庶民の織物(山形県、致道博物館)

 
山形県鶴岡市致道(ちどう)博物館を見学する機会がありました。
旧庄内藩の文化、産業、建築の伝承のために1950年に設立され、市中心の広い敷地に移築された保存建物が点在し、農具、漁具(船も)、生活用品などが展示されていました。とてもとても面白かったですよ!


敷地内で必見なのは、「旧渋谷家住宅」
合掌造りのような多層民家です。感激したのは、建物内に民具類が展示されていることです。




あるべき物があるべき場所に。同じ道具でも資料館の所蔵品として展示ケースのガラス越しに見るのとは迫力が違いました。

寝室に相当する小部屋。左上の窓から光が差し込み、和風フェルメールの絵になっていました。


「掻い巻き」という着物の形の布団が、敷いてあるもの、壁に吊ってあるもの、脇に畳んであるもの、とリアルです。糊防染の藍染なので手描友禅の仲間。厚みがあり、くるまれば暖かそう。右下に丸太が見えますが、枕替わりだったそうですよ!

作業部屋に織り機が並んでいました。

奥から、
「シナオリ」科の木(しなのき)の皮から作った繊維を糸状にして織る。
「オロコギ」和紙を裂いて木綿糸と共に撚りをかけた糸で織る。
「サキオリ」裂織。裂いた古木綿を小撚りした糸で織る。

お気づきでしょうか。
すべて今なら捨てられてしまう材料ばかりです。

シナオリでは木の皮を水に晒したり煮たりして繊維を細くして糸にするそうです。




オロコギは使用済の和紙と木綿の再利用。


サキオリはもとの古木綿の色合いを利用して模様織りが出来るようでした。


別棟の展示室には保存状態のよい完成品もありました。
(こちらはガラス越し展示)


オロコギ 軽くて丈夫。防寒の仕事着。


サキオリ 厚くて丈夫。漁師の防寒着。元の古木綿の色で縞模様になっています。


こちらは庄内地方以外でも一般的な木綿の刺し子。古布、古糸の結晶ですが、結果として優れたデザインですね。傷みやすい衿回りは布を重ねて補強しているように見えました。

木綿が大量に生産、流通するようになるまで、布、糸はたいへん貴重なものでしたから、傷んだら解き、良いとこ取りして仕立て直し、最後は繊維を撚ってさらに糸にして再利用しつくしたと、聞いてはいましたが、本物の織機や布を見るのは初めてでした。
ちなみに、荘内は絹の産地でしたが、ここで見る庶民の暮らしにはまったく登場しません。絹糸は生産するだけで、着る物ではなかった時代が長かったのですね。

最後に一枚。
羽越本線の車窓から見た荘内の空。向うは日本海。


関東で見る空と違い、雲が多重で豪快。水蒸気量が多いのでしょうか。
まるで教会の天井画のようでした。雲の上から天使がこちらを覗いているような、天から光が降ってくるような。

着物あれこれ | 06:30 PM | comments (x) | trackback (x)

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