2013,10,13, Sunday
東京手描友禅・模様の参考に10/11放送のNHK番組「美の壺」第290回「棚」は大変勉強になる内容でした。
番組の解説によれば、大和言葉の「たな」は「水平」という意味、派生語は「たなびく」で水平に広がる」様子を表わすそうです。なるほど幅や高さは違っても棚の各段は必ず水平です。
水平にたなびく雲や霧、靄(もや)などを霞(かすみ)と呼びます。霞が幾層も水平にたなびく様子から左右非対称の棚、つまり違い棚の様式が、日本で生まれたそうです。そういえば外国の家具に違い棚はあまり見かけません。
霞をイメージした違い棚の好例として番組で紹介されたのが、修学院離宮でした。
客殿床の間、脇床の霞棚 (かすみだな)
本当に霞たなびく様子を表現したとしか思えない棚。美しいですね。
修学院離宮は江戸時代初期、当時の粋を尽くした建築だそうです。今では和風の違い棚は何となく身近にあり見慣れたものですが、この霞棚などをお手本にして発達してきたとは知りませんでした。
修学院離宮は拝観が自由ではありませんが、いつか見学したいものです。
さて、霞棚の話からとびますが、もう一つ着物屋としての話題を。
番組のテレビ映像を見直していて気付いたのですが、霞棚の下にしつらえた物入れの戸の襖絵が なんと「張り手に掛けられた反物」です。
拡大してみます。
小襖の四面通しで 綺麗な反物が張り手で横に張られている図柄です。
掛かっている反物は豪華な模様の着物地なので、本当に洗いか染めのために張り手に掛けているというよりは、襖絵の絵柄として着物地を見せるために張り手に掛けた状態を描写したのでしょう。それにしても格式ある広間の襖絵に「張り手」が描かれているのは初めて見ました。
屏風絵や襖絵に着物自体を模様として描く場合、衣桁に掛けた状態や、綱にかけて陰干しをしている様子などを図案化して描くことが多いのですが、反物の状態で、しかも張り手に掛かっている様子は珍しいのです。
上部の霞棚が左右非対称に横に流れる線を強調しているので、下部の小襖の絵も横に流れる意匠として「張り手に掛けた反物」が選ばれたように思われます。
霞棚と物入れ全体が調和して脇床ながら完全に隣の床の間を圧倒していますね。
霞はご存じのように日本の代表的な文様の一つです。
友禅染では霞文様としてだけではなく花模様などと組み合わせて華やかな柄行きを作る役目も果たします。
私は模様に霞が飛ぶ柄が好きで、よく用います。
花に霞が加わることで空間がイメージされて立体感が出ます。この霞は花と地色に合わせて銀霞です。
こちらは色無地に金銀の霞と切り箔散らしをいれた着物です。
裾模様と上半身に絵羽で霞を流し、ぼかし染めで地色に濃淡をつけ、単なる色無地よりお洒落感を出しました。
実はこの色無地は染直しの着物で、お客様の愛着のある色無地の着物を再度活躍できるように直したものです。工程の最後に仕上げで霞を入れる作業中の写真です。
次回はこの「染直し」についてのお話です。
追記:続きは2013年10/28のブログ「ぼかし屋の染直し例」でご覧いただけます。
東京手描き友禅 模様のお話 | 09:32 PM | comments (x) | trackback (x)