2016,11,11, Friday
前回ご案内したサントリー美術館で開催された鈴木其一展。会期末に再訪しました。
作品入れ替えがあって今回は其一の風神雷神図を観ることが出来ました。
(写真は図録より)
風神雷神図は言うまでもなく、俵屋宗達以来、尾形光琳や江戸琳派、
現代の画家にも引き継がれている画題です。
八王子市の東京富士美術館が所蔵する其一の風神雷神については写真で知っていましたが、地味だなという印象を持っていました。
琳派先達の作品が金箔の上に彩色された屏風であるのに対して、其一のものは
白い紙(絹本)の上に墨で描いて彩色したものです。
対面しての印象は、「墨がきれい!」 金箔彩色画とは違う華やかさでした。
身体に巻き付き、風にたなびく細い衣がダイナミックで目を引きました。
この衣を何というのだろうと、天女ではないので羽衣ではないし…と仏像用語を検索してみますと「天衣」(てんね)と呼ぶそうです。
仁王像や観音像の部位名称に載っていました。なるほど…。
特に雷神の天衣は、其一は雷神様よりこちらを描きたかったのではないかと思うほど、画面の中で存在感がありました。
衣の線は太い筆で一気に勢いよく描かれ目を奪われます。
初代風神雷神図たる俵屋宗達作は二曲一双の屏風、
対して其一作は広々と風神雷神お一人につき四面の襖のスペースがあるので、
この天衣と雲の動きが主役であるように、大胆に表現されているのです。
雲の豪快さは際立っていて、水と墨の滲みは真近で見ても遠目でも美しいものでした。
絹本に墨の濃淡、滲みを利用して雲を描いているので、下書きなしの一発勝負だったかと思われます。
おそらく絹本にあらかじめ含ませた水分を利用して墨でぼかし、半乾きを利用してさらに墨を含ませるような描き方をしていると想像しました。(私見)
図録でも 「風神を乗せる雲は下から勢いよく吹き上げる風を感じさせ、雷神を取り囲む雲は、いかにも稲光が走りそうな雨を含んだ雲に見える」と解説されています。
まったくでした。
会場でこの絵の前に立ち、右手を動かし続けている若い男性がいました。どうやら筆による雲の表現、描く手順をなぞっているようでした。画家の卵さんでしょうか。
風神雷神図は宗達作を見て尾形光琳が模写し、そのまた模写を酒井抱一が模写したと言われています。
酒井抱一 風神雷神図屏風
当然其一は師である抱一の作品を参考にしてこの襖絵を描いたわけです。
其一贔屓の私としては、光琳、抱一が模写の範囲を出ていないのに比べ、
其一は絵画としてさらに発展させ、明らかに自分の表現を加えていると思うのです。
実は先週、京都に絵を見に出かけました。
通常非公開の文化財の秋期特別公開に合わせ、強行軍でしたが、めいっぱい回ってきました。
そのおり通常公開の寺院でまだ行ったことのなかった建仁寺にも立ち寄りました。
宗達の風神雷神図屏風の複製を観るためです。
現代のデジタル技術で複製されていて、私が見た位では原画と変わりません。
俵屋宗達 風神雷神図屛風(複製)建仁寺にて
「お座敷でガラスなしで見られる」と期待していたのですが、残念ながらガラス越し。
それでも美術館の展示とは違う雰囲気を味わえました。
潮音庭越しに撮影しました。
屏風の前に人が座って見ているのも、それを庭越しに見ているもの良いものでした。
ガラス越しではあっても、お座敷の奥の金屏風が外の光を受けて揺らめくのを感じる事は出来ました。
建仁寺さんは写真撮影が自由でした。方丈の海北友松の襖もデジタル複製なので、「どんどん撮っていいですよ」と有難いことでした。
この海北友松と、他の非公開寺院の狩野永徳、長谷川等伯の原画の特別公開について,
折々紹介していきたいと思います。
展覧会ルポ | 01:26 PM | comments (x) | trackback (x)