舞妓さんの振袖

 
 子供の頃、父の京都土産の絵葉書に写っていた舞妓さんを見て以来、お引きずりの振袖姿に憧れていました。だらりの帯、びらびらの簪にも。
 本物をじっくり拝見する機会もないまま今に至りますが、一番の興味はやはり着物。特に裾を引きながら軽々を踊ったり歩いたりする着物はどんな構造なのだろうと。



 踊っても裾の返りが綺麗なので、小袖と打掛のような重ね着ではないと想像していましたが、思いがけずNHKの番組「新日本風土記」花街・祇園で答えが分かりました。
 男衆さんが舞妓さんに着付けをする、一分ちょっとの場面に振袖の裏側が写ったのです。



 畳んであった振袖を手に取りサッと広げる瞬間。裾のフキが厚いですね。ピンクの表地の内側に黄緑の中着が見えます。これがどうなっているかが疑問だったのでした。



 男衆さんが両手で衿を持って振袖を広げました。襟が※比翼仕立てで重ね衿になっています。



 舞妓さんに後ろから羽織らせるために広げてさばいています。ほら!裾も比翼仕立てです。
やはり二枚重ねではなく、一般の黒留袖と同じように比翼仕立てなのですね!なるほど。
しかし黒留袖の比翼でも十分重く、仕立てるのも大仕事なら、ズッシリした絹の重みで着るのも楽ではないのに、これほど厚くフキが入っている比翼の振袖を着こなすのは大変そうです。
胴裏と裾回し、比翼との境なども一般の着物と比べ特に違いはなさそうです。

 ピンクの表地に黄緑色で模様のある襲ね(かさね)は春の取り合わせですね。 
 


 背中心だけ慎重にあてて位置を決めた後は…







 衿からスッと沿わせて肩山の位置は一瞬で決まっていました。



 最後に帯結び。
 舞妓さんの着付けは男衆さん(おとこしさん)の仕事で実質的に世襲だそうです。ほんの数分で舞妓さんの着付けが出来上がるとは驚きました。伝承技術なのですね。
 周辺にある棚や着物ハンガーなど一般家庭でも使うような物たちも見えてちょっと親近感。



 芸妓さんの黒の礼装一式。帯板や紐類など私たちも馴染み深い形ですが、衿も大きく襦袢を含め全体にフキが厚く重そうです。
 いつの日か舞妓さんをじっくりと拝見したいものですが、残念ながらまず機会はないことでしょう。一見さんお断りの世界なので。
 思いがけず舞妓さんの着物の裏側を見ることができて幸運でした。

※ 比翼仕立て
 正装の着物は元々、二枚襲ね(重ねること)で着用するのが正式でした。留袖なら黒い表着の内側に白い下着を重ね合わせてから袖を通して着たそうです。
 これでは重くてかさ張り、動くと着崩れしやすいので、時代と共に簡略化され、二枚がずれないよう下着を表着に縫い付け、しかも衿と裾部分だけになってきました。これを比翼仕立てと呼んでいます。
 色留袖ですと裾も省いて比翼衿だけ付けたり、訪問着にお洒落のため比翼衿を付けることもあります。伊達衿は比翼衿をさらに簡単にして取り外しがきくようにしたものです。

 比翼という言葉は二羽の鳥が仲良く翼を並べているところを表わすそうです。夫婦仲のよいことの例えだとか。着物を二枚重ねているように見せる仕立て方法なので、いつか誰かが比翼仕立てと呼ぶようになって一般化したようです。
(各種着物関連図書を参考にしております)

2014年5月25日のブログ「東京手描友禅の色留袖、几帳模様の色留袖」 にて比翼仕立ての色留袖を作品例として紹介しています。舞妓さんの着物と違いフキは薄いのですが、構造は同じです。
裾回し、比翼が写っておりますので、ぜひご覧ください。



着物あれこれ | 12:20 AM | comments (x) | trackback (x)

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