東京手描友禅 模様の参考に。東京国立博物館

 
東京手描友禅 模様の参考に。東京国立博物館
 先日上野の東京国立博物館に出かけました。入場券を貰ったのでキトラ古墳の壁画の展示を見る予定でした。混むと思い午前10時過ぎには門に着きましたが、考えが甘かった!すでに長蛇の行列。係員さんによれば壁画の前にたどり着くには3時間かかるとのこと。朝8時には行列が出来ているそうです。時間対効果を検討してキトラは諦めました。

 そのかわり!長年の懸案を実現させることにしました。
それは同館の常設展をゆっくり、全部、一人で鑑賞することです。

 特別展を見るついでに時間とエネルギーが余れば、少し常設展示に立ち寄ることはあっても、大人になってからはきちんと鑑賞したことはなく、いつか隅から隅までゆっくり見たいと思っておりました。
 さて今日こそ!と10時半に張り切って歩き出して、結果を先に申し上げますと、見終わったのは夕方五時近くでした。(途中最低限の食事と休憩を含む) 台北の故宮博物院でも息切れしましたが上野もなかなかの展示量です。着物や鎧、漆器、陶磁器、日本画は力を入れ、書、茶器、仏画仏像は省略しても一日がかりでした。
 嬉しいのは写真撮影が自由であること。撮影禁止の表示がある展示物を除いてほとんどが自由。以前と比べ展示方法も工夫され、欧米からの観光客が大勢いました。

 花の意匠の展示から、季節柄に合った花をあしらった2点をご紹介します。

綸子地 波菖蒲花束 模様 小袖(部分)


花束を散らせる模様形式は武家の女性に好まれたそうです。菖蒲の花びらには鹿の子模様もあります。色数が多く、きっと黄ばむ前はかなり華やかだったことでしょう。

   燕子花の花瓶

 
   前立てに菖蒲の飾りをつけた


 この鎧は室町時代(1500年代)の作で、菖蒲は鯨の髭で作られているそうです。

 花の意匠ではないのですが、ビックリする鎧がありました。


 こちらはぐっと新しい物で、今年のNHK大河ドラマの主役、黒田官兵衛の孫の鎧一式
 兜の後ろ飾りをご覧ください。あまりに大きくて兜の一部とは分からないのでは?
信長、秀吉、家康の時代は武士の装いがとても派手で、兜も不必要なほど大袈裟なものが好まれたそうです。この兜も着用して立ち上がったら後ろに転びそう!官兵衛の孫なら関ヶ原のころはカッコつけたい盛りの若者だったのかもしれません。これなら目立つこと間違いなしですね。

 この日は同館所蔵の尾形光琳「風神雷神図」が特別展示されていました。

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俵屋宗達の「風神雷神図」と比べてどうか、うんちくを傾ける方も多いと思います。私は宗達の方が好きですが、友人知人の間では光琳の人気が高いようです。

 着物の展示から面白かったものを。

  紫縮緬地 波帆船模様 振袖

 
 解説によれば、船の模様といえば普通は宝船などお目出度いもの。ところがこの振袖は荒波に飲み込まれそうな帆船で、武家女性の「困難に立ち向かう心意気」を表わしているそうです。19世紀のものだそうですが、五つ紋付きの振袖は明治も近い時期を思わせます。



  白綸子 花束団扇 沙綾形模様 打掛

四季の花束と沙綾形のような幾何学模様の取り合わせは江戸後期の武家女性の礼装の定番デザインだったとか。団扇はどこに?と思ったら!沙綾形の上に天狗様の団扇のような模様がありました!
着用イメージの手助けに帯が一緒に飾られています。黄緑に大きな鯉の刺繍帯。大胆です!

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鼠地 唐織 花文網目繋八橋胡蝶 文様 打掛

 背模様をアップしますと、


 燕子花に八橋の模様です。色合わせがお洒落で、隣の帯も合わせて今着用してもステキだと思います。
立ち姿はグレーに朱。帯の焦げ茶が引き締め効果を上げそうです。

 今回のもう一つの特別展示は「上村松園 焔」


 ガラスが反射していますが、会場でのスナップ写真です。かなり大きく描かれた大作で、ご存じの方も多いことと思います。

 この作品の特別展示は5月3日の朝日新聞で紹介されていました。

記事では嫉妬のあまり生霊となった源氏物語の六条御息所がモデルとしていますが、
女性には辛いことの多かった時代に男社会の画壇を生きた松園さんの苦難が背景にあるだろうと解説されています。
肩から滑り落ちちそうな着物の柄は藤と蜘蛛の巣。狂おしさを表現しているのでしょう。1918年の作。かれこれ100年前に小柄な松園さんがこんな凄まじい大作を描いたと思うと…。

 この絵には子供の頃の思い出があります。

 小学校の頃、埴輪や土器の本物を見たがった私を、父がこの博物館に連れて来てくれました。
館内を見て歩き、たまたまこの絵の前に。 怪しい雰囲気は子供にも分かり、父に何の絵か尋ねたところ、答えは「う~ん…これは……幽霊。ほら、足がない」でした。
 確かに足は薄くなって消えるように描かれているので子供としては、オバケということで納得したのです。それがいわゆるオバケではないことは大人になって自然に分かりました。
大学生の頃、留学生を案内した時もこの絵に巡り会いました。
留学生いわく「この絵は説明不要。ジェラシーだと分かる」 異文化の人にも通じるものがあるのですね。
 もと文学青年の父の説明については、子供に嫉妬やら生霊やらを説明するのを憚ったのか、単に説明が面倒だったか、真相は不明です。

 記憶の中のこの絵は、もっと身近な低い位置に飾られていました。隔てるガラスもなかった気がするのですが、どうだったのでしょうか。

 最後に本館裏手からみた風景を。
 池の向こうに庵。 本館トイレの窓から見えたこの風景が子供の頃から好きでした。何だか別の世界を覗いているようで。今は来館者用に整備、解放された本館北、中央のバルコニーからゆっくり眺めることができます。この写真はバルコニーに出て撮影しました。

 
展覧会ルポ | 04:39 PM | comments (x) | trackback (x)

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