ぼかし屋の作品紹介

 
 三月のブログで取り上げた作品の染め風景のご紹介です。
通常の手描友禅の工程の中から、今回紹介したい写真を何点か選びました。

紅葉模様ローズグレーの訪問着(東京都工芸染色組合主催の染芸展への出品作)
30歳のお嬢様と60歳のお母様が共用できる柄と色合いを目指した着物です。


地染めが済んで色挿しを始める準備が出来たところ。
ローズグレーの濃淡二色とグレー系のベージュの計三色で染め分けています。

 その三色から派生させた色合いで、模様の紅葉を染めます。かなりの色数を使いますが、
相性よく納まるよう「どの色もみな仲間」のような色作りをしました。


 紅葉の赤というと朱色系が普通ですが、この訪問着では
ローズグレーの仲間として渋いワインレッドを使いました。


 作業机の下に熱源があり、色がはみ出さないように、布に含まれる水分が程よくとんで
ぼかし染めが綺麗に出るように調整しながら色挿しします。


 ※絵羽模様(えばもよう)として、仕立て上がりに柄がつながる胸と袖、見頃と衽(おくみ)などを色挿しする時は、模様伸子(もようしんし)に生地を張った状態で並べ、突合せしながら色のつながりを間違えないようにします。
写真は衿の真後ろの部分。三分(1㎝強)だけの縫い代で重なります。
全体の配色にも注意して、同じ色ばかりが片寄らないようにします。


生地は身長の二倍近くの長さ
机で色挿しするので、模様伸子ごと机の前に生地を流したり、立てたりして作業します。


 この模様の特徴は糸目友禅の葉に、影のように無線友禅の葉を添えること。
色挿しが済んだ糸目の葉に、バランスを考えつつ無線の葉の模様下絵を書き込み、色を付けていきます。


 模様伸子に張った生地を裏から見たところ。
裏も表と同じ濃さで染料が浸みていることが手で色挿しした場合の特徴です。

 
 色挿しがすべて済み、糸目糊を落としたところ。
 違う色の染料が重なると別の色になる無線描きを生かして、影の葉は二枚の葉が重なって舞う様子にしました。
 糸目の葉の軸にも色をつけて存在感を出しました。
このような色付けの葉は実際には存在しませんが、着物の模様として楽しめることを優先しております。


 染め上がりを衣桁に掛けたところ。
総絵羽(裾、袖、胸、衿すべて模様がつながっていること)訪問着になりました。


 姉様畳みしたところ。
 衣桁に掛けた状態では、実際の着用イメージを掴み難いのですが、姉様人形のように畳むと、着用時に一番目立つ上半身衿から胸、袖にかけての模様と色が分かりやすくなります。
 左衿と胸はローズグレーで、右衿と胸はベージュで染め分けています。帯揚げなどの小物を
どちらの色で合わせるかによって、着付けは華やかなにも地味にもなるでしょう。
 袖は振り違いで模様が入ります。


 前裾模様。裾回しにも同じように葉が舞います。
 舞い散るというより、舞いとぶ葉で全身が包まれる着物を目指して染めました。

 ぼかし染めのとても多い柄行きなので染色作業は大変でしたが、
染めていてワクワク感がありました。
 帯や小物の合わせ次第で、幅広いご年齢の方にお召しいただける訪問着になったと思います。
 同時に次回の作品作りでは、もっと大胆に濃淡をつけて個性的にして、
影の葉も準主役に格上げしても面白いかなと考えております。

 絵羽模様については2014年4/9のブログに詳しい説明があります。
        ブログのカテゴリー「東京手描友禅 模様のお話」から検索すると簡単です。
ぼかし屋の作品紹介 | 01:47 AM | comments (x) | trackback (x)
無線友禅の半襟
 東京手描き友禅で作成されるのは訪問着や振袖などの着物と染め帯ですが、半襟やショール、風呂敷などの小物類の染めも行います。今回は半襟を染めたのでご紹介します。



 塩瀬(絹の織り方の種類で半襟生地の多くが塩瀬)の白生地に複数の色で小菊を筆書きしました。臙脂色の紬に合わせるためにデザインしました。



 スッキリした襟元になります。真っ白な衿もよいですが、
このように軽く模様があるとお洒落です。
 この半襟は色を染付けしていますが、他に金彩で金銀の模様を付けることもあります。

ぼかし屋の作品紹介 | 09:56 PM | comments (x) | trackback (x)
 友禅染の創作用の白生地には縮緬や綸子といった織り方の種類以外に、白い絹糸だけで織った生地か金銀の金属糸を織り込んだ生地かという種別もあります。金糸を織り込むと「金通しの生地」という呼び方をします。他に銀通しもあります。
 師匠の家に通っていたバブル経済の頃、本物のプラチナを織り込んだという生地も見たことがあります。(見ただけ(^^;)触ってもおりません~) 
 それはさておき…本日は同じ種類の模様を図案と生地を変えて染めた例がありますので、金通しと普通の白生地で染め具合がどのように違うかご覧ください。
 素人写真ですが、なるべく違いが写るように撮影いたしました。



制作に使用した生地。左が金通し。右が普通の白生地。地紋は同じ。

 金属糸の織り込み方によりますが、それほどピカピカ光るわけではなく、金通しならベージュに、銀通しならグレーに落ち着いて見えたり、光の加減によって光って見えたりします。



地染め。下が金通し。まったく同じ染料ですが、金通しの方が少し柔らかい感じがします。
辛子色の濃淡が三段階に出るようにぼかし染めを二回に分けて行っています。


  普通の白生地の方(上)


  金通し生地の方

 色挿し




 色挿しの出来上がりを見比べると濃い色の所ほど金糸がよく見えます。
金属糸は染料で染まらないので、同じ色で染めても金通し生地の模様の方が少しボウッとした感じに仕上がります。


金通しでない生地の模様には薄く金霞を加えて華やかさを出しました。


染め上がり。左の普通の白生地の方が色は鮮やかに見えます。


金通しがよいかどうかはお好みや、模様との相性によります。この作品例は帯地ですが、訪問着など着物そのものが金通しの場合は、お召しになった方の動きに合わせて光沢が出て華やかになります。
礼装というよりはパーティなどお洒落着に向くようです。


お太鼓に結ぶとこんな感じ。垂れ先にも辛子色の濃淡が出るようにぼかし染めしてあります。

金属糸をどの程度表に織り出すかは地紋のデザインによりますが、多くの場合表より裏に多くの金属糸が出てるため裏側の方が表より光って見えます。


ちなみに、このように裏にも表と同じように染料が染み透っているのは、
模様の色を手仕事で一つ一つ筆で色挿しした生地の特徴です。
ぼかし屋の作品紹介 | 09:55 PM | comments (x) | trackback (x)
東京手描友禅の作品紹介 染め名古屋帯

 手描き友禅の染め帯作品を、染め風景とともにご紹介します。



 白生地の下絵に糸目糊置きしたもの。名古屋帯の前の部分なので生地の半分を境に模様を上下させて配置します。



 先に地染め。ピンクと藤色で染め分けした帯になります。





 色挿ししているところ。
 手描き友禅では液体の染料を筆で直接色挿しします。糸目糊で防染していても、はみ出さずに色挿ししても時間が経つと糸目を越えて染料がはみ出しやすいのです。ですから少しでも早く乾くよう生地にかるく熱気をあてながら色挿しをします。
 花びらに濃淡をつけるにも薄い色を先に挿して少し乾いたところで濃い色を重ねぼかしすると綺麗に出来上がります。ニクロム線の熱源は縁の下の力持ちです。







 同じテーマで二作染めていますが、色の挿し方を変えています。



 花びらの色。合計9色使っています。



染め上がり。



 仕上げで銀色をあしらいました。色挿しが華やかな方は渋い銀で。



 落ち着いた色挿しの方は輝きの強い銀色で。

 九月。菊酒造りのために菊の花びらを振り散らしているところをイメージしました。
先週ご案内した「しゃれ帯展」に出品予定です。

ぼかし屋の作品紹介 | 11:12 PM | comments (x) | trackback (x)
東京手描友禅の振袖 「貝桶文様振袖」
ぼかし屋の作品例として、貝桶や牡丹の模様の振袖を紹介いたします。



① 貝桶文様振袖 衣桁にかけたところ。

 お嬢様とお母様、お二人のお話を伺って図案を構成いたしました。
「何か古典柄を」というご希望に合わせ、婚礼道具の貝桶を中心に牡丹や菊などを彩りにした柄行きです。地色はお好きなサーモンピンクの濃淡と淡いクリーム色のぼかし染めです。



  ② 模様の一部を拡大したところ。

 生地の地紋(生地自体に織り出されている模様)は振袖ならではの華やかな牡丹唐草です。貝桶表面の模様に地紋と同じ形の牡丹唐草を用いました。このように地紋を利用して友禅模様を染めだすことを「地紋起こし」と言います。
 せっかくの誂え染め。何かに因んだ模様であったり、いわれがあったりすると楽しいものです。
「大人っぽい雰囲気」がご希望だったので模様は全体に落ち着いた色合いです。



  ③ 貝桶文様振袖 姉様畳みにしたところ。

 着物を紹介する時は写真①のように衣桁に掛けて背中側から写すのが一般的ですが、本来は帯に隠れるはずの背中部分が写真の中心になってしまい、着用時のイメージを掴みにくいという欠点があります。
 ぼかし屋ではお客様にご覧いただく時に、写真③のように姉様畳みをよく利用しております。実際に着用した時の着物の柄行きや色取りが分かりやすいためです。
 ぼかしの染め分けを利用して、上半身の上前はサーモンピンク、下前(右胸側)は淡いクリーム色に染めました。片身替わりの着物のような効果で、着用時に立体感が出ます。
 この振袖のように裾へ行くほど地色が濃くなる地染めを「裾濃」(すそご)と言います。たとえば気軽な付け下げなどの場合でも、地色が裾濃になっていると立ち姿が映えます。



  ④ 上半身の拡大

 左の前側(上前)には衿から袖先まで絵羽で模様が連続しています。それに右袖の後ろ側も身頃から袖先まで絵羽模様になっていますので、お召しになると、「お花がたくさん」です。
 全体の色のバランスを良くするため、袖の地色にも濃いサーモンピンクやクリーム色が使いました。落ち着いた色合いの模様に、ぼかし染めで三色に染め分けた地色の効果で、明るい華やかさのある振袖となりました。
 創作一点物ですから、ご注文下さったお客様だけの色、柄行きです。 このページにはお客様のご了解をいただいて掲載しております。
 この振袖の制作工程もいずれ紹介したいと思います。
ぼかし屋の作品紹介 | 11:28 PM | comments (x) | trackback (x)
東京手描友禅の色留袖 「几帳模様の色留袖」

 ぼかし屋の東京手描友禅から色留袖の作品紹介です。ホームページ上でも掲載しておりますが、このブログでは細かい模様をご覧いただけるような写真を掲載します。



  「几帳模様の色留袖」

 綸子の生地を使用した五つ紋付きの色留袖です。
格の高い礼服として比翼仕立てになっていますので、黒留袖と同等の格でお洒落なさりたい方に向いています。明るめの紺地で、裾模様にぼかし染めを使っていますので立ち姿が映える意匠です。 



  上前の裏側。裾回しと比翼

 留袖なので模様は裾部分だけ。袖や上半身は無地です。
五つ紋を意識した模様構成です。風にたなびく几帳に鳳凰が飛び交い、牡丹や菊を雲取りと共にあしらいました。几帳の後ろには御簾を重ねてあしらい、模様に奥行きをだしています。





 あまり金銀は使わずに、粋に色で表現するのが東京手描友禅です。この留袖もほとんで彩色して描いております。鳳凰が軽やかに舞うように図案を作成いたしました。

ぼかし屋の作品紹介 | 11:54 PM | comments (x) | trackback (x)
 東京手描き友禅、ぼかし屋友禅の作品例、小風呂敷

 手描き友禅では訪問着や振袖など着物だけでなく小物類の染めも行います。友禅の小物類といいますと風呂敷や半襟、帯揚げなどなど。
 宮尾登美子さんの小説「序の舞」に、着物はもちろんのこと十二か月それぞれにちなんだ風呂敷まで誂え染めされていたという嫁入り道具についての描写があります。京都が舞台ですから京友禅でしょう。
 金沢には加賀友禅の花嫁暖簾を誂える習慣があるそうです。
 どちらもとても贅沢なことですね。
 友禅は絹であればどんな生地にも染まるので風呂敷やスカーフ、半襟、帯揚げなども染めることが出来ますので、東京手描友禅でも着物以外の染めもよく見かけます。ぼかし屋でも機会があれば小物も染めております。
 今回は小風呂敷の染めをした時のスナップ写真をご紹介いたします。


  糸目糊 生地は鬼シボの縮緬


   張り手に掛けた様子


   色挿し 模様は桜の一枝


   染め上がり アクセントに金彩をほどこしています。

※東京手描き友禅の染めの工程説明はぼかし屋友禅のホームページに詳しく掲載しております。「誂え染め、振袖」や「ぼかし屋の染めとは」をご覧下さい。


 一月九日 本日朝のぼかし屋ベランダからの眺めには驚きました。東京は昨日から明け方まで記録的な大雪だったので外が雪景色なのは予想通りでしたが、なんとベランダ上の庇に屋根からせり出した雪が垂れ下がっていたのです。



 長く東京湾岸地域に住んでいますが、これほどの雪は初めてです。
この部分が落雪した時はドスンッと重い音が響きました。落雪は本当に危険なのですね。
 東京23区の積雪は27cmだったそうです。地球温暖化で暖かめの冬に慣れてしまい、このところの冷え込みには驚いています。皆様の所はいかがでしょうか。
ぼかし屋の作品紹介 | 09:25 PM | comments (x) | trackback (x)
東京手描き友禅、ぼかし屋友禅の作品例

 ぼかし屋友禅が承るのは着物の誂え染めや染直しが多いのですが、時々名古屋帯も制作いたします。



 この名古屋帯は地紋が豪華な箔模様なので、地紋を生かすために写実的な柄を避け、三色ぼかし染めにアクセントの線と小さな切り箔を散らしました。



 地染のぼかしの色、朱、グレー、モスグリーンの三色を生かして切り箔も同じ色で作りました。かなり趣味性のつよい帯となっています。
 


 若い方なら朱色系の小紋に、ご年配の方ならグレ-か渋い緑系の小紋を合わせるとお洒落で、年齢を問わずに長く使えるように色目を考えました。地紋の銀糸が渋く光るので三色ぼかしが映えます。

ぼかし屋の作品紹介 | 10:49 PM | comments (x) | trackback (x)
 東京手描き友禅のぼかし屋の作品例はホームページ上に掲載いたしましたが、紹介出来なかった内容について、このブログでご案内いたします。

 今回は東京手描き友禅、誂え物の黒留袖の紹介です。


おめでたい貝合わせと貝桶の図柄の格調ある模様です。貝合わせの図柄には王朝風の女性を描き込み、貝桶には四君子として蘭、竹、梅、菊の模様を描きました。


上前の柄

 既婚女性の正装である黒留袖は高価ですから、そうそう何着も誂えるわけにはいきません。
そこでこの黒留袖も柄行きと色合いを若奥様からご年配の方までどなたでもお召しになれるよう工夫したものです。模様にはかなり多くの色が使われていますが、地色が黒なのでまとまりがよく、貝桶の背景色は落ち着いたピンクグレーなどに金彩をあしらっています。


後ろ(背)裾の模様

 ぼかし屋は友禅の模様挿しはもちろん、地色の引き染めも一人で行うのが特徴ですが、黒留袖だけは別で、地色の黒い色は専門の黒染屋さんに依頼いたします。この黒留袖も生地の一越縮緬に黒が冴え冴えと染め上がっています。
 誂え物の黒留袖の場合、五つ紋は「染め抜き紋」です。白生地のうちに紋の形を糊で防染しておき、染色作業が済んでから糊を取り除き紋の形に白く染め残った部分に、筆で紋を線描きするのです。もちろん専門の紋屋さんに依頼します。
 そういえば宮尾登美子さんの作品「陽暉楼」に、新年にあたり「売れっ子芸者は黒の冴えた新しい着物を、売れない芸者は染め返しや人のお古を着ている」という描写がありました。
 単独で見れば何ということがなくても、並べて見比べると染めや絹地の優劣が目立つのが黒色だと言われています。大勢の芸者さんが居並ぶ中で、新年の黒いお祝い着はそれぞれの売り上げ成績表のようなものだったというわけです。
 作家、宮尾登美子さんが着物に造詣が深いのは有名です。作品中に登場する着物の描写は大変細かく、私も読んでいて参考になることもしばしばです。
 「陽暉楼」の世界はさて置き、現代の一般の生活では黒留袖を着る機会は少ないので、お祝いの予定が出来て慌てタンスから出したら、退色していたりシミが出ていたりする事も多いようです。
 ぼかし屋では、ちょっとしたお手入れから本格的な染直しまで、ご相談を承っております。ホームページ上からご連絡いただけます。
 最近は結婚式でも着物姿が少なくなってしまいましたが、留袖や振袖といった礼服を始め着物は世代を超えて引き継げるので、上手にご利用いただきたいなと思います。

ぼかし屋の作品紹介 | 12:02 AM | comments (x) | trackback (x)

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