2013,06,23, Sunday
手描き友禅を誂え染めで制作する場合は、着物の図案から自分でおこすので、勉強のために美術、特に日本画はよく観るようにしています。もっとも若い頃はヨーロッパの絵画が好きでしたが、面白いもので年齢と共に日本画が好きになり、今は勉強のためと意識せずに単に好きで観に行きます。余談ながら以前は、特にフェルメールが好きでした。今のように日本で人気が出る前ですから、かなり古くからのファンだと自惚れています。 昨年の「真珠の耳飾りの少女」はもちろん見てきました。近くで見ると青い少女の青いターバンが実は色々な微妙な色彩で表現されていたのが印象的でした。
さて寄り道しましたが、今回の「もののあはれ」と日本の美展について。
思いのほか源氏物語絵がたくさん出品されていました。特に住吉具慶の四季を題材にした一巻のうち、秋で取り上げた「野分」が興味深いものでした。野分で倒された庭の草花の側に女童たちが描かれているのですが、その縮尺がまったく自由奔放です。
桔梗、萩や薄が女童よりずっと大きいのです。それが全体で見た時に、風で倒れた秋の草花、「まあ、こんなになってしまって」と憐れむ女の子たち、その様子を屋敷内から見守る大人たち、という順序で素直に目に入ってくるのです。
それに倒れた秋草は、そっくりそのまま着物の図案になりそうでした。すっきり必要な枝だけ残して他は切り捨てた生け花のようだと言うべきかもしれません。巻物ですから絵も小さいのですが、目を凝らして観ました。
MOA美術館の所蔵 https://www.moaart.or.jp/
上の写真は江戸時代の琳派、鈴木其一の芒野図屏風です。屏風全体に、このように単純化された芒が濃淡と僅かな色彩の違いだけで表現されていました。
実は鈴木其一は私が最も好きな日本画家の一人です。鈴木其一の作品はこれまでに複数見ましたが、花鳥を色彩豊かに描いている作品が多かったので、この屏風は少し驚きました。一面の芒野原ですね。ススキの「芒」という字の形が似合っていると思いませんか。
所蔵は千葉市美術館 https://www.ccma-net.jp/index.html
最後に絵画ではないのですが、すっかり感激してしまったのが、この写真の茶碗です。
江戸時代、野々村仁清の色絵武蔵野文茶碗です。
実は私は茶碗の良さがあまり分からないのです。国宝の、と言われれば「ああ、そうなのか」と思う程度で、拝見しても素晴らしいと思うことは今までなかったのですが、この仁清の茶碗は違いました。僭越ながら一目ですっかり気に入ってしまいました。
淵も胴部分も何となく波打った感じ。茶碗の内側から外へ向けて、ほんの一刷毛か二刷毛で掛けた釉。釉の掛からなかった素地の部分にだけ一面の芒が描かれているので、釉の掛かった部分はまるで野原にかかった霧か霞か、といったところ。素敵でした。
この茶碗を手にして野々村仁清がササッと釉を刷いた瞬間があったと思うとドキドキしました。
大阪の湯木美術館の所蔵だそうです。ぜひ訪ねてまたお目にかかりたい茶碗でした。
湯木美術館https://www.yuki-museum.or.jp/
いずれも素晴らしい作品を選び展覧会の趣旨がよく伝わる内容で、こうした企画展を開くサントリー美術館に敬意を感じました。
最後に前述の余談にでたフェルメールですが、彼の作品の中で私が一番好きな作品の画像が検索出来ましたので、ご紹介します。
ドレスデン美術館所蔵 「窓辺で手紙を読む女」
フェルメール初期の作品だそうです。彼の個性である「画面片側から差し込む柔らかい光」が際立っています。深緑色に沈み込んだ静けさの中に、女性の横顔がただただ美しいです。
観たのは高校生の時!古い記憶です。いつか再会したいと思っています。ドレスデン、なかなか遠いですが。
展覧会ルポ | 07:34 PM | comments (x) | trackback (x)