東京友禅は、ぼかし屋友禅へ

 
サントリー美術館で今開催中の、ちょっと面白い展覧会の紹介です。

まずはこちらを。華麗な手箱。
教科書にも載っていたりする国宝です。


浮線綾螺鈿蒔絵手箱(鎌倉時代)

両手でしっかり持つほど大振りな作りで、金地を埋め尽くしている螺鈿は剥落も少なく、新しかった時は揺らめくように輝く箱だったと思われます。

この工芸品だけなら、これまで国宝展などで見る機会はありました。今回の展覧会が面白いのは、手箱を保管していた箱も展示されていることです。


蓋の裏に手箱の由来が書かれていて、解説によれば、この手箱は北条政子の愛用品だったこと、火災や破損を免れ今日あるのは政子の霊力のおかげだと書かれているそうです。
箱は江戸時代1819年に誂えられたとのこと。
日本史上、有数の女性権力者だった北条政子、さすがの所持品です!


こちらは会場で撮影した写真。箱と手箱が背中合わせに見られます。一部の除き会場は撮影自由でした。有難いことです。

こちらは展覧会パンフレットの写真から。


同じく鎌倉時代の笛で、小男鹿丸という銘の「笙」
独特な形が安定するように作られた箱。箱は後世に作られたもの。葵のご紋が見えますね。

他にかの徒然草の巻と、それを納めた箱など、大変なラインアップでした。
元の箱が傷まないよう、後世さらに箱ごと収める大箱が作られたりしたのです。
現代の日本にも外箱も大切に思うセンスは受け継がれていますよね(^^♪

この展覧会はいくつかのテーマに分かれていて、箱以外にも、たとえば
制作時から姿を変えてしまったものを、元々の姿を思い浮かべられるようにした展示。


右は元は絵巻。左は元々は着物。いずれも今は掛け軸になっています。
絵巻は、持ち主が切り売りしてしまった場合が多いそうです。着物の場合は傷みに少ない綺麗なところだけを軸で飾れるようにしたのではないでしょうか。
どうやら左身頃の背側を切り取ったようですね。


江戸時代(17世紀)の「舞踊図」
元は六曲の屏風だったものを舞人ひとりずつに分けて額装されています。江戸初期のファッションがよく分かります。退色していない時は華々しい色調だったことでしょうね。

「よく見ないと分からない」という展示も。
さてこれは?


身分の高い武家婦人の夏の装いだった「腰巻」です。


一面の宝尽くし。じっと見ますと、当然ながらすべて手仕事の刺繍。一面にぎっしりと。


気が遠くなるような仕事ぶりです。

「腰巻姿」は現代ではほぼ見ることがないので、参考例を2点紹介します。


織田信長の妹であるお市の方


黒沢明監督の「隠し砦の三悪人」の一場面より
小袖の上に重ね着した腰巻を上半身だけ脱ぎ落してある着付けで、袖部分が腰の左右に張り出して、立ち姿が豪華になります。

「ざわつく日本美術」展は8月29日(日曜)までサントリー美術館(六本木)にて。
めったにない展示です。ぜひどうぞ<(_ _)>

展覧会ルポ | 04:54 PM | comments (x) | trackback (x)
これは友禅染の材料です。何でしょう?


答え→紙青花。単に青花とも。

植物から搾り取った青い液体を紙に含ませ、乾燥させたもので、友禅染の下絵を描く時に必要量を切り取り、水を加えて、滲み出た青い液体が下絵専用の染料になります。不要になったら水で洗い流して消せるのです。
貴重なものなので、一回の使用分に切り分けて


一枚ずつラップでピッチリ包み冷凍庫で長期保存いたします。


以前はもっと無造作に使っておりましたが、近年この紙青花は絶滅が危惧されております。

2021年の生産はもう見通せないと聞きました。
青花の最後の生産農家、中村さんがご高齢のため作付けが難しいそうなのです。

以前NHKの番組「日本の里山」で紹介された時、2016年8月3日の当着物ブログでも紹介しましたが、
http://www.bokashiya.com/blog/c8-.html
その時の写を一部ご覧ください。


青花と呼ばれている「オオボウシバナ


すべて人手、人手で育てて収穫



水で揉み、布で漉して青い汁をとります。簡単そうに見えてこの布で漉すという作業は重労働。

汁を紙に塗り込んで、乾燥させ友禅の材料の紙青花となります。


乾燥させると、ほら、最初の写真の紙青花に。


青花には「新花」という化学合成品もあるのですが、消えやすいことが長所でも短所でもあります。仮絵羽仕立ての白生地に下絵を描いてお客様に見ていただくには、紙青花は欠かせません。

かつては材料屋さんに行けばいつでも買えたもので、今は手に入りにくくなった物は色々ありますが、紙青花はその代表です。
もう来年も分からないのです。冷凍でどのくらい保存可能かは分かりませんが、極力傷まないようにして冷凍庫に仕舞い込みました。

青花にしろ、和紙の材料にしろ日本古来の美術品や工芸品を支える材料を生産してくれる農家へは、国による支援がなく、どこも生産の継続はとても難しくなっていると聞きます。
美術工芸品そのものは文化庁の、食料生産をする農家は農水省の管轄ですが、食料でない植物を生産する農業には監督官庁がなく、つまり保護を申請する先もないそうなのです。
「検討します」と言っている間に生産のノウハウは失われていくわけです(T_T)

東京手描友禅の道具・作業 | 09:24 PM | comments (x) | trackback (x)
東京手描友禅によるぼかし屋の紫陽花染め。

色挿し風景


色挿しして、まだ糸目糊が残っているところ
完全な出来上がりより、手描き友禅らしいところです。


六月の梅雨らしいお天気が続いています。梅雨といえば紫陽花なので紹介しました。


猫の額ほどのベランダにて。

今年は綺麗なピンクの花も咲きました。




紫陽花は季節性が強いので、模様になることは少ないのですが、着物や生活用品に時々見かけます。


江戸時代のピクニック用のお弁当箱、提げ重。(NHK日曜美術館映像より)
金蒔絵が紫陽花と野菊。実に細かい描写です。

やはり江戸時代の色絵の鉢。(東京国立博物館 常設展示より)


形が四角いのは、おそらく紫陽花の一つ一つが四角いことに因むのではないでしょうか。
内側にも花が染付けてあり、しかも絵具を盛り上げて立体的な表現です。


お重にしろお鉢にしろ、これほどの品を誂えるからには通年使用したはずはなく、六月のためだけの贅沢品だったことでしょう。

最後は紫陽花を描いた日本画の代表、山口芳春の「梅雨晴」


ググっとアップしますと、
花弁(本当はガクだそうですが)の色合いが美しいですね~


この絵は今 渋谷区の山種美術館で開催中の展覧会「百花繚乱」でご覧になれます。6/28まで
他にも近代の画家たちによる花の絵画がたくさん展示されています。


美術館のサイト
https://www.yamatane-museum.jp/

季節の便り | 09:34 AM | comments (x) | trackback (x)
本日のブログは、モナコ公国振袖制作のうち、染め工程ではないものの、手描友禅ならではの作業として「参考にした写真」のお話です。

友禅模様には、梅はこう描く、牡丹はこう描くといった型式があります。でもぼかし屋はせっかくの手描きなので、独自の表現の方をしたいものだと思っております。
ただ、面白いもので、写真そのものや、本物の花そっくりに写生した画が、そのまま着物の柄になるかというと、ダメなのです(^^;) 写実だけでは模様となったときに綺麗に見えない…
昔の諸先輩方が生み出した型式には、それなりの理由があるのですね。模様である以上、どんな花でも物でも一定のパターンを決め、それを繰り返すように描く方が綺麗に見えるのです。

だから作図する前には、この材料(花など)なら、どんなパターンで行こうかな、と考えることになります。

先方の希望で、今回の材料はバラ、カンパニュラ、王宮の3点。
作図中から彩色くらいまで、考えの参考になってくれる写真で机の回りはいっぱいになっていきます。
今回は、モナコ公国の振袖を製作した時の作業机の回りを記念に撮影しました。
上半身を彩ったバラのパターンの検討中、色々と目に付いた写真たちです。


グレース公妃の著書「My Book of Flowers」
からコピーしたピンクのバラ(左上方)を基本にしました。下中央にあるのは萩尾望都さんの著作「ポーの一族」から。一昨年の夏に銀座松屋で開催された「萩尾望都展」で購入したカレンダーの絵で、御存じエドガーとアランが豪華な赤いバラの花束を持っています。このバラの彩色も参考にさせていただきました


他に、ゴッホのバラ(左)安井曾太郎のバラ(右)


バラは作図してこんな感じに。
上半身はバラでいっぱいに、というご希望だったので、頭の中はバラ、ばら、薔薇でした。

カンパニュラの決め手となったのはこちら。


やはりNHKの番組から。日本の楚々とした桔梗とは違い、かなり大振りな青い花です。モナコのお隣、フランスの画像です。


バラとカンパニュラ、染め上がり生地はこんな感じ。

振袖のもう一つの要素、王宮。
モナコというとF1グランプリやカジノの画像はたくさん検索できるものの、王宮の情報は少なく、テレビ番組にも頼りました。
この画像は、モナコ王室専属シェフの方を取り上げたNHKBSのドキュメントから。


王宮正面とモナコを象徴するという2コブの岩山が写っていて、とても助かる情報でした。
中世以来の要塞でもあった歴史ある王宮は、堅固な岩山の上にそびえるお城です。ネットから、テレビから写真はたくさん撮りました。代表はこちら、

(旅行会社のネット情報から)

そして、こんな作図になりました。


ぼかし屋はアナログな伝統技法なので、作図は模造紙やトレシングペーパー、ペン、鉛筆で行いますが、当然、ネットやデジタルカメラの恩恵を受けております。
色々な情報を与えてもらえるのは有難いことです。

ぼかし屋の染め風景 | 07:32 PM | comments (x) | trackback (x)
さて刺繍が済み、すべての染色作業が終了しますと、最後の工程は仕上げの「湯のし」
東京手描友禅の本拠地である高田馬場の湯のし屋さん、吉澤湯のしさんにお願いしました。
金彩仕上げで使う顔料の水分は生地を歪めます。それに刷毛で擦ったり、刺繍屋さんで枠に張られたりしたことでも生じた歪みもあります。これを、蒸気を当てて矯正してもらうのです。


大きな専用の機械。ドラムからモクモクと蒸気があがります。


ゆっくり回るドラムの端には細かい針がついていて、生地の端を咬ませて回転させることで、生地が順に蒸気をくぐっていく仕組み。


白生地をして織り上がった時の生地の状態に戻してくださる技術で、これが本当の手加減。
手描き友禅だけでなく、着物の染めには不可欠な工程です。

湯のしが済んで、出来上がりの反物になりました。


最初に生地屋さんから届いた時の白生地はこちらでした。


同じ生地が、色と模様がついて着物生地となったわけです。
ビフォーアフターをアップでご覧ください。



刺繍や金彩が傷まないように紙やビニールをはさんで巻き取っているので、こう見ると海苔巻きのようですが、織り、染め、刺繍のカタマリです(‘◇’)ゞ


東京オリンピック関連して企画された、全出場国をテーマにした振袖を伝統技法で制作するというプロジェクト。東京都工芸染色協同組合を通じて参加、ぼかし屋はモナコ公国をテーマにした振袖を担当いたしました。たいへん勉強になる貴重な機会をいただき、関係者の皆さまに深く感謝しております。ありがとうございました。
次回ブログは周辺話題を少々(^^)/

ぼかし屋の染め風景 | 12:06 PM | comments (x) | trackback (x)
本日の着物ブログはテレビ番組2件、ご覧いただければというお知らせです。
両方ともぼかし屋のことではありませんが、まず最初の番組は
5月13日(木)夜8時からテレビ朝日 「警視庁捜査一課長」
友禅工房を舞台にドラマが展開するストーリーで、東京手描友禅の熊﨑和人さんの工房と染め道具がロケに使われ、番組中の友禅染の場面も指導なさったそうです。
職人組合である東京都工芸染色協同組合の先輩である熊﨑さんは、私、ぼかし屋から見ますと先生。東京の友禅を代表する作風で、江戸の風景を染めだした訪問着は実にです。
刑事モノの中にどのように登場するのか楽しみです(^^♪



次はあいにく同じ時間ですが、是非録画で。
5月13日(木)夜8時からNHK BS3「ヒューマニエンス“衣服”服を着るという進化」
この番組はヒトの進化について、毎回テーマをしぼって紹介する面白い手法で、これまでも「涙」「思春期」などを取り上げ、なぜそういうモノがヒトにはあるのか、どういう役割を果たしているのかを紹介していました。
今回は「衣服」服を着るという進化がなぜ起こったのか?を説明してくれそうです。

このブログは、ゆる~く着物全体を取り上げたいと思っております。それにしては、どうしても友禅染の話が多いのですが、今回はぜひ皆さまにもご覧いただきたいと考えました。
(‘◇’)ゞ
衣服の必要ない温暖地で生まれた人類が何故これほどゴタゴタと身にまとうようになったのでしょうね?
寒さ対策だけではないのかも。

お知らせ | 03:50 PM | comments (x) | trackback (x)
モナコをテーマにした振袖の二着目の制作では江戸刺繍をあしらっていただくことにしました。
友禅は華やかさがある染め上がりになるので、多くの場合礼装や晴れ着となります。江戸時代に友禅染が発達する中で、友禅染に刺繍を合わせて豪華さを出した振袖、小袖が多く登場してきます。
で!このたびの制作の機会に、刺繍で仕上げていただくことにしたわけです。

お願いしたのは江戸刺繍の猪上雅也さん
以前、他の方の友禅作品にあしらわれた井上さんの刺繍を見て一目ぼれし、機会があればこの先生にお願いしよう!と決めておりました。

一番のポイントは、背の中央に先方(モナコ公国)のご希望で入れた冠の形に金糸をあしらって豪華にすることです。



下部に生地の端が写っています。刺繍の作業台に糸で括り付けてあります。


まだ本仕立てではないので生地の耳が写っていますが、刺繍上がりを背中心で合わせると、だいたいこんな感じ。ピンクの糸も入り、冠全体が紋所として立体的になりました。
大きな刺繍紋といったところですが、実際に着装すると帯に隠れ、衣桁に飾ると目立つ場所です。

刺繡は他に、王宮と国花であるカンパニュラにも。
写真の右端に、刺繍の作業台に生地の耳が縫い付けられていますよ!


モナコの王宮もともと海に面した岩山を利用して作られた中世の要塞だったとか。
要塞がぷっつり途切れていて形が少し不自然ですが、右端は縫い代に入るため模様が途切れております。

地中海に面したモナコの青い空と岩山はモナコの風景に欠かせない要素。
空に翻るモナコ国旗も刺繍でグレードアップ。





王宮のシンボルとなる中世以来の塔は、石造りであることを刺繍で表現していただきました。
やはり全体を同じ調子で縫うのではなく、強調部分に刺繍をお願いしました。


猪上さんご自身で撚りをかけて糸の色合いや光沢をお作りになっています。
拝見した時、そうそう!こんな風にして頂きたかったんです!(^^)!と思わず猪上さんに申し上げたのでした。


ググっとアップして、
小さい部分ですが、ここが王宮の入り口。写真で見ますと、実際は両側に兵隊さんが立ち、重厚でものものしい入口のようです。この着物では遠景を描いているので、入口も小さく、着物の模様ですから、可愛らしくしました。
金糸の飾りがぴったりです。


写真に写りにくい花芯の白い刺繍がよく見えています。
カンパニュラの花芯や縁取り。


手描き友禅では、「すべてを同じようにするのではなく、それぞれに違えて全体で見たときにきれい」を目指すので、そもそも花の色合いが少しずつ違い、金彩の有無、刺繍の有無でさらに違いをつけます。
全体で見た時に強弱がつくように、重要な位置の花を豪華にしてあります。


刺繍をいれていただいた王宮とカンパニュラの裾模様。
こんな感じで、とお願いした以上に美しい刺繍をあしらって頂き、ありがとうございました。
<(_ _)>

ぼかし屋の染め風景 | 05:02 PM | comments (x) | trackback (x)
モナコ公国の手描友禅振袖 制作風景 19 仕上げの金彩

丸京染色さんの作業のために剥ぎ合せミシンで生地をつなぎ合せて一反の長い生地に戻して京都へ行った生地。糊を落として湯のしも済み、ピシッときれいな反物に戻った生地が京都から戻ってきました。


今度は解いて着物の形の各パーツの生地へとバラします。並べて位置関係を確認しながら、どの程度の金彩をほどこすか決めます。


くすんでいる糸目糊がとれて、湯のしで生地の光沢が戻り、とても華やか!
金彩の仕上げはいつも行うわけではなく、着物の用途や色調によります。当然今回は派手めに。

金彩と一口に言いますが、金色を使う仕上げ彩色のこと。金色や銀色の粉を顔料や接着用材と混ぜ、マスキング用のフィルムや刷毛、筆を利用して生地に彩色するのです。手描き友禅の最後のお化粧といったところです。


左端に写っているのはマスキングフィルムカット用の道具。カッターの刃に電熱が通り、フィルムだけが切れて生地には影響しない程度の電熱が通り、熱さを利用して絹の上に張ったフィルムを模様の形に切り抜くことが出来ます。

このカットの作業を、私の師匠であった早坂優先生は、熱を使わず刃を直接フィルムに当てて、指の加減だけで切り抜いていました。すぐ下に絹生地があるのにですよ!
「修行時代には電熱カッターなんて無かったからね」とおっしゃっていたものです。
私はとても真似できません。専用の道具に頼っております。
師匠が今もお元気だったらな、と思うことは多いです。

生地にフィルムを貼って


模様に沿って切り抜き


銀色の粉を刷毛ぼかし

済んだら、フィルムを剥がします。銀色の吹雪をアクセントにしました。

金や銀も色の具合は色々。自分で調合します。


このままでも綺麗ですが、


華やかなバラのアクセントには、やはり光の強い金色で、花びらのうち、強く見せたいところに筆描きで金線を加えます。

立体感が出て、強い印象になります。
(金彩の方法は製作者により様々です)

彩色したところが乾くまで少々時間がかかります。
衣桁も動員して部屋中に広げながら作業します。華やか~な室内となります。



ぼかし屋の染め風景 | 10:58 PM | comments (x) | trackback (x)
モナコ公国の手描友禅振袖 制作風景 18 丸京染色さんの作業

伝統工芸品としての着物は染め職人だけで作れるわけではありません。
手描友禅だけでなく、型友禅や小紋染、色無地でも、生地に色をつけたあと、
色(染料)を生地に蒸気で蒸して定着させる「蒸し」、
染めに使った糊や余分な染料を洗い落とす「水元」(みずもと)
作業によりシワシワ変形した生地を、織上がりと同じ正形に戻す「湯のし」が必要です。

そういう工程を担ってくれるのが「整理屋さん」
今回の工程では、京都市中京区の丸京染色株式会社さんにお願いしました。


生地を屏風畳み状にセットして


大きい蒸気の蒸し釜で蒸します。

蒸し上がったら、こんな広い所で生地を洗ってくれるのです。

以上3枚は2016年にNHKBSで放送された着物の番組の丸京染色さんを紹介する映像より。

ここからは今回、丸京さんが撮影して下さった写真です。


「水元」(みずもと)の真っ最中


生地を洗うため、作業場にプールのような水槽がありまして、そこを汲み上げた地下水がたっぷり流れているのです。
とても贅沢な最高の水元です。


鯉のぼりではありませんが、生地が気持ちよさそうに泳いでいます♪

生地にブラシ掛けして糊をよく落とす作業をして下さっています。
職人さんはずっと水の中!!


この振袖は地色が真っ赤だったり真っ白だったり、濃い緑もありますので、洗うのは大変なのです。ブラシ掛けなどが甘いと!赤い染料が白地のところに移ったりしてしまいます。

きれいになれ~~


生地目を整える「湯のし」も済んで京都から戻ったところです。
(湯のしの詳細は今後ご紹介しますね)


一箇所も色移りすることなく、ピッシリ仕上げていただきました。
<(_ _)>


糸目糊が落ちて、跡が白い線になっています。
白い線が糸のように見えるので手描友禅糸目友禅とも呼ばれる由来です。


一巻の反物で戻ったところを座敷にグルグルと広げてみましたよ。
六畳間いっぱい、長い長~いものですね、あらためて。

丸京染色さん、お世話になりました。
次回はここに金彩などの仕上げを施す最終工程へ進みます。

ぼかし屋の染め風景 | 06:09 PM | comments (x) | trackback (x)
友禅染の花、色挿しが済んだモナコ公国の振袖。
色挿しで使用した色試し布のうち見栄えのよいものだけ並べて記念撮影


生地も並べて最終チェック。ビニールを被っているのは塗った染料が他に色移りしないように。


この状態は生地に生の染料が浸みているだけで、定着していません。これを大きな蒸し釜で蒸して 糸の芯まで染料を蒸し通らせて色を定着させるせ、さらに「糸目糊落とし」をするのが次の工程です。
アップ写真で糸目糊をご覧下さい。


手描き友禅は「糸目友禅」という別名があるように、糸目糊で線を引き、それを防染(色が混じらないようにする)に利用して多様な色合いに模様染めします。
この糸目糊を落としてもらうのです。

こういう作業をしてくれる業者さんを「整理屋さん」と呼びます。
今回は京都の丸京染色さんという整理屋さんに、この工程をお願いします。
さてその準備。



染める時は衿や衽(おくみ)を裁ち切り、別布を当てて染めやすい形にしています。
整理屋さんに依頼する時は、それをまた元の反物状に縫い戻します。


剥ぎ合せミシンが活躍。
衿と衽は長い距離を延々と縫います。


染めではないもののコレはこれで、一仕事です。




こうして生地は一巻の反物に戻りました。


丸京さんへ宅急便で出発です。

ぼかし屋の染め風景 | 07:12 PM | comments (x) | trackback (x)

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