2022,10,02, Sunday
手描き友禅のお話ではないのですが、今回は陶芸家、板谷波山の紹介です。失礼ながら最近までまったく存じ上げない作家でした。
NHK日曜美術館のアートシーンで彼の展覧会が紹介され、初めて見る美しい色合いにビックリしたのでした。
この夏、東京の出光美術館で開かれた展示には行けませんでしたが、ご縁あって九月、京都の泉屋博古館で作品を観ることができました。
これほどの作家なのに知名度が高いとは言えず…。ぜひ皆さんに紹介したいと思います。
(写真は図録とアートシーンから)
板谷波山(1872年~1963年)茨城県下館生まれ。
明治5年から昭和38年に91歳で亡くなる直前まで作陶を続けた方だそうです。
写真の作業は形を作ってまだ焼いていない花瓶に紋様を彫り起こしているところ。左ページが彫り上げてこれから彩色する花瓶。
このように彫りあがったらいったん焼き、彩色をして焼く。色も微妙な濃淡をつけるために何度も彩色と焼成を繰り返し、最後に仕上げの釉薬を塗って焼き上げる。
これが波山の一番の特長だそうです。
唐花文の花瓶
紋様を粘土地の花瓶に彫り付けることを肉薄彫と呼ぶそうです。
なるほど花弁の微妙な色の変化は、塗っては焼きの繰り返しから生まれるのでしょうね。
こちらは構図と色調の素晴らしさに頭が下がるばかりだった作品。
平面に書いてもバランスが難しい竹笹を全面に描いています。幾何学的になることなく、笹は自由にノビノビを葉を伸ばしていてスキがありません。
葉の色調は一枚一枚違っていて前記の「何度も繰り返し…」の波山の手仕事ぶりが伝わります。全体の青磁色も上品で、近代工芸から国宝が指定されるなら、私が選んでよいならコレ!と思ったことでした。
同じ技法の紫陽花の花瓶。肉薄彫りが良く見えています。
紫陽花好きのぼかし屋としては!お手本、お手本です。
波山のもう一つの特長が柔らかいマットな仕上がりになる釉薬の工夫。葆光彩磁(ほこうさいじ)と呼ぶそうです。
このように模様をベール越しに見るような柔らかい色調になります。
こちらは花の文様部分は優しい彩色で、一方で地色の青はくっきり鮮やか。
写真では分かり難いのが惜しいほど美しい緑がかった青でした。
本物を観る機会があって幸運でした。
10/23まで京都の泉屋博古館にて。
https://sen-oku.or.jp/program/2022_itayahazan/
茨城県筑西市の板谷波山記念館
https://www.itayahazan.jp/
履歴の要約
1872年茨城県下館生まれ。
美術工芸に親しむ家庭環境から東京美術学校、美術教師として金沢に赴任するなど、行く先々で精力的に彫刻、絵画、工芸全般を吸収して自身の作風を追及し続けたとのこと。
31歳で東京田端に窯を開き本格的に作陶生活に入り、生活のために妥協した作品を売ることはせず、貧困に耐えて今日展示されるような作品群を作り上げた。
作品の評価を得て後半生は生活も安定。文化勲章を受章するなど社会的名誉も得てなお作陶中心の生活は変わることがなかった。
作陶の幅は広く、代表作以外にも茶碗、水差し、香炉なども。
渋い天目茶碗も見事でした。
華やかな優しい色合いの花瓶の数々、青磁白磁などなど。これほど幅広い技術をもつ陶芸家は他に思い当りません。彫刻から絵画までこなしたミケランジェロを思い出しました。
展覧会ルポ | 01:37 AM | comments (x) | trackback (x)