2014,04,25, Friday
着物の巻き棒の旅まずはこの写真をご覧ください。
これは反物を巻く時に芯となる巻き棒です。
お料理用のラップの芯の両端にプラスチック製のフタがついているとお思い下さい。
巻き棒は機屋(はたや)さんが生地を織りあげて出荷するときに、新しい巻棒に反物を巻いて世に送り出した後は、問屋、染色業者、縫製業者を行き来します。ぼかし屋の場合、例えば湯のし屋さんに染め上がりを持ち込んだ時の巻き棒と湯のし屋さんから戻ってきた時の巻き棒が同じ物かどうか気にしません。反物の長さ、幅によって少し種類がありますが、だいたいみな同じだからです。染色関連の業者の間をたくさんの巻き棒がグルグル旅を続けているわけです。いよいよ古くなって誰かが破棄するまで。
先日ふと手元の帯用巻き棒が妙に重いのに気付きフタを外してみましたら!
驚いたことに2011年12月13日付けの京都新聞(夕刊)が詰め込まれていたのです。
きっと丹後ちりめんの機屋さんのところを出発して色々旅をしてここまで辿り着いたのだなぁと感慨深く…。
2年以上前の、それも京都の新聞です。シワを伸ばして読んでみました。すると偶然にも着物に関わる記事を二か所も発見しました。
まず一面に花街の一足早い新年の行事が紹介されていました。舞妓さん芸妓さんが芸事の師匠に新年の挨拶に回る日だそうです。京舞井上流のお師匠さんに順番に挨拶している写真はいかにも京都らしいと感心して眺めました。本当に年が明けるとお客様相手の新年行事で忙しいからだそうです。
後ろから二番目の面にはとても興味深い染色関係の記事がありました。
ご覧のように「黒留袖、あなた色に」という見出しで、模様を残したまま黒い地色を脱色して薄い色に染め直す技術が開発されたことが紹介されています。
黒留袖の黒が脱色できるようになっていたとはしりませんでした。
黒留袖や喪服、黒地の振袖の地色の黒色は化学染料ではなく鉄が酸化する力を利用して染める草木染の一種だそうです。他の色(化学染料)と違って絶対に脱色出来ないものと思っていました。
技術を開発なさる方がいらっしゃるのですね。思い出の留袖をぜひ色留袖に変えたいという方には朗報です。私は身近で実例を見聞きしたことがないので、脱色作業により生地がどんな状態になるのか分からないのですが。
ちなみに、模様も地色も染めるのがぼかし屋の特徴ですが、黒留袖の地色だけは専門の黒染屋さんに依頼します。化学染料の黒とは比べられない冴えた黒色になります。
この記事のすぐ下には京料理展示大会が紹介されています。京都料理組合の200店が参加したそうです。これもまた京都らしい記事ですね!
左側にある被ばく線量の記事はせつないですけど。
それにしても誰がなぜ巻き棒の中に新聞を詰め込んだのでしょう。
おかげで京都の新聞が読めました。
この巻き棒は新聞を除いてまたフタをしました。
いずれ旅に出てぼかし屋からいなくなるでしょう。
着物あれこれ | 12:42 AM | comments (x) | trackback (x)