家元の帯締めが美しい理由

 
 少し前になりますが、NHKアーカイブスの放送で
「祇園・継承のとき 井上八千代から三千子へ」
を観ました。
感銘深かったのでテレビ映像をお借りして紹介させていただきます。
京舞・井上流の四世である井上八千代さんが、家元八千代の名を孫の三千子さんへ譲るにあたり
家元の暮らしや舞の披露、稽古の様子を収録した番組です。


   新しい家元として三千子さんが舞う「虫の音」

 「虫の音」は井上流家元には重要な演目だそうです。
日本舞踊には特別の知識のない私でも、隙のない身ごなしを美しいと思いました。



 紋付きの色留袖 白の比翼つき。
裾模様の背には模様がありませんが、下前に柄がある両褄模様の形式。
足の運びで下前の柄が見え隠れします。

 バレエのように動き自体に華やかさがある訳ではないのに、なぜ素人目にも美しく感じるのかと考えていて、常に体の中心にある帯締めに目が行きました。



 濃い色目の着物と帯に、正装としての真っ白な帯締め。それだけで全体が引き締まりますが、
印象的なのは帯締めの房。ピッと上を向いています。
どの場面でも上を向いた白い房は、ふんわりと広がり存在感を示しています。



 なぜこんなに帯締めと房が綺麗に見えるのか、ビデオを見返して考えました。
 おそらく、踊り手が大きく動く時も、傾いた姿勢をとる時も、
体幹だけは常にまっすぐ上を向いているので、帯〆の房部分は床に対していつも垂直となり、
白い房が常に真上を向き、房の糸がふんわりと折り返しているために華やかに見えるのだと思い当りました。
踊り手の動きに合わせ、房がフワッフワッと小気味よく踊るのです。
動く映像でなくて残念です。

 体幹が常に真っすぐな踊り姿…。


 そう思いつつ映像で見ると、全体に思いがけないほど筋肉質でいらっしゃるのが、着物の上からでも分かります。後を継ぐ家元としての日頃の鍛錬の賜物が、筋力となって隙のない舞姿を下支えしているのでしょう。敬服…。

 色留袖の柄は刺繍のように見えました。四世家元が初めて虫の音を舞ったときのものだとか。
染めでないのがちょっと残念でしたが、別の場面の映像「初寄り」(新年の挨拶)で弟子である舞妓さん、芸妓さんたちにお屠蘇をふるまうときの黒留袖は、遠目ながら椿を描いた手描友禅でした。





 「虫の音」の練習風景。


 深緑の付け下げ小紋に椿の染め帯。椿に合わせて帯〆は赤。小紋の裾回しは帯の地色と揃えて薄黄色。和服ならではの色合わせです。こんな着こなししてみたいものですね。

 最後に同じ番組から、祇園の巽橋を渡る舞妓さんの映像を。


 傘をさし道行を着てお座敷へ。舞妓さんの映像を見ることは多くても、このような道行姿は珍しいですね。黒繻子の掛け衿が町方の娘らしい可愛らしさです。

着物あれこれ | 12:55 PM | comments (x) | trackback (x)

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