東京手描き友禅の黒留袖

 
 東京手描き友禅のぼかし屋の作品例はホームページ上に掲載いたしましたが、紹介出来なかった内容について、このブログでご案内いたします。

 今回は東京手描き友禅、誂え物の黒留袖の紹介です。


おめでたい貝合わせと貝桶の図柄の格調ある模様です。貝合わせの図柄には王朝風の女性を描き込み、貝桶には四君子として蘭、竹、梅、菊の模様を描きました。


上前の柄

 既婚女性の正装である黒留袖は高価ですから、そうそう何着も誂えるわけにはいきません。
そこでこの黒留袖も柄行きと色合いを若奥様からご年配の方までどなたでもお召しになれるよう工夫したものです。模様にはかなり多くの色が使われていますが、地色が黒なのでまとまりがよく、貝桶の背景色は落ち着いたピンクグレーなどに金彩をあしらっています。


後ろ(背)裾の模様

 ぼかし屋は友禅の模様挿しはもちろん、地色の引き染めも一人で行うのが特徴ですが、黒留袖だけは別で、地色の黒い色は専門の黒染屋さんに依頼いたします。この黒留袖も生地の一越縮緬に黒が冴え冴えと染め上がっています。
 誂え物の黒留袖の場合、五つ紋は「染め抜き紋」です。白生地のうちに紋の形を糊で防染しておき、染色作業が済んでから糊を取り除き紋の形に白く染め残った部分に、筆で紋を線描きするのです。もちろん専門の紋屋さんに依頼します。
 そういえば宮尾登美子さんの作品「陽暉楼」に、新年にあたり「売れっ子芸者は黒の冴えた新しい着物を、売れない芸者は染め返しや人のお古を着ている」という描写がありました。
 単独で見れば何ということがなくても、並べて見比べると染めや絹地の優劣が目立つのが黒色だと言われています。大勢の芸者さんが居並ぶ中で、新年の黒いお祝い着はそれぞれの売り上げ成績表のようなものだったというわけです。
 作家、宮尾登美子さんが着物に造詣が深いのは有名です。作品中に登場する着物の描写は大変細かく、私も読んでいて参考になることもしばしばです。
 「陽暉楼」の世界はさて置き、現代の一般の生活では黒留袖を着る機会は少ないので、お祝いの予定が出来て慌てタンスから出したら、退色していたりシミが出ていたりする事も多いようです。
 ぼかし屋では、ちょっとしたお手入れから本格的な染直しまで、ご相談を承っております。ホームページ上からご連絡いただけます。
 最近は結婚式でも着物姿が少なくなってしまいましたが、留袖や振袖といった礼服を始め着物は世代を超えて引き継げるので、上手にご利用いただきたいなと思います。

ぼかし屋の作品紹介 | 12:02 AM | comments (x) | trackback (x)

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