどんどん追いつめられる緊張が漂う画面が続く。


状況から彼が犯人と確信したコロンボだが証拠がない。

彼のニューヨーク滞在中(ワイン貯蔵後のエアコンが切れていた間)、ロスアンゼルスが季節外れの高温に見舞われていたことに気付いたコロンボは、彼を高級レストランに招待する。


出かける彼と秘書。夕暮れの灰色の中に秘書の服の裾の赤が際立つ。

コロンボはソムリエの協力を得てエイドリアンの貯蔵後から持ち出した高級ワインを、素知らぬ顔でふるまう。

(後ろの席には真っ赤な服の人が、ソムリエの盆には重厚な赤色が)

高温のためワインの風味がすでに損なわれていると見抜いた彼は、
同時に自分の貯蔵庫のすべてがダメになってしまったことを悟る。

(テレビ画像では彼の手元の瓶の口も鮮やかな赤)

自分に対する怒りに任せて、ワインを海に破棄しているところにコロンボがやってくる。

ワイン瓶の赤が効果的。車のテールランプの暗い赤と合わせて、まさしく挿し色

彼はワイン初心者だったコロンボがワインの温度変化などの勉強を重ねて犯罪の自供に追い込んだことを称賛、コロンボは自分の運転で彼を連行する途中、最高級のデザートワインをエイドリアンに贈り乾杯する。


ここで初めて赤が一切無い画像となる。 ワインも
観ている側の緊張がホッと解けてドラマが終わる。

この作品はコロンボシリーズ人気投票で、2位を引き離しての1位だったそうです。
シリーズには珍しく衝動殺人であること、犯人とコロンボが互いを尊敬しあう点が人気の秘密と思っていましたが、今回は映像そのものもストーリーを引き立てているのだと気付きました。撮影する時に効果を考え、色調の方針を立てて作品を作るのでしょうね。名作は何度見ても面白いです。


犯人エイドリアン役はドナルド・プレザンス、映画「大脱走」で主要登場人物の一人を演じた名優。私がリアルタイムで知っている刑事コロンボの方も、すでに時代劇になってしまいました。
挿し色についてはこれからも機会を作って、着物や和物の場合でご紹介したいと思います。


東京手描き友禅 模様のお話 | 01:55 PM | comments (x) | trackback (x)
着物の染めや柄行きを話題にする時使う言葉の中に
片身替わり(かたみがわり)という言葉があります。
片身とは見頃の右半分、左半分のこと。着物の場合、着た時に衿や胸の色合いが左右で違うことを片身替わりと呼ぶのです。
左右の違いでおしゃれの効果を上げて楽しむための意匠です。
たとえば、

この蘭の訪問着は、全体にグレーとピンクの地色で染め分け、着ると左右の胸と衿で2色が交差するように染められています。


着用するとグレーの方が多く表に出て、ピンク地と華やかな蘭を落ち着かせます。
このように一方を強く華やかに、もう一方は抑え役で片身替わりに合わせることが多いようです。
この片身替わりの意匠は室町時代後半から増えたとか。それ以前にも前例があり、重ね着した袿(うちき)を一方の肩だけ外して下の小袖をわざと見せる着方があったのです。
そういうファッションの歴史の中に片身替わりもあるのですね。


こちらは戦国大名、北条氏康の肖像で、小田原の早雲寺所蔵の原本を昭和初期に模写したもの。狩衣の中の小袖の衿をご覧ください。


片や緑の格子、反対は焦げ茶の無地です。正面から見ると両方が目に入り、両衿が緑の格子であるよりもはるかにお洒落に見えたことでしょう。

この時代以降、江戸初期まで着物は男女問わずに一番華やかな時代に入ります。


こちらはNHK大河ドラマ、伊達政宗の晩年、江戸初期に入ってからの場面です。
俳優さんの衣裳は金茶と濃い海老茶の片身替りの羽織。この場合、後ろから見ると背中心を境にくっきり色が替わる強い対比になっているはずです。再放送で見た時に とても素敵でこの時代をよく写しているので保存していた画像です。
伊達政宗はお洒落の代名詞でもありますね。

片身替わりは着物の特許ではなく、身の回りの和風の物には沢山みられます。

こちらは古い陶器(上野国立博物館の常設展示より)

片身替 釉 水差し(江戸時代)
わび茶の道具なので地味ですが片身替わりのおかげでオシャレ。


織部 洲浜型 手鉢(1600年頃)
洲浜の形の鉢に手提げをつけたもの。


鉢の半分だけにどっぷりと緑釉をかけてあるのです。

実はごく最近購入した小樽のガラス食器も片身替わり!(^^)!


右半分がブルー、左半分はピンクで、とっても身近な片身替わりです。

左右まったく違うけれど、全体として見た時にバランスよい色合い、模様の量が目に入る
という片身替わりは日本の独自性が高い意匠だと思っています。西洋やアラビアなどの文化では左右対称が基本。
左右の衿が違う色、お皿の半分が違う色、面白いですね。

仁阿弥道八の桜楓文鉢(江戸時代)


地色の違いはありませんが、模様が左右でまったく対照的。
春の桜に秋の楓。これも片身替わり応用編ですね。
友禅染でもぜひ真似して、まねびたい柄行きです。
桜と楓、左右をどちらに当てるとよいでしょうか。想像すると楽しいです。着物の場合、上前となる左胸側に来る色、模様が主人公になります。

東京手描き友禅 模様のお話 | 03:05 PM | comments (x) | trackback (x)
 タイトルで七宝焼と手描友禅を並べたのは、七宝焼は「焼物界の友禅染」だからです。
もちろん!まったくの個人的意見なのですが。(^-^;
 共通点は模様を描き出すのに「境目をつけて色が混じらないようにする」こと。

 ご存じのように手描友禅は下絵の上を細く絞り出した糊でなぞり、糊を堤防にして染料が混じらないように模様を描きます。

ぼかし屋の作業風景より。(線状の糸目糊が見えています)

最後に水洗いすると、落ちた糊の跡が白くなり糸目のように見えることから糸目友禅とも呼ばれるのです。

 一方の七宝焼。(写真は七宝の産地、愛知県あま市のHPより)
 皿や壺の形(多くは銅製)に描いた下絵に、細いリボン状の金属線を植え付けて


 隣り合う色釉薬が混じらないように筆で色置きしていくそうです。

 こちらは七宝焼の絵皿。

ね、素材は違いますが友禅染の仲間でしょう。昔一目ぼれして買いました。
釉薬の境目になっている金属線がまるで糸目のようです。

 さて、この七宝焼の展覧会が東京都庭園美術館で開かれています。

  並河靖之 七宝展 4/9まで。

 並河靖之はいわゆる明治の超絶技巧を紹介する展覧会や番組でも必ず取り上げられる七宝作家です。ただしご本人がすべて制作したのではなく、優れたデザイナーでありプロデューサー、メーカーだったとか。

  蝶に竹花図 四方 花瓶 高さ24㎝

一番見たかった作品。(写真は図録から)
ゆるやかな四角柱の花瓶。角を利用して竹を描き立体感があります。
花丸唐草文 棗(なつめ) 高さ6.4㎝
 花丸は友禅染で好まれる模様。まるで黒地花丸模様の振袖を凝縮したようです。

江戸以来の職人が新しい工芸制作に流入した時代なので、本当に友禅の下絵職人がこの棗の下絵を描いたという想像もできます。ちなみに並河靖之ご本人も、もとは武士だったそうです。


桐の花の下絵 下絵自体が美しいです。

花桐蝶文 大花瓶 高さ30㎝ こちらは大きな花瓶ですが、

草花図 小花瓶 高さ10㎝
 このように小さな花瓶もたくさん展示されていました。七宝はアクセサリーにも使われるくらいなので、本来小さな作品に向いているのでしょう。

 小さいと言えばこちらの作品

  四季 花鳥図 名刺入 高さ9センチ
 金属線で堤防が仕切られているからこそ、このような細かい表現ができるとも言えますが、この精密さは時計職人の技術ですね!!

 製品としての高さが9㎝なので、この写真の図柄の縦サイズは3センチくらいだと思われます。      

     名刺入れの下絵

 四季 花鳥図 花瓶 高さ35センチ
 
黒地を得意とした並河七宝の集大成のような作品だそうです。

黒地に金色の線で描いた図があでやか。このまま着物の模様のお手本になりそうです。


 竹笹の奥行感が濃淡で表現されています。背景の黒が冴えていました。
 
 花鳥図 飾り壺 高さ23㎝

 こちらも濃淡を使い淡い色の桜から濃い紅の桜まで。きっちり色分けされていました。
下の方に描かれた黄色い菊が実に美しく印象的でした。


 解説には、明治時代に外貨獲得のために振興された国産の工芸品の一つとして並河七宝は大いに評価されたものの大正期にはいると輸出量が落ち始め、国内市場は育たないまま、並河靖之も1927年には工場を閉めた、とあります。
 陶磁器であれば高級品は僅かしか売れなくとも、廉価な日常品が大量に売れることで産業を下支えしますが、七宝はそれ自体が高級品ですから、需要が一巡した後は弱かったのかもしれません。今は美しいアクセサリーを多く見かけますね。


東京手描き友禅 模様のお話 | 06:24 PM | comments (x) | trackback (x)
 8月13日の朝日新聞紙面に、ブリュッセルで開かれた花の祭典「フラワーカーペット」が紹介されていました。本物の花を敷き詰めて作る巨大なカーペットで,
街の広場を覆うイベントで、世界中から多くの観光客が訪れると聞いています。
日本とベルギーの外交樹立150周年を記念して、今年のテーマは日本




 日本をイメージするにも富士山とか歌舞伎とか色々あると思いますが、カーペットであるためか、嬉しいことに「和の文様」でデザインされているのです。
しかも地紋のある生地に模様をあしらう友禅や刺繍の着物を彷彿とさせるので、嬉しくなってしまいブログで紹介することにしました。
 拡大しますと、




 外枠を紺地の七宝文様で取り巻き、海老茶の枠に七宝文と二重菱を配置し、内側はクリーム色の地に一面の地紋が籠目と青海波。その上に桜、竹、松、波を描き、中央に鯉や鶴、菊も見えます。



ほぼすべて日本の伝統文様です。すてきですね~~!

 伝統文様とは、「このように描いたら松とする」というような、一定の引き継がれた約束事の上にデザインされた文様の事と考えています。扇形の半円を繰り返して波とする青海波はその代表例。着物や食器、家具などに日本人が描いて、大陸文化の影響を受けながら練り上げてきた文様です。
 はるかベルギーの古い町並みの広場に、このような花のカーペットを作り上げてくださった方々に感謝、感謝です。
 このイベントは2年に一度開かれて、その時の記念すべき事柄をテーマにしているそうです。ちなみに前回2014年はトルコからの移民受け入れ50周年を記念してトルコの図柄だったそうです。
 ブリュッセル市のHPから前回の写真を2枚拝借。



 制作中の画像もありました。大勢の手で花を敷き詰めていくのですね。



 だいぶ以前にテレビで、このイベント用の花を栽培する農家が取り上げられていました。希望に沿う色の花を必要な分に足りるように、一家総出で栽培していましたっけ。

 ブリュッセルで行われるこれほどのイベントなのですから、日本がテーマになったと、もっとメディアが取り上げるべきではないかと思いますが、この時期テレビはオリンピック報道一色でした。残念…


東京手描き友禅 模様のお話 | 10:03 PM | comments (x) | trackback (x)
東京国立博物館の所蔵品展示で 古い友禅染の作例をいくつか観ることができました。

 特に驚いたのがこちら。






  産着  納戸綸子地 宝尽くし模様

 伊達家の殿様、伊達吉村の所用だそうです。かの伊達政宗の曾孫で1680年生まれ。若様の産着がお古とは思えませんから、もしかすると制作時期がはっきりしている一番古い友禅染ではないでしょうか。
 身分の高い武士階級やお公家さんの着衣の模様は、江戸小紋等を別にして、主に織りか刺繍だったのですが、子供用には、洗えて肌触りの柔らかい友禅染めも使われたのですね。


 紐の先まで宝尽くしが散っています。贅沢な地紋に五つ紋付きでした。
江戸時代前期としてはかなり細かい友禅染だと思います。
 
この展示は着物のコーナーではなく、武士の鎧や小袖、武具を飾るコーナーにあり、隣は幼児用の可愛い陣羽織でした。

江戸時代、町人階級は贅沢な織りや刺繍を制限されていたので、友禅染はおもに町方の富裕層のファッションニーズに応える形で発達しました。



振袖 薄紅平絹地 薊菊模様
この振袖は1700年代の江戸中期のもの。

解説に「浅葱色に染めた州浜形の内に、簡略化された薊と菊を糊置きし、墨色や藍色で地味に彩色した、いわゆる光琳模様」とあります。
ここで言う「糊置き」とは、細く絞り出した糊(糸目糊)で下絵をなぞり描きした、という意味です。糸目糊で防染してから染料で彩色すると糊のあとが白く糸目のように残るのが友禅染。この作品は糸目がくっきりを白く浮き上がって見えていていますね。


どんな商家のお嬢さんが着たのでしょう。



 間着(あいぎ) 紅綸子地 牡丹青海波網模様

 こちらも1700年代のもの。間着は打掛の下に着る小袖だそうです。
模様はすべて鹿の子絞り。 たいへん贅沢ですが、上にさらに打掛を羽織ったのですね。

 江戸時代の友禅の話題ついでに、最後にNHKテレビの映像から。
前回の朝の連続ドラマは、最初のころの舞台は幕末期で、
京大阪の大商人の娘さんが主人公でした。
どんなにお金持ちでも町方ですから、織や刺繍は制限されており、着物は主に染めの模様なのです。
ドラマ撮影用とはいえ、毎回素晴らしい友禅染衣装が見られました。



 主人公の袂に偶然鉄砲が飛び込むというシーン。

着物はもちろんですが、裏側の比翼も細かい友禅。帯も染めの模様です。
衣装を楽しめる番組でした。

東京手描き友禅 模様のお話 | 11:17 PM | comments (x) | trackback (x)
 手描き友禅の柄行き、模様を作図する時には色々な参考資料も使います。他の工芸品の文様や柄行き、季節の花々、琳派や狩野派の障屏画の写真などが主なところです。ですから作業部屋の本棚には本がいっぱい。
 先日そこに新たな戦力が加わりました。
 「日本の意匠 全16巻」 です。
 5年前に他界なさった師匠、伝統工芸士の早坂優先生の奥様が、長く工房で使われていた一揃いを下さったのです。
何度も何度もお借りして図案作りの参考にした本なので、大変有難いことです。

 貴重な本ですから、ずらりと並べて記念写真。




 手前右の表紙の図柄をご覧ください。
今年の染芸展の友禅体験にお越し下さった方は、あらっとお思いになるのでは?
(御所)車に流水の図です。友禅体験で使われた車の模様のモトとなる意匠です。



片輪車蒔絵螺鈿手箱 

国宝で平安時代の塗り物です。
牛車の車輪は乾燥すると割れてしまうので、川に車輪を浸しておく風景は平安時代の都の風物だったはず、とのこと。

 この全集は1985年、京都書院の発行。これだけの全集を組むことが出来たのは世の中が好景気で、伝統工芸産業全体がまだまだ元気だった時代だからでしょう。
今改めて見ても内容は充実しています。
 たとえば、桜の巻のページには



 刀の鍔の細かい細工や、陶磁器の模様まで写真が載っています。



陶磁器の模様もたくさん掲載されています。

 まさしく着物の模様の参考書!!

 動物の巻には面白い打掛が!


お猿さんの柄です。


 打掛ですから身分の高い人が着たはず。
でもこんな愉快な柄行きを楽しんだのですね。驚きます。

 紅葉の巻には仁阿弥道八の「桜楓文鉢」も載っています。
                  (右ページは桜の花筏文様の水指し)



 この作品の特徴である内側ビッシリの文様がよく写っています。


普通の美術書ではこんな角度から写したりせず、もっと写真の構図として格好良く、器の横から写すはず。おそらくこの本が伝統工芸に携わる人向けの編集であることから、
上から覗き込むような目線で写してくれたのでしょう。
「ほら、こんな図案ですよ」と。

同じく紅葉の巻には何度も見た懐かしい図が。


檜垣に楓散らし文様の能衣装 (江戸時代、岡山美術館所蔵)


この紅葉の色合いが自由で楽しく、
実際にはない色取りなのに模様になると不思議にリアル…
この図には結構影響を受けていると自覚しています。



ぼかし屋の訪問着の作例から。
織や刺繍の能衣装と違い、友禅の方は柔らかい印象です。
でも、要点は同じ(つもり)です。

貴重な全集!師匠ご夫妻に感謝<m(__)m>
大切に、しっかり利用していきたいと思います。


東京手描き友禅 模様のお話 | 12:22 PM | comments (x) | trackback (x)

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